第17話 荒野を旅する手段は鋼鉄の箱へ
更に二日後、エイムズ研究センター跡から南へ五〇〇キロメートル程の所に来た。
この辺りは地下水が通っているのか比較的緑が多く、そこそこ背の高い木々もちらほら見られた。
「んでここがアームストロング飛行研究センターか」
メルが次に指定したのはアームストロング飛行研究センターであった、指し示すまま向かってみれば。
「またデューンかよ」
エイムズ研究センターの時と同じくデューンの下だった。前回と同じくスコッチに頼んで潜ってもらったが、やはり徒労に終わった。
「ちなみにここから一番近いのは東なんですけど」
東はデューンである。スコッチが「また潜るか?」と聞いてきたが、どうせ無駄なので気持ちだけもらっておいた。
「こりゃ浜辺に近いところはほとんどダメかもな」
「ですね、実はNASAの主だった施設ってほとんどが海に近い所にあったんです」
「内陸部にはなかったのか?」
「二つあります。一つ目はグレン研究センターと言ってここから三七〇〇キロメートルも離れた所にある施設、二つ目はマーシャル宇宙飛行センターというNASA最大の施設です。ここからなら三〇〇〇キロメートルですね」
「次はマーシャルてとこにするか」
メルの指定ポイントを手持ちの地図に照らし合わせるのだが、生憎指定した所は地図の範囲外だった。
後で地図を買わなければいけないと思いつつ、そのまま地面にザックりとしたポイントを書く。
「遠いな」
ものすごく遠い、この一週間で移動した距離よりも遠いくらいだ。移動だけで十日は掛かるだろうし、何より燃料が持たない、地図の範囲外なので補給できる場所がある保証もない。
「これは鉄道を使うしかないな」
「鉄道ですか! それってレールの上をガタゴト走るアレですか?」
「そうだけど、地球にもあった?」
「主な交通機関でした」
「へぇ……じゃあまずは駅に行くか」
こうして次の目的地が決まった。ちなみに近くの駅までは六時間程でその日のうちに辿り着いた。
駅に着いたのはいいが、今度は夜遅いので宿を取らなければならない。宿場町でもあるここで宿を探すのだが見つからない。正確にはどこの宿も埋まっていて泊まれないのだ。
「すまないねぇ、今日はもう満員さね」
と恰幅のいいおばちゃんにお断りされてトボトボと道路にでる。
既に五件目だ。疲れたので一旦サルーンに行って食事をとる事に。
「疲れた」
「ですね」
「諦めて野宿するしかねぇな」
と三者三様にテーブルにつくなりぐてーと伏せる。とりあえずウェイトレスを捕まえて軽食と水を三人分注文する。
「なんでこんなに人が多いんだよ」
心の底から湧き上がる疑問であった。
「やっぱりいつの時代でも交通機関のある所には人が集まるんですね」
とメルがしみじみ呟いた。
「いや嬢ちゃん、それにしてもこれは異常だ」
「だよな、俺達が前ここに来た時は普通に宿に泊まれたもん」
先月の話なのでこんなに早く劇的に変わってるとは思いもしなかった。
とか何とか嘆いてるうちにウェイトレスが出来上がった軽食を持ってきてくれた。なんてことない普通のシチューとパンとサラダだが、屋根のある所で食べるだけで美味しく感じられた。
「まあ野宿しかないですね、ここしばらくずっとそうだったじゃないですか」
あっけらかんとメルは言うが、ヨハンはわかってないなと言いたげに「チッチッチッ」と舌を鳴らした。
「いいかいメルさんや、同じ野宿でも周りに街がないから仕方なくするのと、宿が取れないから街の外で街の灯りを見ながら野宿するのとでは大いに違うのだよ」
「ヨハンの言う通り、後者は妙に敗北感が湧き上がってきて中々精神的にくるものがある」
「いやいや、大袈裟ですよ」
そんな馬鹿なと一笑に付すメルであるが、直ぐに後悔する事になる。
その日の深夜。街の外でいつものように野宿をしていると、不意にメルが起き上がってぼんやりと視線を街に向けてボソッと呟いた。
「ほんとにこれは辛い!」
謎の敗北感が湧き上がってきた。
――――――――――――――――――――
朝になった。荷物をまとめていざ駅へ。
「人多いな」
ホームにはこれから汽車に乗るだろう人達がひしめき合っていた。大体八十人くらいはいるだろう。これだけの人が宿を取ればそりゃどこも満員だろうなあと理解した。
駅員に金を渡して切符を買い、バイクと荷車は貨物車に持っていく。駅員に預けた後再びホームへ、しばらくすると線路の向こうからプオーンと汽笛の音を鳴らして黒光りする巨大な箱型の機関車が現れた。
「どうやら到着したらしい」
「俺、機関車って力強くって好きなんだよねぇ」
「私動いてる機関車を見るの初めてです」
それぞれ違う感想を抱きながら鋼鉄の列車が煙を上げながら接近するのを迎える。
ホームに止まると、直ぐ様貨物車との連結作業と補給整備が始まり、その間にホームにいた人達は我先にと車内へ駆け込んで行く。早く座らないといい席はとれないゆえだ。
「俺達も早く行こう」
「はい!」
とスコッチが急かすしてメルも同調するが、ヨハンは一向に動く気配がない。
「おいヨハンどうした?」
「フッフッフ、これを見よ」
得意気にそう言って取り出した物は一枚のチケットだった。何の変哲もない乗車チケットに見えるが、スコッチはそれを見て驚きの目をした。
「まさかそれは!」
「お察しの通り、これは個室のチケットだ!」
「お、おおおお!」
ここしばらくクールでストイックな表情を見せなかったスコッチが、初めて驚きと喜びの表情を見せ、感動の声をあげていた。
喜ぶのも無理はない。個室のチケットを取ったということは席とり合戦に参加する必要が無く、かつ密室で足を伸ばしてくつろぐ事ができるという良い事づくめ。
「昨日の夜こっそり駅に行って駅員にお金渡して買ったんだ」
つまり賄賂である。
「これから半日、悠々自適な機関車ライフを過ごすぞぉ!」
「おー!」
「最高だぜ」
周りから若干恨めしげな視線を浴びながら個室へ、三人入ると流石に手狭だがベッドが四つあるので一つを荷物置きにして、それぞれベッドで横になる。
今頃一般席では小さな椅子を取り合って争いが起きてることだろう。
実際しばらくして席とりの争いが発展して銃撃戦になってしまったらしい。個室をとっといてよかったとヨハンとメルとスコッチは心の底から思った。
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