第3話 佐倉乙姫、佐倉乙広
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約四百八十万円。
これが、中学生である俺達が一月に稼ぐ金額だ。
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「乙広、宿題見せて!お願いします!」
そう言って乙姫は俺の鞄を漁り始める。
「乙姫、俺の宿題見て写したいだけじゃん…。自分の力でやんないと自分のためにならないよ?」
「それはそうだけど、いいじゃん別に。私の方が頭いいんだし」
乙姫は、勉強に関しては頭がいい。いや、これでは少し語弊がある。乙姫は、記憶力がいい。この前のテストも、勉強していないのに、学年一位の成績をとっている。間違えたのは、テストのオリジナル問題のみ。一度見たものは基本的に忘れることはない乙姫にとっては、答えを見ながらテストを受けているようなものだ。
だが、これでは自分の考えを持たないやり方となる。暗記系のテストならそれでいいが、国語等の文章問題で、初見の問題を見た時、乙姫はその問題が解けるかは分からない。
「そうだ乙広、私昨日寝る時いいこと思いついたの」
その時乙広は、乙姫が何を言うのか分かり、とても悲しくなる。
「今度盗む家なんだけどね、同じクラスの結ちゃんの家がいいと思うの!」
乙姫はそれを嬉嬉として語り、完璧な計画を発表した。
最初は内気だった乙姫だが、八坂景からのカツアゲにより、だんだんと壊れていった。
計画を発表した乙姫は、やがて死んだような目で布団へと潜った。
「あははははは!いいじゃーん!結ちゃんお金持ちだし、少しくらい盗られても気づかれないよぉ。なんならビッチだってあれは!リアルであんなかわいいのとかいないもん!」
乙姫はしばらくの間笑っていたが、やがて疲れたのか、そのまま眠ってしまった。
「…乙姫、なんで俺達、こうなっちゃったんだろうな…」
誰にも聞かせたくない一人言を、俺は言っていた。
その時、母が俺を呼びにきた。
「乙広、お友達が来てるわよ」
誰だろうか。今日は誰とも約束していないはずだが。
そう思い、乙広は玄関へと向かった。
だが、悲しいことに、玄関に立っていたのは、友達ではなく、カツアゲ犯の八坂景だった。
「よう、乙広」
そして彼は俺に近付き、小声で言った。
「俺さ、今欲しいのがあるんだけど、五十万、貸してくんない?」
俺はさっき、乙姫が壊れている姿を見たばかりだ。
こいつをここに長居させたくないと思い、部屋から金を持ってきて渡した。
「ありがとよ。この後飯でも行かねぇか?おごってやんよ」
俺はこいつが嫌いだし、一緒にいるメリットがない。
「今日は家族で飯を食う約束してるんだ」
嘘の情報を景に教えた。
「ああ、そう。じゃあな」
そう言って景は帰っていった。
キッチンに行き、ジュースを飲んでいると、母が声をかけてくる。
「遊びに行くんじゃないの?」
誰があいつなんかと。
「貸してたもの返してもらっただけだよ。それだけ」
そして俺は部屋に戻った。
「一月四百八十万円、か」
意味もなくそう呟いた。
ベッドの上で、乙姫は気持ちよさそうに寝ている。
「もうすぐ終わるからな」
そう言って、乙広は本を読み始める。
だが、さっきのこともあり、一気に疲れが出たのか、乙広も意識を保ってはいられない。
そして眠りにつく寸前、乙広は思った。
決行日は、八日後だ。
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