第9話
車を走らせながら
あの頃を思い出している
復帰後 事情を知る同僚たちは
暖かく僕を迎えてくれた
兎沙の記憶だけが消えて
仕事に支障をきたすことは
何もなかった
時々 なんとも言えない悲しみが湧き上がることに 不安はあったが
処方された薬とカウンセリングで 普段の生活は可能になった
翌年の夏
僕は今の妻 沙奈江と巡り合う
彼女はひとつ歳上で 語学が堪能だったから 通訳や翻訳の仕事を持っていた
兎沙とは反対にオトナの女性と言う感じがする
彼女と居ると僕は落ち着いた
記憶が欠落している事情も 理解してくれた
沙奈江と居る時間が長くなるほど 毎日が安定していくのがわかる
結婚する頃には 薬も不要になっていた
子供には恵まれなかったが
僕たちはそれぞれの仕事や趣味を尊重し合える
良い関係を保っている
高速道路に入る手前の信号待ちで
ふと、兎沙の「さ」と沙奈江の「さ」が同じ漢字だったんだと 気がつく
偶然かもしれないが 運命を感じるのは 可笑しくないよなと
独り呟いていた
信号が青に変わり
僕は朝の高速道路を
FMから流れる 爽やかな曲に耳を傾けながら
東へと走った
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