第5話

雑音の中に むにゃむにゃが聞こえる

突然、「こうちゃん?こうちゃん?」

寝ぼけているような

酔っているような

曖昧な発音だけど

なぜか懐かしい声だ

「うん、うん、そうだよ」

謝るつもりが つい答えてしまった

「雨 降ってるぅ?」

「いや、曇った感じだけど 暑くなりそうな夏の朝だよ…」

「ふぅ〜〜ん」


会話の途中

彼女はうとうとしているらしい

(やっぱり寝ぼけているんだ…)

ただ これだけの会話に数分


その日から

僕のモーニングコールが始まった


朝の数分

まるで約束したように

まるで義務のように

そして

まるで愛しい恋人が

僕のコールを待っているかのように

彼女の名前さえ知らないまま


僕の毎日に変化が起こっていた

胸騒ぎがする

遠い記憶……

急に頭に浮かぶ白いキャンパス

輪郭も色も描かれていない

何かが…


7日目の朝 いつものように

携帯を切ろうとした時 急に彼女が

「こうちゃん 愛してる?」と

以外にハッキリした声で言った

思わず

「うん、とてもね」と

スラリと答えて携帯を切った


そのあと 目に溜まった涙に

驚くこともなく

僕は ただ 涙を拭った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る