想像以上
~ユリウス・ベッジの日記~
私の生徒から預かったこの破片、最初は何かの道具だと思っていた。器や石包丁などの日常的に使う道具だと。だがどうも違う。
なら儀式の道具か、だとしたらどの様に使ったのだろうか。私はここを常々考えていた。
ここに記すのは今日行った実験の事だけを書く、他のやり方は間違っていたからだ。
私は今日、あの破片で物を切ってみた。紙や肉、枝などを。
すると見た目からは考えられない程の切れ味だった。紙は真っ直ぐ、肉は引っ掛からず、枝は何の抵抗もなく。
間違いない、これは刃物だ。それも何百年かも分からない代物なのに切れるのだ。
私はこの事から、破片に付いた血は生物を切った時に付着したとすぐに考え、そして試した。
人間ではないぞ、当然マウスだ。ほんの少しだけ、僅かに赤い線が入るくらいの力でマウスの肌をなぞったのだ。
するとどうした事か、その傷とも言えぬ赤い線から血がどんどん溢れてくるではないか! まるで分厚いナイフで深く刺したかの様に!
すぐにマウスは死んださ。私は生物を専攻していないから、生体に関してはからっきしだ。
だがあの血の溢れかえりようは、例え男に棒が生えている理由を知らない子どもですら、もう死んだと理解出来ただろう。
ひどい血だった、恐らく身体中の血が抜け落ちた。そんな風に思いながら私は死体を片付けようと手を伸ばしたのである。
――だが事態はそこで終わらなかった。
マウスに触れると、その触れた部分の毛がごっそりと抜け、手に絡み付いたのだ。
そして毛が失くなり、露となった皮膚にはヒビが入っていた。まるで爬虫類の動物が脱皮するかの様なヒビが……。
私はすぐに死体を掴むと何も入っていない水槽へと沈めた。訳も分からなかったが、私は咄嗟にこの行動を取った。
それが良かったのかどうかは分からないが、それっきりマウスはピクリとも動かず、ヒビが入るのも止まった。
私はこの破片が土器ではなく、何かの鱗ではないかと信じ出していた。なら何の鱗なのか……。
私は踏み込んではいけない場所にまで来ているかも知れない。
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