利用価値

 彼の研究は一つの破片から始まった。


 

 遠い熱帯雨林の遺跡へと探索できた頃、一緒に居た生徒が見つけた翡翠色の掌ほどの破片からだった。


 陶器か? だが陶器には見えない、ならこれは一体何なのだ。



 最初はその見つけた生徒が持ち帰って、卒業論文の為に研究していた。だが戦争が始まり、生徒は徴兵された。


 戦地へと赴くほんの数日前に、ユリウスは受け取り代理として研究を始めたのであった。




 進めて行く内にこれが陶器では無いのは確実となった。なら何なのか、色々考えたが一番しっくり来たのは突飛な思い付きだった。




 これは生物の鱗では無いか?




 この大きさの鱗を持つ生物など誰も知らない。だから彼はこの不思議な破片に恐ろしく惹かれたのだ。


 これが生物であったのなら……、恐らく永遠の歴史に名を刻む事になるだろうと密かに細く笑んだ。




 ――だがこれは生徒の物だ。それにこの研究も近い間に終わりを迎えてしまいかもしれない。


 もし続けるとしたら、戦争で使える事を証明しなければならないだろう。だがこれでどう人殺しが出来るのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る