第7話 きっかけなんて、そんなもん

 わたしは今、ソラきゅんに抱き締められている。優しく包まれている。けれど背中に回されている二の腕がしっかりしているのも、触れている体が丈夫に仕上がっていることも伝わってくる。

 体のつくりが、わたしとは全然違う。

 わたしと身長が変わらないけれど、力は絶対に敵わない。

 あんなに軽々とわたしを持ち上げるソラきゅんは、わたしより強いに決まっている。

 わたし、あんなにソラきゅんかわいいって思っていたけど……。

 かっこいい男の子なんだよね……。

 女の子を守れるし、しっかり守ってくれる、強くて優しい男の子。


「ソラきゅん、あのね……」

「うん」


 短くても力強い返事に、わたしの心は落ち着いた。


「わたし、ソラきゅんのこと好きだよ」

「うん」

「今は男の子として、好きだよ」

「うん……んっ?」

「わたしは最初……ソラきゅんのこと、二次元のキャラクターを見るような目で見ていたの。オタクのわたしはソラきゅんに萌えていたの! 歪んでいたんだ、わたしのソラきゅんに対する好意は……」

「……」


 ソラきゅんが黙っちゃった……!

 でも続けなきゃ。


「わたし……ソラきゅんを見る度に、かわいいって思っていたんだ。昨日は、そんな気持ちが爆発して『ソラきゅんが好き!』って叫んじゃったの。あの言葉は告白じゃなくて、教室に戻ってきた友だちに向けて言ったつもりだったんだ。ソラきゅんが来たって、わたしは分からなかったの! ただのっ……オタク特有の、気持ちの悪い独白」

「琴梨が俺を好きになってくれたというのには変わらないだろう?」

「えっ……!」


 ソラきゅんはわたしの言葉を遮った。耳にソラきゅんの吐息が触れ、またドキッとした。今日はソラきゅんのおかげで心臓が危ない。


「きっかけなんて、そんなもんだと思う」

「でも……」

「というか今さら嫌だよ。俺は、もう琴梨が好きで好きでたまらないのに」

「そんな……」

「あれを告白だと勘違いした俺は、こんなにも琴梨が好きになっているんだ。確かに俺の恋愛はマヌケな始まり方だったよ。でも今、琴梨と一緒にいるのが楽しいんだ。だから……」


 そのとき、ソラきゅんの手の力が強まった。わたしの心が、また震えた。


「改めて、これからよろしくお願いします」


 ソラきゅんっ……!


「……うんっ……。本当に、ごめんね」

「いや……勘違いして舞い上がっちゃった俺の方こそ、ごめん」

「ううん。わたしの独り言を、あんなにも喜んでくれて……ありがとう」


 わたしは嬉しくなって、思わずソラきゅんの腰に手を回した。そしてキュッと抱き返した。


「改めて、わたしはソラきゅんが好きです」

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