第6話 泣かないで、お姫様
一緒に教室へ向かいたかったな……。
いや、でも琴梨には琴梨のペースがある。
「何だよソラ! お前、少しはキャッチしろよ!」
体育の時間も琴梨で頭がいっぱいな俺は、ドッジボールで片っ端から避けていた。琴梨を見て、ボールを見て……さすがにボールを取って投げるまではできない。
「くそっ、これでどうだ!」
奴は、どうしても俺をアウトにしたいようだ。
仕方ない。
そこまで俺と勝負したいなら……来い!
俺は相手チームを見て構えた。
どんなボールだって取ってやる!
「あっ……」
しかし、その俺の構えは数秒で解かれた。ボールが放たれたのと同時に、遠くで彼女が倒れたからだ。俺は見逃さなかった。
どうしても気になってしまう。
ずっと目で、一人の女の子を追ってしまう。
「琴梨!」
俺はボールを避け、すぐに琴梨の元へダッシュした。ドッジボールなんて、いつでもできる。
勝負より琴梨が大事だ!
「ソラきゅん……きゃっ!」
ごめん琴梨。
恥ずかしいかもしれないけど、俺は琴梨を早く助けたいんだ。
体育館にいる全員が俺たちを見ている。まあ、それくらいは許してやろう。でも、
「うるさいっ! 人一人怪我したんだぞ! 笑うな!」
琴梨を笑う奴は許さない!
俺は保健室に向かう前に、おもしろがっている無神経極まりない奴らを一喝した。
「先生っ! 開けてくださいっ!」
アクション映画か何かの道場破りの如く、保健室の前で先生を呼んだ俺。先生は抱き抱えられてる琴梨についてノーコメント。これ以上、琴梨が嫌な思いをせずに済んでホッとした。
すぐに手当ては始まり、俺は見守っていた。
……琴梨の足が色白で華奢で、つい見とれてしまったなんて不謹慎で言えない。
「先生ぇーっ! 大変です!」
手当てが終わると、ある男子生徒が慌てて保健室に入ってきた。体調不良者が出て、先生を呼びに来たという。その生徒を追う形で先生は保健室を出た。
その去り際に先生が残していった一言を、俺はこの先ずっと忘れないだろう。
「あとは頼んだわよ王子様」
王子様っ?
俺が?
これには赤面した。今まで縁のなかった言葉に、戸惑いを隠せない。
こんなちんちくりんが王子様なんて……!
「……うっ」
そのとき、琴梨が泣き出した。俺がフワフワしてしまった自分自身を殴りたくなったのは言うまでもない。
「こ、琴梨? まだ痛むか?」
「……ごめんなさい……」
「え! 何が?」
「ソラきゅん、わたし実は……」
どうしたんだ?
何があったんだ?
「うっ……うう……」
琴梨……。
「……きゃ」
俺は琴梨を抱き締めた。
さすがに引かれてしまっただろうか。
さっきから「琴梨、琴梨」と体が勝手に動いてしまう。
「……ソラきゅん……」
「ゆっくりで良いから……俺、ちゃんと聞くから大丈夫だよ」
「……ありがとう」
琴梨から感謝の言葉を聞いて、俺は少し安心した。
俺は嫌われていない……はず。
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