第5話 ごめんなさい、王子様
昨日のアニメ『ネイビーレイン』は大好きなジュライが活躍する回だったのに全然頭に入ってこなかった……。まあ録画したし、また改めて見よう。買い忘れちゃった週刊チャンポンは、きっとクラスメートの誰かが持ってきているだろうし読ませてもらおう。最低でも『ネイビーレイン』最新話はチェックしたい。
「はあ……」
何であんなことになってしまったのだろう。
「琴梨おはよう」
「ひゃっ!」
ずる休みしたかったな……と思いながら靴箱に手を伸ばしたとき、爽やかな挨拶が響いた。
「あっ、ごめん! 大丈夫?」
「う、うん! 全然気にしないで! おはよっ!」
つい早口になっちゃった……。
だって別に悪いことしていないのに、わたしを心配そうな目で見るんだもん。
先に悪いことをしたのは、わたしなのに。
変な感情を持ったうえに、勘違いさせてしまったバカ女なんかに謝らないで……。
「一緒に教室に行きたいけど……それは、まだ恥ずかしいか?」
「え!」
……ねぇ、ソラきゅん優しくない?
何でそんなに優しくしてくれるの?
「え、えーと……」
「……ごめん、悪かった。無理しないで良いから」
わたしがグズグズしていると、ソラきゅんは淋しそうに先に行ってしまった。
「あっ……」
わたし、何てことをしているのだろう。
バカみたい。
あんなに優しい男の子を困らせてばかりなんて。
もうやめよう。
この先、わたしは彼に嫌な思いしかさせられない気がする。
謝ろう。
誤解を解こう。
「おはよっ、コトリン!」
「お、おはよう!」
「一時間目は体育だよ!」
「あーっ! そうだったね、急がなきゃ!」
ちょっと悲しい決意をした後、昨日のことを知らない級友と共に急いだ。
「みんな、自由に好きなスポーツをして良いわよっ!」
「はーい」
体育で、わたしは友人たちとバドミントンをすることになった。いつもなら楽しいのに、朝から気が重いせいか全くやる気が起きない。
「コトリンきたよっ!」
わたしは友人の声にハッとし、一歩踏み込んだ……のだけれど。
「あっ……」
足を捻って、バタッと倒れてしまった。
「イタッ……」
「琴梨!」
そのとき、いち早くわたしの元へ駆けつけてきたのは仲良しグループの誰かでもなく先生でもなかった。
「ソラきゅん……きゃっ!」
クラスメートのみんなも先生も、一人残らずソラきゅんとわたしを見ている。
なぜなら、わたしがソラきゅんにお姫様抱っこをされているから!
「何だよソラ、キザなことしやがって~」
「王子様気取りかよチビが!」
「ヒューヒュー」
数名の男子が笑っている。
もう嫌。
わたしのせいでソラきゅんが……。
「うるさいっ! 人一人怪我したんだぞ! 笑うな!」
ソラきゅんが怒鳴ると、一瞬で静かになった。そしてソラきゅんは、わたしを抱えたまま走り出した。
ソラきゅん、どうして……。
わたしなんかのために……。
「先生っ! 開けてくださいっ!」
わたしのせいで両手が塞がっているソラきゅんは、まるで道場破りのように保健室の前で先生を呼んだ。先生は「はーい」と返事をして、わたしたちの姿については何も触れなかった。
「あら、どうしたの?」
「飛永さんが体育で右足を怪我しました」
「大変。じゃ、こっちへ」
「これで良し……」
「ありがとうございます」
先生の手当てが終わった。ずっとソラきゅんが見守っていたけれど、先生の口から「戻りなさい」などの言葉は出てこなかった。
「先生ぇーっ! 大変です!」
突然の大声に、わたしたち三人はビクッとした。ガラガラと保健室の入り口を開けた男子生徒は、とても慌てている。
「まあ、どうしたの?」
「クラスメートが吐いちゃって……」
「分かった、行くわ。先に行ってて!」
「はい!」
男子生徒は去った。すると先生がわたしたちの方を向いて、笑顔でこう言った。
「あとは頼んだわよ王子様」
ソラきゅんもわたしも、それについて何も返せなかった。顔を赤く染めて黙ってしまった。そんな二人を見て先生はクスッと笑い、姿を消した。
王子様……。
「……うっ」
申し訳なさ過ぎて、一気に涙が溢れた。
「こ、琴梨? まだ痛むか?」
「……ごめんなさい……」
「え! 何が?」
「ソラきゅん、わたし実は……」
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