第8話 ずっと俺が守るから。

「何だこのちんちくりん! まだやる気か?」

「早く投げ飛ばされろよチビ!」

「あのちっこいの、マジしぶとい……」


 俺は幼いころから、ずっと諦めの悪い人間だった。喧嘩は倒れても絶対すぐに立ち上がって反撃したし、柔道だって体格差がどれだけあっても即一本負けすることはなかった。

 初恋も諦めない。

 琴梨を手放したくない。

 始まりは琴梨にとってはイマイチだったかもしれないけれど、それで終わりにしたくない。本当に大事なのは、これからだと思う。

 だから俺は琴梨に打ち明けた。自分の気持ちを全て正直に。


「ソラきゅんっ……」


 その結果、琴梨に俺の思いは伝わった……のだけれど。


「こっ……琴梨、ストップ!」

「へ?」


 腰に琴梨の腕が回された数秒後、俺は焦って琴梨の体を自分の体から離した。

 琴梨の気持ちはすごく嬉しい。

 でも……!


「……今さらだけど俺、汗臭いだろ? ごめん」

「えっ、そんな! わたしは全然……」


 そのときタイミング良くコンコン、と音が鳴った。


「入るわよ~」

 

 先生が、顔色の悪い生徒を連れて戻ってきたのだ。


「は~い飛永さん。あれから大丈夫から?」

「あっ、はい! ありがとうございました!」

「良かったわ~。悪いけど、そろそろ戻ってもらいたいの。この子の病気、もしかしたら大変なものかもしれなくて感染も考えられるから……」

「分かりました。じゃあ、わたしたち戻りますね」

「お大事にね~。大木くん頼むわよ~」

「は、はいっ!」

「失礼しました」


 保健室を出てから数秒後、琴梨の表情が再び暗くなった。


「……ちょっと怖いな。体育館に戻るの」

「変なことを言われたら、俺が何とかするから大丈夫だよ」

「ありがとう。ソラきゅん、わたし……」




 その後、体育館に着くと俺に怒鳴られた奴らが謝りに来た。優しい琴梨が許したところで、一件落着。

 それから誰も嫌なことは言わず、琴梨を気遣う者しかいなかった。




「わたし……ソラきゅんが王子様になってくれて嬉しい!」


 かわいい笑顔、一時間目から爆発し過ぎだろ……。

 今日も帰宅後は、やっぱり琴梨で頭がいっぱいだった。今は保健室から体育館へ移動中のときに言われた最強の一言が浮かんで赤くなっていたところだ。

 あと、あれは最も大変だった。

 昨日から気づいていたけれど。

 こんな男が王子様なんて申し訳ないけれど……。

 琴梨の胸、でっけええええええええええっ!

 何だよ、あの弾力!

 密着して、それが触れた直後は本当に焦った。琴梨を保健室に連れていくとき、おんぶは危険だから抱き抱えることにしたのに。抱き締めるときも、ずっと絶対に胸が当たらないようにと注意していた。

 まさか琴梨から近づかれてしまったなんて……。

 大きくてハリのある胸も立派だったけれど、色白な美脚もきれいだった。鍛えている俺とは正反対の、か弱い華奢な体。抱き上げたとき、すごく軽くて、それに甘くて良い匂いが漂ってドキッとした。少し長めのサラサラな黒髪も、艶があって魅力的だった。

 女の子は、あんなにも柔らかい体なのか……。

 琴梨……。

 これからずっと守る。

 絶対に。

 

「……おっ」


 心の中で誓うと、琴梨からメッセージが届いた。握っていたスマホをパッと目の前に持ってきて、すぐに俺は笑顔になった。


「今日は本当にありがとう! 明日、楽しみだね♪」


 明日は休日。

 俺は琴梨の家に行く。

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