湖の街(8)

 俺とユリウスさんは第七控室でベンチに並んで座っていた。

 ユリウスさんは水差しからコップに水を注ぎ、無言で俺に渡してくる。俺は受け取ってから、一気に飲み干して勢いをつけ、口火を切った。


「エレックは、無事なんですか」


 俺が見たのは魔法使いに止血の魔法を施された後、より細かい治療のために医務所に搬送されていく姿が最後だ。ユリウスさんは頷く。


「意識は戻らないが、回復はしたと聞いた。しばらく寝てれば起き上がれるだろう、ともな」


「そうですか……」


 ホッとした自分がいる。ユリウスさんはハリアの貴族だ。その権力で、回復魔法使いからの情報を仕入れてきてくれたのだろう。

 だけど、俺の疑問はまだ止まらない。


「デミアンって、何者なんですか。エレックは、どういう関係なんですか」


「前に話したとおり、デミアンは、俺たちと同じハリアの貴族の長子だ。そしてエレックは……ダグラス家の配下に『ついていた』、ケイロス家という下級貴族の息子だ」


「……『ついていた』?」


「ああ。詳しいことはわからないが、一族揃ってハリアからどこかの町へ移っていったんだ」


 そして、「本人が起きてから聞くと良い」と補足してコップに水を注ぐ。


「さっきはああは言ったが……棄権しても良いかもな」


「へ?」


「このあとの、デミアンとの戦いだ。……思っているよりも、デミアンは強かった。それに、ブロック決勝からは中央の大きい試合場で戦う。いざという時に、止めに入れないかもしれない」


 俺は空になったコップを握る。闘技大会で見てきた光景がフラッシュバックする。デミアンにやられて回復魔法虚しく死んでいった戦士。左腕に怪我をしたゾニ。大量の血を流しながら倒れたエレック。

 全て、他人事ではない。自分事だ。寒気のようなものが湧いてきて、身震いした。

 でも、それと同時に思い出す。俺は、ラーズに覚悟を教わったんだ。……『自分のために、自分の身を危険に晒す覚悟』を。

 ここで勝てば、俺は元の世界に帰るためのヒントを得ることが出来るかもしれない。あやふやな可能性ではあるけれど、それでもここまで旅してようやく見つけた手がかりなんだ。


 ……逃して、たまるものか。


「余計なお世話みたいだったな」


 そう言ったユリウスさんはコップの水を飲み込んで、それからため息をついた。


「これを使え」


 彼は懐から黒くて丸いピンポン玉のようなものを取り出して渡してきた。受け取った俺はそれを観察する。ゴムのような弾力があり、中は空洞。一箇所指先程度の穴が空いていた。


「エリスがこの短時間で手配してくれた。竜の肝で作った魔力の遮断膜だ。銀の首飾りのペンダントトップをこれにねじ込め。一日くらいなら光を隠してくれる」


「エリスさんが……。ありがとうございます」


 俺は早速そのゴムのようなピンポン玉にペンダントトップのリングをねじ込む。試しに手のひらの上に銀色の小さな竜巻を発生させてみたが、光は全く漏れてこなかった。


「……イカサマを、許容するんですね」


「今回は特別だ。だが、衆人環視の中だから今の竜巻や回復魔法は使うなよ。勝負がついた後に、自分の回復のためにでも使ったらいい。……元はと言えば、ガルムのおっさんの悪ふざけで参加したんだろう。そんなんで殺されるのも理不尽極まりないしな」


「……ありがとうございます」


「マーカスとエリスがどう思っているかは知らねえが、俺はお前を友人だと思っているよ。無事が一番だ。そんで、出来れば勝ってこい」


「ユリウスさん……」


 俺はペンダントを強く握る。

 嬉しかった。

 ここは俺のいるべき世界じゃないけど……それでも、こんな風に言ってくれる人がいることが。


「本当に、ありがとうございます。……そろそろ、行ってきます」



 闘技場内部から広場に出ると、すでに夕方になっていた。夕焼けと言うよりは薄暮。青い闇が空に混じってくる、夜の入り口。

 囲むのはローマのコロシアムを彷彿とさせるような闘技場の観客席。照らすのは巨大な松明たち。そして覆うのは、観客たちの歓声。

 息を吸うと、松明の燃える灰の匂いの他に、夜の透き通った匂いが混じっていた。

 広場の中央には一際大きな試合場がある。その中央には審判が立っていた。彼は片手を掲げ、その手に持つ鐘を鳴らす。ついさっきまで活気づいていた会場は静かになった。

 審判が大声で観客に呼び掛ける。


「それではお待たせしました! 第七ブロック決勝戦を始めます! ……戦士は前へ!」


 審判の合図だ。

 俺は試合場に入っていき、同じ様に反対側から入ってきた相手を見据える。俺の対戦相手……デミアンもゆっくりと試合場についた。

 血で汚れた服を着ていて、腰には短剣を帯びている。長い髪と薄暮の薄暗さのせいで目元が見えないが、相変わらずの無表情なのだろう。

 そのまま睨んでいると審判はデミアンに手を向けた。


「デミアン・ダグラス!」


 周囲三百六十度から歓声が巻き起こる。意外なことに、ブーイングの類はなかった。人を殺していたとしても、強いものに人々は熱狂する。

 今度は俺の方に手を向ける審判。


「久喜輝!」


 歓声。緊張してしまう俺の心臓が元気に跳ねる。

 割れんばかりの拍手と歓声が続く。そして十秒ほどたった所で審判はおもむろにその右手を高く挙げた。

 観客はまた静かになる。俺もまた、耳を澄ませて前方のデミアンに集中する。もちろん、審判のその一言を聴くために。

 震える手で、小刀の柄に手をかけた。

 ついに競技場に物音が一つもしなくなり、張り詰める緊張に包まれた時。審判の、その手が、勢いよく振り下ろされた。


「……始めっ!」


 会場のどこからか楽器の演奏が始まり、それと同時に観客席にはまた活気が満ちる。……戦いの始まりだ。


「さあ……行くぞ!」


 気合いを入れて、小刀を抜く。そして、ペンダントの先にひっついていたゴムの感触のピンポン玉に触れる。黒い球のおかげで光は漏れないが、全身に力が回ってくる。感覚が鋭敏になる。今までのように、バレないようにセーブした力ではない。全力の身体強化だ。

 俺と相対するデミアンは無口で剣を抜いた。エレックの時とは全く違って、最初から小刀を抜いてきた。俺の魔法に警戒しているのか。いや、俺が魔法を使っていることは知らないはずだ。知っているのは、俺と、ユリウスさんと、あと、エリスさんくらい。


 いずれにせよ……向こうも本気だということは伝わってくる。


 そのまま武器を構えてお互いに動きを止める。俺は小刀を構えるデミアンを見据えた。

 分かってはいたが、隙のない構えだ。今までこの大会で対峙してきた誰よりも緻密で、攻め方が見つからない。


 デミアンは短剣を自分の少し前に突き出すように構えている。剣の類は相手に長さを正確に悟られないようにする為に、構えは突き出す、引くの二種類になるという話を何処かで聞いたことがある。

 当たり前だが体は半身。これは確か相手から見て自分の体をを少しでも小さく見せる為。それに、体重のかけ方やバランス、視線の置き方や呼吸。どれをとっても『洗練されている』と感じた。

 何気なく構えているように見えるデミアンの構えだ。でもそこには、素人の俺ですら感じ取れるほどの『強さ』がにじみ出ていた。


「……どうする」


 実際に対峙することでわかった。こちらから動くのがためらわれる程、全く隙が見つからない。エレックはこれを目の前にして、自ら斬りかかっていった。その事実だけでも、エレックは並の使い手ではないと思った。

 そして、そんな彼を下したデミアンも。


「ふー……」


 俺は息を吐く。

 デミアンは動かない。罠かもしれない。挑発かもしれない。でもこのまま相手が動かない気なら……こっちから行くしかない。今までだってそうやってここまで来た。

 俺は小刀を相手に突き出しながら相手にジリジリと近づいていく。俺が持つ小刀と同じくらいの長さの短剣を構えるデミアン。同じ射程の武器を持っているから走って駆け寄るようなことはしない。細心の注意を払って、慎重に、慎重に。

 あと少しで刃が届く。唾を飲んだら喉が鳴った。

 ……そして、一歩で詰められる間合いの中にデミアンが入った。そしてそれは、向こうの間合いに、俺が入ったということでもあった。


「はあっ!」


 先に動き出したのはデミアンだ。彼は突き出して構えていた短剣を軽く踏み出しながら縦に小さく振ってくる。

 俺は小刀を横に構えてそれを受け止めて、そのまますぐに反撃しようと相手の短剣を弾く。同時に左足で相手の脛を狙って下段にキックを放ったが、デミアンはすでに俺の蹴りを避けられる位置まで下がっていた。

 俺の攻撃が見切られている。


「……くそ」


 手強い。デミアンの『見切り』の精度の高さはもしかしたらマーカスさんに匹敵するかもしれない。そして、それを可能にするのが、丁寧な攻撃だ。最小限の動きで攻めてくる。いくら俺が上手く受け流せてもこっちの反撃に繋げられない。

 でも、全く勝機が無い訳じゃない。

 魔法を使ってはいるが、今だって俺は相手の動きをしっかり目で追って、その攻撃の予測もある程度は出来た。……俺だって『見切り』が出来たんだ。

 勝負は、まだ始まったばかりだ。


「行くぞ!」


 自分を奮い立たせた俺は小刀を真っ直ぐにデミアンに向かって突き立てる。彼は造作なく半歩下がり、俺の突きを避ける。と、同時に、短剣を上段から下段へと斜めに滑らせてきた。

 俺は小刀を両手で縦に構えて受け流す。そのまま距離を詰める……が、彼は俺が受け流した流れを切り返すようにして下から上へと短剣の切っ先を跳ね上げる。


「くっ」


 距離が詰まってるから今から後ろに下がっても間に合わない!

 俺はとっさに半身になってかわした。体から数センチ離れた空間を相手の短剣が切り裂いていく。

 そして、切り上げた状態のデミアンの懐ががら空きになったのが見えた。


「貰った!」


 俺は無防備な首筋を狙って小刀を一気にデミアンに突き立てる。あっけないが、これで詰みだ。降参してもらおう。

 だが、俺が勝利を確信した次の瞬間。……突然、左の脇腹に痛みを感じた。

 そして右手の小刀の切っ先には、そこにある筈の首筋も、デミアンすらも、居ない。


「ぐ……!」


 脇から血が流れ出す。大丈夫、傷は浅い。皮膚を引っ掻いただけだ。左手で脇を押さえながら振り返るとデミアンが無表情のまま立っていた。

 今のやり取りと、彼の今の表情で察する。彼は、わざと隙を作ったんだ。そしてその隙に食いついた俺は、すれ違いざまに傷を貰った。

 フェイクだ。俺が隙だと思ったのはただの餌で、俺はその餌にバカみたいに釣られたんだ。


「いっ、てぇ……!」


 痛む脇腹に逃げ出したくなるのを耐えて、俺は慌てて小刀をデミアンに向ける。

 俺の目の前で無表情のままの彼はその刃を振り下ろしてくる。冷たい輝きを放つ短剣が迫る。俺はそれをしゃがんで避けた。


「……う」


 顔をしかめてしまう。動く度に、脇腹の痛みが体を駆け巡る。

 そのまま体勢を立て直す間もなくデミアンの一突き。俺は小刀でそれを弾いて、反撃とばかりに立ち上がり様に斬り上げる。が、それも易々と避けられる。

 デミアンの視線が、俺の首筋を捉えた。

 不味いことをした、と思った。


「くっ……!」


 俺は今、考えなしの反撃で大きな隙を作ってしまっている。彼はそんな俺の隙を見逃すような人間じゃない。確実に首筋目掛けて攻撃を仕掛けてくる……死に至るような一撃を!


「……死ねるか!」


 息を飲む暇もなかった。俺の反射が、考えるより速く体が動かす。

 敵の刃を目で捉える。顎を引く。上体をねじる。左手を引く。腰を落とす。膝を曲げる。そして、右手の小刀で、相手の刃を、止める。

 首の寸前でデミアンの刃が止まった。……止めた!


「何……?」


 彼は目を見開く。表情に微かな動揺を感じ取った俺は、右手に力を入れた。


「おらあっ!」


 迫っていた刃を強く弾く。フェイク以外で今まで微塵も隙らしい隙を見せなかったデミアンがバランスを崩した。俺は小刀を持っていない左手に拳を作る。


「食らえ!」


 慣れない左でのパンチは鈍い音と共にデミアンの腹部に入った。


「くッ……」


 苦悶の表情を浮かべて、でも彼は短剣を振り上げて俺を狙ってきた。俺は慌ててデミアンと距離をとる。そして、彼の方に小刀を向けて、構え直した。

 デミアンから、さっきまで見せていた余裕が無くなっているように見えた。表情は相変わらず感情の読めない無表情。しかし、かなり汗ばんでいる。顔色が悪い。呼吸も乱れている。

 たったの一撃で、こんなにダメージを負っている。……いや、それだけじゃない。


「……そういうことか」


 俺は彼の身体を見て、その様子に納得した。デミアンの華奢な身体、小さい身体。……どう見ても彼は武術やスポーツに適した身体をしていない。

 動きは確かに達人級だろう。少しでもミスをすれば死に直結してしまうような、緻密で精密な動き。

 だけど、身体能力は……ガタイの差はそう簡単に覆らない。その上、俺は魔法である程度の疲労は無視できるし、身体能力も上がっている。これは、圧倒的な差だ。

 見切りや技術で対抗するから追い詰められるんだ。彼の身体能力に直に働きかける。……体力を削り取って、重い一撃を入れる。勝てる部分で勝負を仕掛ける。それが、今の俺に出来る唯一の方法だ!


「まだだっ!」


 すぐに俺はデミアンに斬りかかった。休む暇は与えない。少しでも体力を消耗させるんだ!


「うらあ!」


 思い切り小刀を振り下ろす。

 デミアンが素早く反応、俺の斬撃を受け流す。今度は燕返しで斬り上げる。避けられる。右手を少し引いて、突き出す。それも、避けられる。まだまだ、俺の攻撃で捉えられるほどには消耗していないってことか。

 俺は右足を半歩下げた。

 一旦退いて、体勢を立て直した後に、突進から攻撃を組み立てなおそう――。


「ぐあっ!」


 ――一閃。俺が退こうと意識を反らした瞬間にデミアンの短剣が俺の太股を斬りつける。


「ぐうっ……! ぐっ!」


 足がやられた。これでは突進は難しい。……いや、必要ない。そもそも退こうというのが間違いだったんだ。ここで勝って元の世界の手がかりを得るためにも……退くなんてありえない。

 痛みに耐えて俺は足をしっかりと踏みしめた。


「はあ……はあ……」


 俺を睨むデミアンが肩で息をしている。

 俺が痛みで倒れるか、デミアンが体力不足で倒れるか。我慢比べだ。


「うおお!」


 再びデミアンに斬りかかる。避けられて、受け流されて、俺が手を休めると、反撃が飛んでくる。

 デミアンの反撃も激しかった。だけど、その太刀筋にはさっきまでのような鋭さが無い。それに、少しずつだが速さにも慣れてきた。俺は一撃一撃をしっかり見切って躱す。


「はーっ、はーっ」


 彼の息はかなり乱れてきている。対する俺は、魔法で疲労を打ち消している。一合ごとに、デミアンと俺の差が埋まっていく。


「はあっ!」


 デミアンが袈裟に斬りつけてきた。俺は体を反らして避ける。短剣を振り抜いてそのままの姿勢。見せられた小さな隙。

 見逃さない!


「はあっ!」


 俺は肩を狙って鋭く突き立てる。首筋に小刀を突きつけて降参を迫るよりも、短剣を持つ腕を傷つけて戦闘不能にしたほうが良いと考えてのことだ。

 ……それが甘かった。

 俺の小刀は手応えなく空を突く。デミアンが姿勢を低くして、俺の突きを避けていた。同時に反撃の短剣が返ってくる。さっきの隙はわざと……フェイクだ。


「痛っ!」


 気づいた時にはすでに遅く、辛うじて武器を構えて防いだものの、俺の右手の小刀はデミアンの一撃で吹っ飛ばされてしまった。

 デミアンはゆっくり短剣を構える。


「……ぐ」


 しくじった。こいつにはこのフェイクがあった。

 ここから武器もなく避けられるか? この足で?

 ……出来ない。もう、降参して逃げたほうが――。


「――違う。それじゃあ、今までの俺と何も変わらない」


 自分のために、自分の身を危険に晒す覚悟。

 ここで逃げたらまた同じだ。自分の命のためだけに、自分の道を曲げ続けた……あの『迷子』のときの俺と、何も変わらない!

 デミアンが持つ短剣の切っ先が真っ直ぐ向かってくる。いくら小刀を振っても捉えられなかったデミアン。だけど、彼が俺を狙う限り、その『一瞬』は、確実にやってくる。

 短剣で俺を刺す、その『一瞬』は。


「うわあああ!」


 俺は後ろに飛ぶことも、躱すこともしなかった。むしろ、左手を突き出して、自ら短剣の刃に刺されにいった。デミアンの短剣の刃が俺の手のひらの肉を切り裂き、その切っ先が手の甲から飛び出す。


「あああああ!」


 気絶しそうになった。あまりに大きな痛み。燃えているかのような痛み。手のひらからは赤い液体がほとばしる。

 俺は歯を食いしばった。ここで気絶するわけにはいかない。


 自分のために、自分の身を危険に晒す……!


「捕らえた……!」


 目の前のデミアンが目を見開く。そして、危機感を覚えたのか、短剣を俺の左手から抜こうとする。しかし、俺は精一杯の力を込めて、刺された左手で短剣を握り込む。

 ――逃さない!

 俺は空いている右手の拳を固く握った。そして、右腕にペンダントの力を集中させていく。捉えられないのなら、捕らえる。それが俺の答えだ。

 左手で握っている短剣を引っ張りながら、右足を少し引いた。


「喰らえ!」


 叫ぶと同時に拳をデミアンの顔面に打ちつける!


「がっ」


 身体強化で固めた拳を受けた彼は、派手に吹っ飛んで地面を転がった。そして、そのまま立ち上がらない。

 左手には短剣が刺さったままだ。だが、俺はそれを抜くこともせずにデミアンに近づいていく。まだ、だ。まだ、俺の勝利は確定していない。


「降参しろ!」


 怒鳴る。彼は反応しない。胸元は上下している。気絶したんだ。


「俺の! ……俺の勝ちだ!」


 俺が言うと同時に観客席から大音量の声援や拍手、罵倒の声が聞こえてくる。観客も俺の勝利を確信したようだ。


「第七ブロック優勝者! 久喜、輝!」


 審判が俺の勝利を告げる。安堵と共に力が抜けてきた。


「痛え……ぐうう」


 脇、左手に太股。傷つけられた痛みが戻ってきて、俺は地面に倒れこむ。


「……回復を……」


 右手が上手く動かない。胸元のペンダントまでたどり着かない。血が流れすぎた。


「誰か……助けて……」


 視界がぼやけていく。痛みとともに意識が溶けていき、俺は目を閉じた。

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