第110話

最初は互いの九本の尾が各属性の魔力を纏い、そこに幻影魔術で生み出した幻想を織り交ぜて放つ。私とお爺様の叔父の本物の尻尾は互いが互いの本物と衝突して、それぞれ弾かれる。幻想の尻尾たちはそれぞれが衝突し合って消えていく。間髪容かんぱついれずに、互いが生み出した狐火が襲い掛かっていくし、襲い掛かって来る


本来の狐人族の霊獣変化をした状態で放つ狐火は外側がオレンジで中心が白という二色の火なのだが、お爺様の叔父の放つ狐火は完全なる闇を思わせるようなものをしている。外側は暗い青色で中心が漆黒という二色の火をしている。一つ一つが高圧縮された魔力であり、火でもあるという狐火が私とお爺様の叔父の周囲に展開される。その狐火は一つの大きさが大型種の魔獣ほどの大きさをしている。それらを同時に互いが放つ


『アアアアア‼』(ラディスの叔父)

『ハアアアア‼』(ユリア)


互いに動き回りながらも狐火がぶつかり合っては消えていく。私は再び四肢に力を込めて。それを見て、お爺様の叔父も空を翔けてくる。そこからは、空中戦だ。レイアたちも飛翔魔術で空中に上がってきて、空という障害物のない戦場での戦いに参加する


狐火に幻想に尻尾にと、狐人族としての特性を十分に発揮した戦いになっていく。レイアたちも近接戦から魔術メインに切り替えた戦い方になったので空には多種多様な魔術によるが空を彩っている。レイアたちには近接戦はさせない。流石に偽竜の時とは相手の格も戦いの上手さも段違い。下手に近づけば、危険。油断をしていなくても、今のお爺様の叔父からの一撃を受ければレイアやモイラでも危ない


「【嵐の暴風テンペスタ・ウラガーノ】」(セイン)

「【白銀の世界アブソリュートゼロ】(レイア)

「【真紅竜の劫火ルフス・バーンイレーズ】」(モイラ)

「【漆黒なる暴食ノワール・グラトニー】(リナ)

『十分に浄化の魔力を練りこんだ狐火を喰らいなさい‼≪浄炎じょうえん≫』(ユリア)


五人でタイミングをずらして様々な角度から各種魔術を放っていく。お爺様の叔父は高密度の漆黒の魔力を九本の尻尾に纏わせて、自身に迫る五つの広範囲魔術を一気に九本の尾で薙ぎ払う。しかし、こちらの籠めた魔力も質も高く高密度であったために無傷とは言えず、九本の尾もボロボロになっている。だが、そのボロボロの傷も直ぐに高速再生で修復されていく


「厄介。あの再生を超える傷を与えないとダメ」(セイン)

「だが、あれを見ろ」(レイア)

『やっぱり、光属性の魔力が含まれている魔術によって傷を付けられた所の治りがもの凄く遅いわね』(ユリア)

「でも、他の属性の魔術でも威力が高ければ問題なさそうね。再生されてしまうけど、あれだけボロボロには出来るってことだからね」(リナ)

「じゃあ、ここはゴリ押しだな。それも、不死性を超えるほどの理不尽なほどの暴力的なまでの‼」(モイラ)


モイラはニヤリと笑うと一気にマグマの如き熱を放つ魔力を全身から溢れさせている。それに合わせるようにレイアたちも全身から高密度の魔力を溢れさせている。私もこの巨大な身体から高密度の魔力を溢れさせて、お爺様の叔父を見る。お爺様の叔父も私たちの発する高密度の魔力に反応して、同じように自身の全身から魔力を溢れさせている


そこからは範囲や距離、属性は関係なく威力というか殺傷力の高い魔術を中心にしてお爺様の叔父にダメージを与えていく。再生しながらも魔術を受け続けているので傷が少しづつ大きくなっていく。しかし、オボロ様やその親友であるライノス様が封印するしかなかった怪物なのだ。そう簡単にはいかない


「再生速度が上がってる。それに…………」(セイン)

「ああ、私も注意深く探ったら分かったがな」(レイア)

「これはまた凄いわね。でも、なんですぐに気づかなかったのかしら?」(リナ)

『玉藻様たちが仰るには、この星が優れた感知能力を持つ者にしか感じ取れないようにしている、と聞いた事があるわ』(ユリア)

「なるほど。しかし、これであいつの不死性というか無尽蔵の魔力と再生能力の仕掛けのタネが分かったな」(モイラ)

「そうだな。《龍脈りゅうみゃく》から魔力を掠め取ってるのなら、あんな無茶も再生も可能だろうな」(レイア)


この星に流れる魔力が高密度・高濃度で溢れるポイントがある。それらは川の流れの様に流れている魔力の道であり、星の静脈・動脈とも言われている血管のような役割をしていると長命種や学者の中で言われているのが龍脈だ。そして、竜人族の里の竜の墓所のような魔力溜まりの土地などは龍脈の細かく枝分かれし、行き止まりになった魔力の道が湖のように広がり魔力が溜まったのがそのままになったものだ。細かく枝分かれしたものなのに、あれだけ濃密な魔力が溢れていることが、この星そのものがどれだけの高密度・高濃度の魔力を秘めているのかが分かる


そして、お爺様の叔父はその魔力の宝庫である龍脈から高密度・高濃度の魔力をほんの少しだけずつ掠め取って身体の再生と魔術を使用した後の自身の体内魔力であるオドの補充をしている。それがお爺様の叔父の広範囲・高難易度、大量の魔力を使用する魔術もポンポンと放るし、どれだけ傷が付こうが再生できるという不死性の仕掛けのタネだったのだ。だったら自分たちもと思うのかもしれないが、龍脈の中を流れる魔力は濃度が高すぎてほんの少しでも取り込むと身体の方が耐えられない


「だけど、あいつも身体の方が限界に近そうだぞ‼」(モイラ)

「恐らくは、私たちの魔術によるダメージを修復するために龍脈から魔力を短時間に取り込み過ぎて、逆に身体が損傷している可能性があるわね」(リナ)

「確かに、私の知っている知識によれば龍脈の魔力は一種の猛毒。取り込んでも問題がないのは、高位の存在や特殊な血筋を持つ一族だけ」(セイン)

『あとは、カイル君ぐらいじゃない?あの理不尽の塊みたいな子なら、ありえない話じゃないでしょ?』(ユリア)

「まあ、そうだな。あのバカな弟なら………な。魔力を取り込んでも、ケロッとしてそうだな」(レイア)


気の抜けない命の取り合いの中で、カイル君の話題が私たちの中で出ると自然と心に余裕が出来るし頬も緩む。この張り詰めた状態を保ちつつも、ほんの少しでも心の余裕が出来た事でちょっとした気分転換のようなことが出来た。すると、お爺様の叔父の動きも展開されている狐火も魔術もよく見えるようになったような気になってくる


そんな風に思ったら実際に私たち五人の動きが格段に良くなり、私とレイアたち四人の動きの連携も良くなっていく。徐々に追い詰めていけている実感が私たちの中にはあった。お爺様の叔父も身体の再生が間に合わずにボロボロで、尻尾に纏っている魔力も大分薄くなっている。私たちからの高威力の魔術と、もはや息を吸う様に無意識の領域で傷やオドの補充のために龍脈から魔力を取り込み過ぎて肉体も魂も精神も全てがボロボロになってしまっている


『このまま消滅させるわ‼オボロ様の、先祖の、里の皆の無念を晴らす‼』(ユリア)


私は浄炎を再び周囲に展開し始め、それを一気に一点に集中して一つの白く輝く小型の聖なる炎が出来上がる。そして、その聖なる炎を九本の尾を円形の形で囲む。そのまま九本の尾からありったけの光属性と浄化の魔力を注ぎこむ。炎はボボボボボと徐々に勢いと熱量を増していく


「ヴァアアアアア‼」(ラディスの叔父)


お爺様の叔父も私と同じように自身の眼前に漆黒の炎を圧縮させる。そこにさらに濃密な龍脈から掠め取った魔力を漆黒の炎に上乗せする。漆黒の炎は圧縮したにも関わらず、龍脈からの魔力の上乗せによって通常の狐火と同じような大きさにまで戻ってしまっている。漆黒の炎は負の感情というか、よくないものを感じさせるオーラのようなものを放ち始めた


「向こうが龍脈の魔力なら、こっちは仲間の魔力で強化だ」(レイア)

『了解‼』


レイアたちがお爺様の叔父が龍脈の魔力を利用したのを見て、自分たちの魔力を私の白き炎に籠めてくれる。白き炎も大きさが元に戻り、お爺様の叔父様の漆黒の炎とは真逆の正の感情が溢れているのか輝くようなオーラを放ち始めた


『これで最後‼』(ユリア)

「ガアアアア‼」(ラディスの叔父)


高濃度の魔力によって生み出された漆黒の炎と白い炎が真正面から衝突した

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