第111話

双方の圧倒的な魔力が籠められた白と黒の炎が均衡している。互いが互いの炎を侵食しようと喰らい合っている。しかし、それも数秒で終わる。私の炎が徐々に漆黒の炎を喰らい取り込んでいく。取り込み、大きさと質の上がった白き炎は速度を増して、お爺様の叔父に向かっていく


『さあ、滅びなさい‼』(ユリア)


白き炎がお爺様の叔父の顔面に直撃する。直撃した白き炎はそのまま燃え上がり、お爺様の叔父の顔面から勢いを増して身体・尻尾の方に向けて白い炎が移動していく


「ギャアアアアア‼」(ラディスの叔父)


お爺様の叔父は苦しそうにのた打ち回る。どれだけ身体を地面に擦りつけようとも、魔力や魔術によって生み出された炎が消えることはない。自身の魔力によって打ち消すか、水属性の魔術で相殺するしかない。お爺様の叔父は穢れが全身に回っている事と、その穢れを光属性と浄化の魔力が籠められている白き炎によって祓われている事で激痛が走り、それどころではないようね


白き炎が燃え尽きる頃には、お爺様の叔父の顔面・身体・尻尾のほとんどが祓われた事と炎との二重で焼かれ、黒い煙を上げている。全身も焼かれたことで所々で毛がなくなり禿げている部分もあるし、皮膚が爛れている所もある。高速再生によって徐々に再生をしていっているが、封印から解き放たれた直後と比べると雲泥の差と言ってもいいほどに再生速度が段違いに遅い


「アアアアアアア‼」(ラディスの叔父)

『皆‼』(ユリア)


急にお爺様の叔父の身体から膨大なまでの魔力が溢れ出す。しかし、以前までの制御された魔力ではなく暴走前提の、自爆するかのような荒れ狂うほどの魔力だ。急速に膨れ上がる魔力が一気に不安定になり、それが弾けた


「…………全員、無事か?」(レイア)

「……大丈夫」(セイン)

「問題なし‼」(モイラ)

「……無事よ」(リナ)

『………大、丈夫』(ユリア)


レイアの問いかけに私を含めて全員が答える。暫くして、視界が安定して周りを見渡すと景色が一変している。周りの木々が薙ぎ倒され、お爺様の叔父がいた地点は大きく抉れてクレーターになっていた。その中心にいたお爺様の叔父は先程よりもさらに傷ついた状態で立っている。だが、少し様子がおかしい。よくよく観察してみると九本あったはずの尻尾が


尻尾の数が減った事で、その大きな体に流れる魔力量も減っている。しかし、不思議な事に直ぐに減ったいたはずの魔力量が戻っていく。そして、お爺様の叔父は漆黒の炎を再び眼前に生み出し、圧縮していく


〈あれだけの魔力を使って漆黒の炎を生み出して、その直後に自爆紛いの魔力暴走までしたのよ‼龍脈から魔力を掠めるにしても、あれ程の炎を再び生み出すのなら相当な魔力が必要になるはず。……………まさか‼〉(ユリア)


私の予想が正しかったようで、七本あったはずの尻尾が六本に減っている。まさか、本当に尻尾を一本犠牲にして魔力を生み出してるなんて‼…………私の魔力もレイアたちの魔力も大分減っている。すぐさまに障壁も光属性の魔力を練りこんだ白い炎を生み出すことも出来ない


そんな逡巡の数秒ののちに無慈悲にも漆黒の炎が放たれる。私たちは残り少ない魔力をつぎ込んで障壁を展開した。漆黒の炎と拮抗する障壁が一枚、また一枚と砕かれていく。そして残り数枚になってしまった所で私は龍脈に干渉し、お爺様の叔父と同じように魔力を借り受けようと決意した時に最後の障壁に漆黒の炎が衝突した


〈覚悟は決まった‼さあ、始めるわよ‼〉(ユリア)

『そんなに生き急ぐことはない、ユリア』(?)


覚悟を決めて龍脈に干渉して魔力を得ようとする私に突如語り掛けてくる存在が現れた。それは今の私と同じくらいの大きさの全身が真っ白に染まり、目が澄んだような空の色をしている里の家族である狐様だった。その狐様は凪いでいるかの様に感じる深い海のような魔力が急速に高めていく


『堕ちるところまでいってしまったか、トウヤ』(白い狐様)

「アアアアアアアアアア‼」(トウヤ)


トウヤと呼ばれたお爺様の叔父を白い狐様が知り合いだったのか、悲し気に語りかけている。それに答えるかのように、私たち相手とは全く違うほどに憎しみが籠った咆哮を上げる。なにかしらの因縁がこのお二方にあったのかもしれない。トウヤの反応から見ても、この二人の因縁はかつての騒動の時か、それ以前から続いているものなのかもしれない


その時に、最後の障壁が漆黒の炎に破られる。漆黒の炎が私たちに迫るが白い狐様が私たちの前に出る。七本の尻尾に魔力を纏わせて、一束にまとめる事で巨大な尾にして振り抜く。尾と漆黒の炎はぶつかり合うが、一瞬にして漆黒の炎を掻き消す


『魔力量も尾の数も増えたが、それだけだ。技もなく、積み重ねたものもない。ただの狐火だ』(白い狐様)

「ガアアアアアア‼」(トウヤ)

『ユリア、力を貸そう。だが、メインはお前だ。友人たちには休んでもらえ。魔力は私が貸そう』(白い狐様)


白い狐様が尻尾を一つ私の身体に接触させる。その尻尾から白い狐様の太陽のような温かい魔力が私に流れてくる。ここまで膨大な魔力があれば、私も十分に戦える。魔力を循環させ、身体強化をし、四肢に力を張り巡らせる


そこからは白い狐様と連携して動いていく。トウヤは尻尾の数が六本に減った事で魔術にしても幻想にしても手数が減ったように感じるが、質そのものは変わっていない。しかし、白い狐様のサポートもあり先程よりも優位に立てている


「ガアアアアアア‼」(トウヤ)

『甘いわ‼』(白い狐様)


近接戦を仕掛けながら、幻想を交えてくるが白い狐様が簡単に見抜いて反撃をする。私も追撃を加えて、徐々に徐々に追い詰めていく。トウヤは劣勢だと感じたようで、今度は二本の尾を犠牲にして二つの漆黒の炎を生み出す。私も白い狐様に魔力を借り受けたので今度はこちらも白い炎で対抗する。白い狐様も自身の眼前に外側が真っ赤で中心がオレンジの炎を生み出す


さらにトウヤは二つの漆黒の炎を一つに合わせる。巨大になった漆黒の炎と私と白い狐様の炎がぶつかり合う。拮抗しつづけた末に、三つの炎が爆発する。周囲に高熱の衝撃波が吹き渡り、砂煙が舞う。ぶつかり合った中心には再び爆発の衝撃によって小さいクレーターが出来ている。しかし砂煙の奥から高密度の魔力が感じられる


『アイツめ‼ここで一気に勝負を仕掛けるつもりか‼』(白い狐様)

「アアアアアアアアア‼」(トウヤ)


トウヤは一本の尾を残して三本の尾を全てを犠牲にして、超巨大な漆黒の炎、いや漆黒の太陽を上空に生み出した。圧縮してなお、地上に影を生み出せるほどの大きさをしている


『ユリア、力を合わせるぞ‼』(白い狐様)

『はい‼』(ユリア)


私と白い狐様は同量・同質・同密度と全てを誤差なく合わせて一つの炎を生み出す。外側が真紅のように輝き、中心は真っ白に輝いている。その炎は漆黒の太陽に比べると遥かに小さい炎であるが、その炎の存在感がもの凄い。そして、二つの大きさの対照的な炎が同時に放たれる。漆黒の太陽は私たちに向けて地面を抉りながら進んでくる。私たちの炎はスーッと漆黒の太陽の中心に触れた瞬間に。ものの数秒で漆黒の太陽が幻だったかのように綺麗サッパリと消えさる


『さらばだ。我が弟よ』(白い狐様)

「え⁉」(ユリア)


驚いている私を他所に、白い狐様はただジッとトウヤを見ている。私たちの炎は漆黒の太陽が消え去ってから、何故かジッと立っているままのトウヤの胸に吸い込まれる様に消えていく。そして、トウヤの全身が私の浄化の魔力が含まれた炎の時とは違うオレンジの炎によって燃えていく。そのまま足の方かトウヤがゆっくりと灰になっていく。そして、トウヤの様子も大人しくなっており、瞳にも知性が戻っているように見える


『すまなかった、イスミ兄さん。ユリアだったか、お前も周りの者たちを大事にしろ。決して、俺の様にはなるな』(トウヤ)

『トウヤ、お前の事は私がこの先もずっと覚えて生きていく。罪も何もかも。楽しかった思い出も、家族との語らいも、全て、全てだ。だから、眠れ』(イスミ)

『ああ、……ああ。…ありがとう、イスミ兄さん。………すまない、すまなかった、お前たち』(トウヤ)


トウヤの視線を追うと、私たちの後ろから一人の女性と一人の女の子が立っていた。その二人は優しく微笑みながら、燃えて灰に変わっていくトウヤの顔に近づいて、抱きしめて撫でている。そして、イスミ様をチラリと見て、二人は頭を下げてトウヤと共に消えていく


『いったい、何が何やら?』(ユリア)

『今回の騒動が終わったら、全て説明しよう。今は疲れたろう。ゆっくりと休みなさい。君たちはユリアを癒してやってくれ』(イスミ)

「任せてくれ」(レイア)

『ええ、でもまだ……………大……丈夫……よ。あ、れ?』(ユリア)

「ユリア、お疲れさま。吸血鬼の方はカイル君に任せておきなさい。貴方のするべき事は終わったわ。だから、もう大丈夫よ」(リナ)


私はリナにするべき事をやったと、大丈夫だと言われた事で張り詰めていた糸が切れた様に身体から力が抜けていく。霊獣変化の状態も維持できずに人の身体に戻っていく。そして、私の意識は静かに暗闇に沈んでいった

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