第109話

自分の身体が、徐々に変わっていくのが分かる。人の身体から急速に狐のものに変化していく。自分の全ての感覚や魔力などが人の姿の時に比べると遥かに高くなっているのが分かる。顔の部分が白く、その他が黄金と見間違えるほどに輝く色をしている。九本の尾も身体の大きさの変化に合わせて大きさも変わっている。レイアたちも、初めて見た私の奥の手であり切り札を驚いた様に見ている。流石に、これは驚くのは仕方ないわよね~


レイアたちも歴戦の戦士であるので、直ぐに気持ちを切り替えてお爺様の叔父に集中し直す。私も姿勢を低くして、四肢に力を溜めていく。レイアたちは私の動きを補助するように立ち位置を変える。今までの比ではないくらいに高まっていく私の魔力にお爺様の叔父も警戒を高めて、魔力がさらに練り上げられ循環している


『往くわよ‼皆‼』(ユリア)

『了解‼』


全長五メートル・高さ四メートルの白面金毛九尾の狐の姿になったユリアが四肢に溜めた力を一気に開放し、爆発的な加速をもって駆け抜ける。駆け抜けた部分の地面が爆弾でも爆発したのかと思うほどに地形を変えていく。その尋常ならざる加速は一秒以下、コンマ何秒という次元の速さで敵に到達する


ユリアはそのまま一切減速することなく、九本の尻尾と自らの四肢を使って超光速の連打を叩き込む。しかし、相手も禁忌を犯して強大な力を手に入れ九本の尾に至った存在だ。最初に二・三発をモロに喰らったが、その後は目にも止まらぬ速さで繰り出される全てに対応していく。野生の勘と血肉に染み込まれた狐人族の武術の動きでもって、致命傷を避けていく。しかし…………


「皆、合わせて。【拘束せし蜘蛛の糸アラクネ・フィーロ】」(セイン)


セインたちが私の動きに慣れてきた所のお爺様の叔父を拘束系の高難易度魔術で関節・指など細かい所まで一気に絡めとって、拘束していく。この魔術は基本的には個人が個人に対して放つ魔術だ。拘束力も高く、一度拘束されると安易には抜け出せない。その魔術を四人で重ね掛けで放ったのだ。お爺様の叔父は流石の化け物具合で、私の連打を受け続けながらも避けていた。しかし、セインたちも色々と蜘蛛の巣を仕掛けていた。私は時間の隙間を一切与えないように、ひたすらに連打を叩き込みながらも仕掛けられた罠の方に誘導していくことで拘束に成功した


しかし、すぐさまお爺様の叔父は九本の尻尾と腕と脚を使って暴れまわって拘束を解こうとする。そこに、セインたちが自分たちの練りに練った魔力を糸を介して送っていく。魔力によって強化された糸が暴れまわっているお爺様の叔父を完全に身動き一つ出来ないまでに締め上げる。四人の限界までに練り上げた魔力には流石に対抗できずに大の字の形になっている。しかし、数秒後にはプツンプツンと限界まで強化されてるはずの糸が一本ずつ切れていっている


「おいおい‼自分の身体の損傷はお構いなしかよ‼」(モイラ)

「あっという間に再生するからよ‼本人にはそれが分かってるのかは分からないけどね‼」(リナ)

「このままだと拘束が解ける」(セイン)

「ユリア‼」(レイア)

『分かってる‼』(ユリア)


私は連打を打ち込みつつ、勘づかれないように魔力を今の身体の状態での限界まで練り上げていた。その練り上げられた魔力を九本の尾に一気に流し込み強化する。無属性で強化された九本の尾を一斉にお爺様の叔父の心臓部目掛けて一点に集中して突き刺す。そして、戦い始めてから苦戦させられていたお爺様の叔父に一矢報いる事が出来た。お爺様の叔父も穢れ淀んだ魔力で身体を強化し、防御力を上げたが九本の尻尾の威力に負けた


九本の尾がお爺様の叔父の心臓部分を貫いて背中側から突き出ていた。私はそのまま再生に巻き込まれないように、一気に九本の尾を引き抜く。そして、お爺様の叔父の身体に九本の尾の先で円を描くようにくっつける。私は周囲に漂うマナの光属性の浄化の魔力、清い魔力を急速に取り込んでいく。そして、取り込んだ浄化の魔力を循環し、より純粋な浄化の魔力に昇華し九本の尾に流し込んでいく


「ガァアアアアアアアアアアアア‼」(ラディスの叔父)


今までの様子とは違って、本当に苦しそうにお爺様の叔父はもがこうとしている。ここが一気に攻め時だと私は感じた。だから尻尾の先から流し込んだ浄化の魔力をそれぞれの隣通しの尻尾の先に魔力同士を繋げていく。それらを完全に繋げて円にする。そこから円の内側に向けて魔力を動かしていく。そして、魔力が完全に円内で動き終わった後に浮かび上がるのは一つの術式。そして、一気に術式に浄化の魔力を流し込んでいく


お爺様の叔父は身体から黒い煙を上げて項垂れるように下を向いた状態で完全に身体から力が抜けた状態でだらんとしている。これは、このまま押し切れば完全に消滅させることが出来る‼そう思った私はさらに浄化の魔力を籠めていく。籠めた魔力量に比例して、お爺様の叔父の身体の至る所から黒い煙が上がっていく


「そのまま押し切れ‼」(レイア)

『了解‼』(ユリア)


そこからさらに魔力を籠めようとしたところに、変化が起こった。だらんとしていたお爺様の叔父の身体に存在した魂の穢れによって漆黒に染まっていた部分が生きているかのようにうごめきだした。そして、その漆黒が次々と大きく広がっていきお爺様の叔父の身体を染めていく。私は漆黒が蠢きだした瞬間に、もの凄いほどの嫌悪感が心の中に湧き上がる。お爺様の叔父の身体に接触させていた九本の尾を急いで自分の元に戻す


その判断は正しく、漆黒は私の尻尾の先から私自身にも移りかかろうとしてくるのが見えた。そして、漆黒はお爺様の叔父の身体を全て漆黒で包み込んでしまった。身体から立ち上っていた黒い煙はいつの間にか消えている。私たちは全員で固まって警戒しながらお爺様の叔父を観察している。そして、漆黒が引きしおの様に引いていきお爺様の叔父の心臓に向かって引っ込んでいく


「カァアアアア‼」(ラディスの叔父)


お爺様の叔父はボロボロだった金髪もその赤い瞳もボロボロだった当時の里で着られていた服装も、全てが漆黒に染まっていた。さらには、残っていた狐人族の証でもあり毛並みが荒れていても黄金に輝いていた九本の尻尾も全てが漆黒に染まっていた。そして、急速に魔力が膨れ上がっていく。その急速に膨れ上がった魔力が一気にお爺様の叔父を中心にして圧縮されていく


その圧縮された魔力がお爺様の叔父の身体に循環されていく。そのまま完全に魔力が循環され終わると。人の身体から狐の身体に。しかし、私とは違うのは漆黒に全てが染まった様に、狐の姿に変わっても全てが漆黒に染まっていた


全長は六メートル・高さは五メートル。ユリアの今の状態の大きさを大きく超えている。魔力量も質も先程の漆黒と本人の元々の姿が混じっていた時よりも漆黒が完全に全身を覆って変色してしまった状態に変わった段階で遥かに上昇している。尻尾もユラユラとしているが常に魔力を纏っており、その大きな身体も圧縮された魔力が循環された状態がそのまま残っており、より手ごわくなっている


「あちらも、ユリアと同じように切り札を切ってきたという訳か?」(レイア)

『そのようね。それに、あの穢れの魔力が全身を覆った事も油断は出来ないわ』(ユリア)

「そうだな。だが、身体が小さい位でお前が負けるわけねえよな‼」(モイラ)

『当然よ‼』(ユリア)

「なら、問題はないわよね。ここからはレイアとモイラもユリアのサポートに回ってあげて。私とセインは変わらずにサポートのままよ」(リナ)

「了解」(セイン)

「じゃあ、身内のケツは身内で拭いてこい」(レイア)

『了解‼リーダー‼…………………さあ、始めましょう。狐人族としての誇りと信念をもって‼私と貴方の殺し合いを‼』(ユリア)

「アアアアアア‼」(ラディスの叔父)


私の言葉にお爺様の叔父が反応したのか、今までの叫びとは違う、狐人族の戦士としての咆哮だと私は受け取った。両者、共に静かに間を計る。私は静かに魔力を身体にみなぎらせ、お爺様の叔父は荒々しい魔力を身体に漲らせている。私とお爺様の叔父は同時に相手に向かって駆ける。狐人族同士の互いが互いの、血で血でを洗う決闘が始まった

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