第108話

魔力の柱が消えていく。すると、完全に開放された私の血縁でもあるお爺様の叔父がその術式の真ん中に現れる。その姿は幻想の中で見た通りであり、綺麗な金髪だったであろうその髪は見る影もなくボロボロになっている。さらには身体全体に魂の穢れが広がっており、髪にも腕にも足にも漆黒に染まっている部分がある。目や身体の動きも正気のものではなく、そこも幻想と変わらない


「あとは、やり合った時の情報と変わりがなければいいが………」(レイア)

「そうね。だからといってやる事は変わらないわ。このまま封印され続けるよりも、これを機に存在を消滅させる」(ユリア)

「応よ‼私らの力を合わせれば、どんな奴も敵じゃねぇ‼」(モイラ)

「モイラの言う通り。私たちは、最高のパーティー」(セイン)

「そうね。たとえ、どんな怪物相手でも仲間の為に、自分の為に仕留めて見せるわよ」(リナ)

「ヴァアアア?ガアアアァ‼」(ラディスの叔父)


口から涎を垂らし、眼前にいる私たちの纏う攻撃的な魔力に敵対認定をしたのか姿勢を低くして獣のような体勢をとる。そして、一歩踏み込んで目にも止まらぬ速さで移動する、という幻影を見せてくる。お爺様の叔父はその幻影に私たちが引っかかっていようが、いまいがお構いなしばかりに九本の尻尾にそれぞれの属性の魔力を纏いながら私たち目掛けて迫ってくる


火属性の魔力は燃やして溶かす槍、水属性の魔力は鋭く切り裂く剣、土属性は全てを破壊して粉々にする槌、などなどお爺様の叔父は各属性の魔力にイメージを持たせて纏わせているために、ただ単に魔力障壁で防いだり、安易により強い魔力で打ち消すといった行為を行うと危険だ。纏わされたイメージによっては下手な障壁などは簡単に壊され、打ち消しも正確に魔力量を考えなければ腕の良い魔術師ならば相手の魔力を取り込んで強化することも造作もない


「散開‼各自がそれぞれカバーしながら動け‼決して孤立するなよ‼」(レイア)

『了解‼』


だからこそ、私たちの取れる戦い方は一つ。ただひたすらに幻影と実物を見分けて避け続けながらも全員でタイミングを合わせながら仕掛けていくというものだ。カイル君は非常識な方法で真っ向から尻尾の攻撃に対応したようですけど、私たちにそこまでの方法はとれない。しかし、幻想内での幾多の戦いで幻影と実物の見分けはつく


特に私としては狐人族の先輩としても、戦士としても、魔術師としても参考になった。実物と区別がつかないほどの質の高い幻影の創り方に各尻尾に纏わせる際の効率的な魔力量など、まだまだ自分が甘いというのがお爺様の叔父との命のやりとりで実感できた。だからこそ、幾多の戦闘でそれらを観察し、自らの糧として取り込んでいった


「カアアアアア‼」(ラディスの叔父)


お爺様の叔父が私に向かって、今度は本当に高速で迫ってくる。私に向かって突っ込んでくるというのは、事前にお爺様や玉藻様たちに聞いていた通りだ。恐らくはお爺様の叔父は私に流れるお爺様の父である自分の兄の血を感じて優先的に襲ってくるだろうと。幻想内の戦闘でも、まるで誘われるかの様に私に向かって積極的に攻撃を仕掛けてきた。だからこそ、これも想定内


私もそれぞれの尻尾に各属性の魔力を纏わせて、幻影を織り交ぜながらも立ち回る。レイアやモイラ、それにカイル君のようにお爺様の叔父相手に格闘戦を仕掛けられるほど肉体面は頑丈ではない。だから、それ格闘戦が出来る者に任せて私はリナ・セインと共に魔術をメインにしてレイアとモイラをサポートする


「【漂う闇夜の霧フロート・オスクリタノクス・ミスト】」(ユリア)

「【乱れ舞う誘惑レルム・バイラール・テンタシオン】」(リナ)

「【降り注ぐ浄化の矢アヴェルス・カタルシス・ペイル】」(セイン)


最初に私の放った妨害魔術である霧を闇属性と水属性の複合魔術により生み出された濃い霧がお爺様の叔父の周りに発生する。視界が制限された所にリナの生み出した無数のリナ自身の幻惑が霧の中から現れては消えていき、お爺様の叔父の視線や視界を奪い惑わせていく。そこに、カイル君がベレタート王国とメリオス聖国との戦争の開戦の際に使用した魔術の属性を変えた魔術をセインが頭上から音もなく降り注がせる


お爺様の叔父は私の霧には目論見通りに視界を奪われ、リナさんの幻惑に視線が様々な角度で次々と彷徨っているが、急に動きが止まったかと思うと目を閉じた。そのまま無音で降り注ぐ浄化の力を持つ大量の魔力矢を野生の感覚でいながらも狐人族の武術の流れるような綺麗な脚運びで次々と避けていく。こういった動きは幻想内では数回ほどしか見た事がない


「仕掛けるわ‼≪爆裂ボム≫‼」(リナ)


浄化の籠められた魔力矢を避け続けるお爺様の叔父に向かってリナさんの幻惑が死角から近づいていく。ただ単純に近づいていくだけでなく、降り注いでくる魔力矢の着地地点に合わせるように幻惑を移動させて、魔力矢と爆裂の威力の重ね掛けで攻撃していく。しかし、野生の感覚と洗練された狐人族の武術の動きが混ざっている今のお爺様の叔父には通用せず、ことごとくを避けられていく


そこに、レイアとモイラの近接組が突っ込んでいく。お爺様の叔父もすかさず反応し、超人的な動きと九本の尻尾がそれぞれ意思を持っているかのように自在な動きで死角や隙間を埋めるように、逃げ場をなくすように動いていく


「アアアアァ‼」(ラディスの叔父)

「レイア、合わせろ‼」(モイラ)

「応‼」(レイア)


一万回近接戦を繰り返したカイル君からの情報から近接時の動きを聞いていたのでレイアとモイラも今の所は対応できている。しかし、お爺様の叔父の拳や脚による一撃一撃を受けるたびに、レイアと竜人族として強固な骨格などを持つはずのモイラでさえも、少しだけ表情が痛みで歪んでいる。今の私たちは封印の場所にたどり着く前から既に力の全開放をしている


〈モイラは完全に竜人族として力を解放してる。鱗も身体のほとんどを覆うほどにまで至っているのよ。それでも、痛みに顔が歪むなんて、どれだけの力なのよ〉(ユリア)


最初の段階でレイアが自分を含めて様々な付与魔術で強化も施しているし、戦闘の最初からお爺様の叔父に対しても能力低下の付与を隙を見て仕掛けているのは私も知っているし、実際に無抵抗なまでに魔術がかかっているのを感じていた。つまり、能力低下を受けてなお、モイラに苦痛を与えるほどの膂力をしているという事になる


これは完全に予想外だ。幻想内ではここまでの能力低下の魔術をかけられたお爺様の叔父はモイラの本気の状態で苦痛を与える事はなかった。だが、現状でモイラや限界まで強化したレイアでさせも痛みを感じるということがマズイ状況という事。さらに言えば、肉体的に頑強ではない私やセインやリナにとってみれば、お爺様の叔父の一撃をもらえばどうなるか分からない。もしかしたら、捌ききれなければ戦闘離脱もしくは死の可能性がある


「リナ、セイン‼私たちは魔術よりも回避優先よ‼私たちだと掠っただけでもヤバい‼」(ユリア)

「そうね‼だけど、あの二人だけに任せても一緒よ‼」(リナ)

「リナの言う通り。このままいくと先にレイアたちがやられるのは間違いない」(セイン)


リナとセインの言う通り、このままいけばレイアたちもいずれは……………となるのは間違いはない。それは分かり切っているからこそ私も切り札を切る覚悟を決める。モイラたち竜人族が本気の本気の状態になるのと同じように、私たち狐人族にも同じようなものがある。これは狐人族だけでなく獣人という存在の中で限られた者のみが使う事のできる言葉通りの切り札。切るべき時は今よ‼


「≪因子開放・霊獣変化へんげ≫〖白面金毛九尾の狐はくめんこんもうきゅうびのきつね〗」(ユリア)

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