41話 地獄を壊すもの
「はあああああああ!!!!!!」
「オラオラオラオラァ!!!!!」
キッドとザンギスは何十合と刀を打ち合わせる。金属音が響き渡り、一進一退の攻防が繰り広げられていた。必死に食らいつくキッドに対し、ザンギスは笑みを浮かべて余裕を見せている。
「どうしたキッドぉ〜?吸血鬼になれよぉ!このままじゃ、誘拐犯に加えて殺人犯になっちまうぜ俺がさぁ!」
「ならない!お前ごとき相手には!」
キッドが大太刀を大振りに振るう。ザンギスは大きく後ろに飛んで攻撃をかわす。キッドは攻撃の手を緩めず、大太刀を握りしめてザンギスに突き刺そうとする。
「甘えんだよ!」
ザンギスは攻撃に対し、刀を交差させ受け流した。刀が擦れ火花が飛び散り、攻撃を逸らされたキッドが体勢を崩す。そこにザンギスが追撃してくる。キッドは大太刀を地面に突き刺すと、大太刀の重さを利用し、刀を握ったまま、腕の力で逆立ちをする様にして攻撃を回避した。そのまま地面に降り立ちながら刀を抜き、再び二人は相対する。
「決着がつきそうにねえなぁ、やっぱりなれよキッド、吸血鬼にさ」
(……吸血鬼化してはいけない、なれば最後、あいつの持つナイフで再生不可能の一撃を食らう。だからここは、僕自身の力だけであいつを倒す!)
「倒す?殺すの間違いだろ?」
まるで心を読んだかのような発言にキッドは動揺する。
「必死に抑えてるけどさ、わかるんだよ。お前の俺に対する殺意がさ、まあ無理もないわなぁ、相手は自分のおともだちを誘拐して、他人をおもちゃにして殺す
「……まるで自分はそうじゃないって口ぶりですね。マリアさんは、お前が人殺しをした記録はないって言っていたけど……まさか隠滅していたのか!?」
キッドが鋭い目でザンギスを睨む。
「うおっほ!殺意が強まった!ひゃはは!違う違う!協会が調べたのは俺の犯罪歴だろ?俺の場合はそんなもんには残らねえんだよ。なぜなら、俺の初めての舞台は……戦場だったんだからなぁ!」
そしてザンギスは、自分が見た地獄を嬉々として語り始めたのだった。
*
「痛!」
目を覚ますと、アンナは自分がベッドの上にベルトで縛られていることに気づく。そして手には血まみれの小刀を握られていた。
「なんか痛いって思ったら、刃の部分を握っちゃったのか……でもなんでこんなのが私の手に……」
体を動かそうとするも、ベルトに縛られて身動きができない。
「うーん、もっと刃が長かったら手で動かして切れそうなのに……」
すると、小刀が流れ出る血を吸い、その刀身を伸ばし始める。そして鞭のようにしなるとベルトを切り裂いた。アンナは驚きと共にベッドから飛び降りる。
「あ!もしかして!この小刀は『鉄血』の力で作られたもの!?なんで持ってるのか知らないけど、まずはここから出なきゃ、なんかここ気味悪いし」
「それなら私が案内するヨ」
「きゃあ!?」
突然部屋の扉が開き、書類の束を小脇に抱えたヤンが現れた。ハンターバッジを見せアンナの信用を得ると、アンナを連れ立って部屋から出て行く。研究器具の並んだ通路を走りながらアンナはヤンに尋ねる。
「ヤンさん……でしたっけ。なんで私はこんなところに……そしてなんでハンターの貴方が私を助けに?」
「私はキッドの……まあ、ハンター仲間ネ。君が連れ去られてたのをみて助けに来たのヨ。ついでに奴らの目的も暴きにね。なんで君が誘拐されたのかというと、君の血を研究に利用するためアル」
「研究!?いったいなんの研究を!?」
ヤンは書類の束を見ながら答える。
「……人間を、確実に吸血鬼にさせるための研究アルヨ」
「なっ……!」
すると、ヤンが急に立ち止まり、アンナを手を横に出してアンナを制止させる。進行方向の先には一人の男が立ちはだかっていた。
「んで、お前がその研究に協力してたってわけネ……!」
「ふふふ、ご名答」
ヤン達の前に、雷氷毒のヴラドが待ち構えていた。
「その少女を渡せばあんたの命は助けてあげる……なーんてことは言わないわ。あんたは殺すし少女は私の研究に使わせてもらう。さっ、始めましょ、殺し合いを」
ヤンも拳を構えて雷氷毒に相対する。
「上等ヨ!ハンターとして、ヴラド!お前を狩る!」
*
バイアスの四方八方から、血が凍ってできたスケルトンが襲いかかってくる。バイアスは長い氷の槍を振り回すと、それらをバラバラに打ち砕いていった。
「どうしたブリーズ、お前はその程度の強さだったか?」
「うあ……う」
挑発するバイアスに対し、ブリーズは朦朧としながら呻いている。
「……ちっ、哀れすぎるぜ」
すると突然、ブリーズの右手から電気がほと走り、バイアスに向かって飛んできた。
「うぉ!」
バイアスが木の上に飛んで攻撃を避けると、今度は左手から火炎が飛んできた。氷の壁を作るもすぐに蒸発し、白い霧が辺りを覆う。
「『雷血』や『炎血』の体をツギハギにして作ってんのか!とすると次は……!」
ブリーズの足元から紫色の煙が吹き出し地面に浸透して行く。そして地面の下から吸血鬼の死体が飛び出してきた。バイアスに這いずりながら向かって行く。
「死体が死体操ってんじゃねえ!」
氷の槍を飛ばして死体の動きを一体一体封じながら、ブリーズの攻撃に対応していく。
「くそっ!ハンター達の亡骸は回収してたが、吸血鬼の死体はノーマークだったぜ!」
するとバイアスの背後から血のスケルトンが掴みかかり、バイアスの動きを封じようとする。バイアスが引き剥がそうとしているとき、ブリーズが炎を纏った左手をぶつけそうとする。バイアスは、操り人形のように不自然な動きで向かってくるブリーズを見て、目を伏せた。
「……俺はもう、お前のそんな情けねえ姿を見たくねえよ」
拳がぶつかる寸前、バイアスを中心にして『
「──『
そしてバイアスは槍を振るい、ブリーズの首を切り飛ばす。そして氷塊を生み出し、上から叩きつけて頭部を砕いた。スケルトンと死体は糸が切れたように動かなくなる。バイアスは息切れしながら木にもたれかかった。
「はぁ、はぁ。クソ、あの程度の領域範囲で、ちょっと使っただけでこれほどの疲労かよ。一度使ったらもう動けねぇな」
バイアスは上を仰ぎながらぽつぽつと呟き始めた。
「ブリーズ……お前はすごいヤツだったよ。多くの吸血鬼を従え、難易度の高いダミーも使いこなした。お前には吸血鬼としての才能があったんだよ。……だが人の上に立つ才能はなかったな。鉄血の真祖に喧嘩を売って死んで、残った部下達はお前への忠誠を忘れて、協力することもなく共喰いをしていた。……さっきの技はな、お前を倒すために生み出したんだぜ?それなのに俺以外のヤツに殺されやがって……情けねえな、お前も俺もよ」
森の中に、バイアスの独り言だけが反響していた。
*
「おらっしゃあああああああ!!!!」
エルマは『毒血』のメアリーに対し、生み出したカッターナイフのような剣を持って斬りかかった。メアリーが木の枝の上から飛び移ると、元いた枝は一刀両断された。
「……」
メアリーは指先から毒を飛ばし、エルマの剣にぶつける。剣の先端は錆び付いて崩れていった。だがエルマは依然笑みを浮かべている。
「キタキタキタァー!この剣の本領発揮の瞬間!」
すると剣の途中が折れ、スルスルと新たに刀身が飛び出してきた。
「キッドに教えてもらったんだが、サメの歯は一生生え続けるんだとよ、そして歯の下にはすでに新たな歯が用意されてるんだってさ、私はこれだ!と思ったね。なんど腐らされても新たに生み出せばいい!そんなコンセプトで作られたのがこの鮫歯剣さ!」
「……」
「あ!お前今、雑な解決法だと思ったろ!たしかにスマートじゃないけど!
メアリーの表情は全く変わっていないため、ただのエルマの被害妄想なのだが、メアリーの意識が有れば間違いなく似たような指摘をしたであろう。
「だが!お前はこのゴリ押しの解決策の前に敗れるんだよ!」
エルマは鮫歯剣を振り回す。刀身を切り離し、辺りに撒き散らしながらメアリーを追い回した。だがなかなか決着はつきそうにない。そのとき、エルマは戦いの最中に動きを止めた。
「……!アンナちゃんが小刀に血を吸わせて使ってる!よかった、無事だったんだ……!」
その隙を狙って、メアリーが片手を上げ、手の上に毒液を集め始める。浴びれば死を避けられない量だ。だがエルマは余裕の笑みを浮かべている。
「何をやっても無駄だよ、あんたはもう負けてる。多少腐ろうが私の生み出した鉄はまだ生きているんでね!」
突然、あちこちにばら撒かれていた刀身が、形を変え、槍となって四方からメアリーに襲いかかる。そして全身を貫こうとした瞬間──
「……まいった」
メアリーの言葉と共に、槍は体の寸前で止まった。毒液は霧散し、メアリーは両手を上げて降参している。
「ふっ、あんたようやく意識を取り戻したみたいだね」
「ええ、なんとか『毒血支配術』を解除できたわ」
「それじゃあ……仕切り直してやるか!戦い!」
「え?嫌よ」
「……は?」
エルマはポカーンと口を開ける。
「いや当然でしょ。私たちが戦う理由ないじゃない」
「え、でも前は私とキッド二人がかりの勝負だったし、きちんと決着つけないと」
「そんなの気にしてるのあなただけよ。そんなに気になるならあなたの勝ちでいいわ。はいはい私の負け負け〜」
「うわムカつく」
エルマがメアリーを取り囲んでいた槍を解除すると、メアリーは森の奥へ歩いていく。
「死んでいたのを叩き起こされた気分はどうだ?」
「最悪ね。さっさと二度寝したい気分よ」
「……どこへ行くつもりだ?」
「どこでもいいわ、どうせなら自分の故郷に行って死のうかしら、そこまでこの体が動くならだけど」
そしてメアリーは森の闇に消えていった。メアリーを不満気な顔で見送った後、エルマは研究所の方を向く。
「さて、アンナちゃんを助けに行かなきゃな」
*
ザンギスはキッドに対し、自らが見た地獄を、楽しかった思い出を語るかのように話し始めた。
「20年ほど前、このヴァーニア王国は隣国、ムーン王国と戦争を起こした。なんで戦争になったのかは知らないけどよ。まあとにかく俺はその戦争に参加したんだ」
(20年前の戦争……!僕の父、ツェペシュ王が『闇血』に唆されて起こした戦争だ……!)
「俺はその時、背格好だけが大人になったガキでな、そこでは何もかもが新鮮な体験だったよ。そう!あの地獄での経験が!今の俺を形作ったのさ!」
ザンギスは喋りながらキッドに斬りかかる。
「さっきまで話していた仲間が、次の瞬間には頭部を鉛玉で撃ち抜かれていた。みんなを鼓舞していた頼れる兄貴分が、爆弾から俺を庇ったばかりに臓物を撒き散らしながら『痛ぇ、痛ぇ』って喚きながら目の前で死んでいった。無謀な作戦を立てて多くの死人を出した無能な指揮官は、今も年金をもらいながらのうのうと生きてやがる。良き父が、良き兄弟が、良き市民が、戦場にいる。ただそれだけの理由でなんの罪もないのに死んでいった」
キッドは力の込められた太刀筋を受け、押し飛ばされる。その時、キッドがザンギスの顔を見ると、そこには狂気に満ちた笑顔が浮かんでいた。
「最っっっっっっ高だったよ!」
ザンギスは両手を上げて、天を仰ぎ見ながらまくし立てる。
「俺はあの戦場で気がついたんだ!俺は生まれながらの狂人なんだと!そしてなぁキッド!俺はどうやら、死ぬのがてめぇみたいな強いやつほどそそるらしい!人格もよければなお良しだ!」
ザンギスは再び刀を構える。
「その点、ヴァンパイアハンターは俺の天職だったよ!
ザンギスの興奮に呼応するかのように、攻撃は苛烈に、激しくなっていく。キッドは身を守るので精一杯だった。
「そして気付いたんだよ!俺の望みは地獄を作り出すことだと!戦場で味わった地獄の味が忘れられなくて、俺は地獄を生み出しているんだ!どうだキッド!これでも俺をわかりたいと思うのか!?共感したいと思うのか!?俺はなぁ!爪先から頭のてっぺんまでイカれにイカれた男なんだよ!」
ザンギスの力強い一撃が、キッドを吹き飛ばす。キッドは膝をついたあと、大太刀を杖代わりにして立ち上がり、ザンギスをまっすぐに見て言った。
「違う」
「……あ?」
キッドの言葉にザンギスは怪訝な顔を浮かべる。
「あなたの望みが地獄を生み出すということなら、一つ説明できないことがある。ザンギス、どうしてあなたはそんなに死にたがっているんですか?」
「……俺が死にたがっている?」
「ええ、自ら武器を取って戦ったり、死地に赴いたり、地獄だけを望むならそんな必要はないはずです。あなたが本当に望んでいるのは、地獄を生む自分を打ち倒すもの、英雄だ!」
「……!ち、違う!違う!違う!」
「違わない!あなたは戦場で英雄を望んだんだ!地獄を壊してくれる英雄を!だが英雄は現れなかった!それに絶望した貴方は、自ら地獄を生み出すようになったんだ!いつか英雄が!地獄を壊すものが現れるのを望んで!貴方は狂人でもなんでもない!戦場で心を病んだ、ただの人間だ!」
「俺をそんな哀れな存在に見るんじゃねええええええええええええ!!!!!!!!!」
自分の本心を言い当てられたからなのか、ザンギスは急に平静を崩し、激昂しながら突撃する。それに対し、キッドは大太刀で居合の構えをとる。
「ザンギス……もう終わりにしよう」
ザンギスは刀を上段から振り下ろす。キッドはそれに対し、目にも止まらぬ速さで居合斬りをぶつけた。あたりに甲高い金属音が響き渡る。
「な……!」
ザンギスの持つ刀は、真ん中で二つに折れ刀身が宙を舞った。そしてザンギスの真上の木の枝に突き刺さる。
「それは僕が作った刀なんだ。弱いところは僕が一番良く知ってる」
「てめぇ……刀を受け流しながら、弱っていた部分に疲労を蓄積させてやがったのか……!」
ザンギスは折れた刀を捨て、胸元から
「……ああ、そうかもなぁ、そうかもしれねぇなぁ!俺は英雄を望んで、強くて高潔な奴を狙っていたんだ!だがよぉ!俺が期待したヤツはことごとく死んじまったぜ!?お前もその一人になるんだよ!キッドォォォォォォォォォ!!!!!」
ザンギスは精神を集中させ、キッドの殺意を読む。
(読めた!ヤツの殺意を!ヤツは突っ込んできて、刀で胴を刺突するつもりだ!ギリギリでかわして首を切り裂いてやる!)
だが、ザンギスの予想は外れ、キッドは刀を上段に構えながら向かってくる。
(……なぜだ!?殺意はどうやったってごまかせないはず!なぜ殺意で読んだ予知と違った結果になっている!?)
ザンギスは目の前の光景に呆気に取られている。気がつくと、すでにキッドに刀の間合いまで距離を詰められていた。
「う、うおおおおおおお!!!!!!」
ザンギスは慌ててナイフで反撃しようとする。それを見て、キッドはポケットから古銭を取り出し、指で弾いて打ち飛ばした。だが古銭はザンギスではなくその真上に向かって飛んで行った。
「下手っぴが!どこを狙ってやがる!」
だがしかし、次の瞬間、ザンギスのナイフを持つ手に、刀が落ちて突き刺さった。キッドは枝に突き刺さっていた刀を狙って打ち飛ばしたのだ。
「てめぇ……!刀を叩き折るときから、ここまで計算をして……!」
キッドは大太刀をザンギスに叩きつける。だが、キッドはぶつかる寸前に刀を回し、刃ではなくみねをザンギスの頭に叩きつけた。
「……かはっ!」
ザンギスの頭は揺らされ、脳震盪が引き起こされた。ザンギスはよろめき、血をだらだら流しながら膝をついた。
「……なぜだキッド、お前の殺意は本物だったはずだ……なぜ……」
「……言っている意味がよくわかりませんが。確かに、僕はあなたに対し強い殺意を持っていました。アンナちゃんを拐ったあなたを、殺したいほど憎んでいた。……でも僕はあなたを殺さないと決めていたんです」
「……なぜだ?」
「あなたが人間だからです。僕があなたを殺せば、それは私刑になってしまう。人間である以上、あなたは人間の法で裁かれるべきだ」
「……はっ、信念が、殺意を上回ったってことかよ」
その時、ザンギスが急に咳き込み始めた。とっさに口を手で覆うも指の隙間から血がこぼれ落ちる。
「げほ!ごほ!……クソ!なんなんだよ!これは!『毒血』のガスは吸い込んでないはずなのに!」
キッドはゆっくりと歩いてくると、ナイフを見ながら話し始める。
「ザンギス、あなたのその吐血は、そのナイフが原因なんだ」
キッドは、ヴォルトとした会話を思い出す。
───
「ヴォルトさん、吸血鬼の再生を阻害する武器というのを知っていますか?」
王城の一室、ニールが眠る部屋で、キッドは薬を調合しているヴォルトに話しかけた。
「ああ知っているよ。例えば毒武器、『毒血』の力で再生を阻害する毒が作れる。それを染み込ませたものを毒武器というんだ。まあ
「でもその武器、『凍血』の吸血鬼相手でも効果を発揮していたんです」
「……となれば、それは放射性物質を利用した武器だろうね」
「いったいなんです?それは」
「それは放射線と呼ばれる、目には見えない光のようなものを発している。そして強いものになると人の体を破壊し、がんや機能不全を引き起こす。そしてこれは代謝の活発な器官で顕著なんだ。さらに吸血鬼というのは代謝が非常に活発な生き物でね、強い再生力はそのまま放射線に対する脆弱さを表す。つまり放射線を用いた武器は、対吸血鬼の
「……でもそんなに強力なのに、ハンターさん達がそれを使っているのをあまり見たことがありませんよ?やっぱり『雷血』の吸血鬼たちが広まらないように情報を制限しているんでしょうか?」
「それもあるけど、その武器には大きな欠陥があるからなんだ」
「欠陥?」
ヴォルトは諭すようにゆっくりと言う。
「……キッド、放射線は相手だけじゃない、武器を持つ自分自身にも悪影響を及ぼすんだ。その武器は自分の寿命と引き換えに相手を滅ぼす、悪魔の武器なんだよ」
───
「人間と吸血鬼の体の構造はほとんど同じなんです。再生を阻害するほど強い放射線を発する武器が、人体になんの影響も及ぼさないはずがない。そのナイフから発せられる放射線が、あなたの体をじわじわと蝕んでいたんだ。あなたはそのナイフを胸元に入れていた。吐血したのはおそらく、肺が機能不全を起こしているんでしょう」
「……なあ、これを作ったヤツはそれを知っているのか?」
「それを誰が作ったのかは知りませんけど、どういう仕組みで吸血鬼の再生を阻害するか知っていたのなら、人体への悪影響も把握していたはずです」
「……そうかよ」
ザンギスが体を動かそうとすると、再び咳をして吐血する。
「動かないでください!あなたの肺を治せる医者を僕は知っています。あなたには、治療が済んだ後に法の裁きを受けてもらいます。……だから、死なないでくださいよ」
「……約束はできねーな」
そのとき、道の先の方から破裂音が響き渡った。
「……これは銃声の音!?マリアさん達になにが!?」
キッドが先に進もうとしたとき、ザンギスのことが気になり、足を止めて不安げに振り向く。ザンギスはキッドを見てニヤリと笑って言った。
「は!この体で逃げられやしねーよ。さっさと行きな!」
キッドはその言葉を聞いて微笑を浮かべた後、研究所に向けて走っていった。ザンギスはキッドの姿が見えなくなった後、一人呟く。
「英雄ってのは、お前みたいなのを言うんだろうな……キッド」
ザンギスは、近くにあった折れたキッドの刀を拾い直すと、その柄を力強く握りしめた。
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