幕間4 フリーダ様のなるほど吸血鬼講座

 これはキッドが少し大きくなってきた頃のお話。


「キッド、今日は私たち吸血鬼のことについて学びましょう」

「はーい!」


 教室のような部屋でフリーダは黒板の側に立ち、そしてキッドとエルマが席についていた。


「……あの、フリーダ様。キッドはともかくなんで吸血鬼である私も席につかされてるんです?」

「吸血鬼が人の血を吸う理由は?」

「美味しいからです!」

「ほらやっぱり講義が必要じゃない」


 フリーダは軽くため息を吐きながら話を続ける。


「この世界には吸血鬼と呼ばれている存在がいるわ。それは人間と姿かたちがそっくりだけど、牙が伸びていたり、羽が生えていたりと細部で違うところがあるの、そして極め付きは日光に弱く、人の血を吸うというところね」

「吸血鬼が日光に当たったらどうなるの?」

「答えてみなさいエルマ君」

「メッチャ熱いです!」

「落第!」


 エルマの顔面にチョークが飛んだ。


「吸血鬼が日光をまともに受けると体が燃えて死んでしまうの。昼間で5秒、夕方なら10秒といったところね、火の明かりは平気よ。『雷血』の奴らは太陽光線に含まれる紫外線が吸血鬼の構造を破壊するんだとか言ってたわね」

「血を吸うのは?」

「自らの体の維持に必要なのよ。1週間近く血を吸わなかった場合、肉体が暴走し始めて人の形を保てなくなると言われているわ」

「1日吸わないだけでもお腹が減ってたまらなくなるのに、1週間近くも血を吸わないなんてことがあるんですか?」

「前に私に襲いかかってきた『雷血』の吸血鬼がいてね。まあ返り討ちにしたんだけどそいつが持ってた研究資料にいろいろ載ってたのよ」

「それって人体実験したってことですか!?うへぇ相変わらずマッドな連中……」

「まともな倫理観持ってるのはヴォルトくらいじゃないかしら」


 すると、キッドが手を挙げて発言した。


「さっきから言ってる『らいけつ』?ってなんなの?」

「ああ、そこも説明しなくちゃならないわね」


 フリーダは黒板に『鉄血』、『雷血』、『炎血』、『凍血』、『毒血』の字を書きはじめた。


「吸血鬼には5つの種類がいるの、私たちは『鉄血』の吸血鬼になるわ」

「鉄を自由自在に生み出し操れるんだ。鎧から武器、道具に至るまでなんでもござれさ」


 エルマがドヤ顔でそう言う。


「そして私たち『鉄血』の吸血鬼が求めるものはそう、『自由』よ。誰にも縛られず、自分の意思で行動することを至上とするわ。真祖はこの私、フリーダよ。エルマも『鉄血』の上位吸血鬼エルダーヴァンパイアね」

「確かにエルマお姉ちゃんはいつも自由だね!」

「そうそう、私の普段の行動は『鉄血』としての行いなんですよ」

「……エルマ、お前の行動は自由でなく傍若無人というんだ。自由には常に責任が伴うことを理解しておけ……」

「ひぃ!フ、フリーダ様!キッドの前です!」


 フリーダは深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


「さ、それじゃ次はさっき言ってた『雷血』ね。雷を生み出し、自在に操るわ」

「おへそ取られる!?」

「取られはしないけど……まあ安心して、金属である鉄を操れる『鉄血』は『雷血』に対し有利な立場にあるのよ、だから襲ってきても返り討ちにできるわ」

「でも最近は雷で動かす道具を使うこざかしい奴らも出てきてますよ」

「そんなの道具ごと叩っ斬ればいいのよ。『雷血』の吸血鬼が求めるのは『真理』よ。そのためにいろんな研究を行っているわ。頭のいい人物を吸血鬼にならないかと誘うこともあるわね。研究のためなら周りがどうなってもいいっていうヤツも多いから気をつけて。キッドは『忌血』で珍しい存在だから特にね」

「う、うん」


 キッドが唾を飲み込んで答えた。


「『雷血』の真祖はデウスっていうお爺ちゃんよ。昔存在した大帝国の元老院やってたそうで、今もその時の服を着て自慢してるのよ」

「話の長い爺さんだからキッドも気をつけろよ〜」


「次は『炎血』ね。炎を自在に操るわ。こいつらの求めるものは『闘争』よ。戦い大好きな戦闘狂ばかり、厄介な奴らよ」

「修行と研鑽大好きなヤツらさ、出会ったら即逃げるんだね。弱いヤツと思われれば襲いかかってこないから」

「真祖はアグニ、脳筋のバカだけど、自分がバカと理解してるバカだから甘く見ちゃいけないわ。自分のダミーをあちこちに送って強いやつに戦いを挑んでるから、一番出会う確率の高い真祖ね」


「お次は『凍血』冷気を操るわ。彼らの求めるものは『栄光』まだ見ぬ秘境を見つけたり世界一周を目指したりとか高尚な目的のものからひたすらに自分の配下を増やして勢力を伸ばそうとするものまでピンキリね。栄光を求めるが故に吸血鬼でありながらヴァンパイアハンターをやってるバイアスなんてのもいるわ。そして真祖のアイズは相当の変わり者よ。『栄光的』であるかどうかとか、よくわからない基準を元に行動してるわ」


「そして……」


 フリーダは一瞬苦虫を噛み潰したような顔をした後話し出した。


「『毒血』よ。ヤツらの毒は私たちの鉄を腐食させることが出来るから天敵ね。求めるものは『支配』私たちの『自由』と正反対の目的を持ってるわ」

「別に敵対してるわけじゃないけど、あいつらが私らを『支配』しようとして喧嘩売ってくると無性に腹が立つんだよねー」

「真祖のネロはとんでもない支配欲を持っているわ。すでに一つの大国を支配していて、最終目的は世界征服とか全ての生物の支配とかなんとか」

「幼女の見た目をしているのは可愛さで油断させようとしてるんですかね」

「見た目に似合わず老獪かつ冷静な思考を持っているわ、そして一度手に入れたものは決して手放さない執念もね」

「そのぶん配下への待遇も手厚いそうですよ。まあいくら良い待遇だろうが『支配』される気はさらさらないですけど」


「そしてこれらのカテゴリに入らない奴らがいるわ。それは『あん血』ヤツらは複数の属性の血を持っていてそれを操るの」

「こそこそと裏で暗躍する陰気臭い奴らさ」

「あいつらが求めるのは『絶望』よ。人、吸血鬼問わず他者を絶望に染めようとするわ。いうなれば世界の敵ね。真祖の名はヴラド、今はいないわ。でも配下達が真祖復活を目論んで自らをヴラドと名乗って活動しているみたい。見つけ次第滅ぼすべき存在よ」

「しつもーん、『しんそ』とか『えるだー』ってなーに?」


 再びキッドが質問をする。フリーダは黒板に字を書きながら答えた。


「『真祖』とは吸血鬼の祖となるものよ。全ての『凍血』や『毒血』の吸血鬼はその各々の真祖がルーツとなっているの。真祖から直接血を与えられて吸血鬼となったものを上位吸血鬼エルダーヴァンパイア、上位吸血鬼に血を与えられたものが普通の吸血鬼よ」

「私はフリーダ様から直接血を分けてもらったから上位吸血鬼になるんだ」

「普通の吸血鬼の血を与えられたらどうなるの?」

「吸血鬼にはならないわ。血が薄くなりすぎるからね」

「普通の吸血鬼は、もうずっと吸血鬼のままなの?」

「真祖に認められて血を与えられることで上位吸血鬼になることはあるわ」

「吸血鬼となった人は、人間に戻れるの?」


 その質問に、フリーダとエルマは言葉を詰まらせる。


「……ないわ、今のところはね」

「じゃあ最後に質問……『忌血』ってなんなの?どうして僕は、他の人と違って髪が白くて目が紅いの?」


 キッドの目尻には涙が溜まっていた。


「……町で何か嫌なことがあった?」

「ううん、僕はフードを深く被ってたから……でも町で石を投げられていた忌血の男の人がいて……ねえ、忌血が吸血鬼を引き寄せるって本当?みんなを危険に晒すって本当?」

「結論から言うわ。……忌血は周りの人々に危険を及ぼしたりしない、それが事実よ」

「本当!?……でもそれならどうして人々は忌血を恐れるの?」

「それにはまず忌血がどういったものか話す必要があるわね。……忌血は人々の間で突然変異的に生まれる存在よ。白い髪と紅い目を持っているわ。そして忌血は普通の人々よりという特徴があるの」

「吸血鬼に近い……?」

「血が吸血鬼に適合しやすいのよ。美味かつ栄養も豊富、吸血鬼にとって最高のごちそうね。忌血一人の血で数十人分の血を賄えるわ」

「そんなに……」

「あー聞いてたらお腹減ってきた。キッド血を吸っていい?」

「授業中の飲食は禁止よ」

「うへぇ」

「でここからが本題よ。たしかに忌血は吸血鬼を引き寄せるわ、でもね、忌血は他の人々を守ってもいるのよ」

「そうなの!?」

「吸血鬼が襲ってきたら一回の襲撃で何十人も犠牲が出るわ、でもそこに忌血がいたら一人の犠牲で済むの。そして生き残った人々は忌血の人間だけが襲われるのを見てこう話すわ、『忌血は吸血鬼を引き寄せる』とね。これが忌血が危険を及ぼすという誤解につながっているのよ」

「つまり……僕が犠牲になれば皆を守れるってこと?」

「なあに言ってんのキッド、迫害してくる奴らなんて守る必要なんかないでしょ」

「やめなさいエルマ。キッドは優しい子なのよ」

「まあキッドが他の吸血鬼に襲われても私たちが守るから安心してよ」

「もう一つ、キッドが強くなるという方法もあるわ。襲ってきた吸血鬼を倒せば、周りも自分自身も守れるのよ」

「うん……ぼく……強くなりたい……」


 キッドはこくりこくりと首をふると、そのまま前のめりになって眠ってしまった。


「ああキッド!ベッドで寝ないと!」

「もう夜遅いですからねぇ。……ところでキッド、ちゃんと今日の内容覚えてるのかな?ちなみに私は既に内容半分くらい忘れちゃいました!」

「お前はもう一回再講義だあああああああああ!!!!!!!!」


 夜は更けていくのだった。


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