第93話 四天王の配下



 目覚めると、馬車の中だった。


「サオリ、目が覚めたのね。」

「おはようございます、サオリ様。」

 両隣から声をかけられる。エロンとルトは、私の手を握って笑う。


「あぁ、また気を失ったんだね。ごめん。」

「気にすんな。病弱の勇者ってのがいても、仕方がねーだろ。」

「そうね。魔王を倒したらゆっくり療養することをお勧めするわ。特別に、私の別荘へ招待してあげるから、感謝しなさい。」

「なら、みんなでゆっくり休みたいね。」

「僕はどこまでもお供しますよ。」

「私もよ。」

「もちろん、私の別荘なんだもの、私も行くわ。」

「おらも招待してくれるっていうなら行くぜ。魔王を倒せばそれなりの稼ぎになるからな、当分働かなくていい。」

「アルクさんとリテさんも、サオリ様の騎士ですから、来てくださると思いますよ。楽しみが増えましたね、サオリ様。」

「うん。」

 体を起こそうとしたら、エロンが手伝ってくれた。心配だからと、エロンとルトが体を支えて座らせてくれる。

 馬車の中には、アルクとリテ、オブル以外の仲間がいた。アルクとリテは、御者をしているのだろう。オブルは・・・あ、いた。


「ありがとう。ところで、今はどこに向かっているの?」

「町です。とりあえず、一休みしようという話になりまして、宿のある町へと向かっています。サオリ様が気を失っている間に、何度か魔物と遭遇し、倒しました。確実に僕たちは強くなっています。」

「そろそろ、頃合いだと思うの。次の町で休んで、まっすぐ魔国へと向かおうと思うわ。どうかしら、サオリ。」

「・・・そうだね。」

「何か?」

「その町にしばらく滞在しようと思ってる。そこで、連携を完璧にして・・・魔王を倒しに行こう。」

「わかったわ。なら、2週間ほど滞在する予定でいましょう。」

「うん。」

「サオリ様、何を考えているのでしょうか?」

「・・・みんなに確認したいんだけど、魔王の勢力はどれくらいなの?」

 魔王の配下はどれくらいいて、どの程度の強さなのか。私はそれを全く意識していなかったが、魔王にも四天王以外に配下がいるはずだ。


「あまりはっきりしたことはわからないわ。魔王の下に四天王がいて、その下にまた多くの魔族が従えている。そうね、数はわからないけれど、四天王の従える配下には特徴があるわ。」

「わかる範囲でいいから教えてくれる?」

「いいわよ。まずは、もう倒されたクグルマの配下だけど、魔法を主力に置かず、力で押し切るタイプの魔族が多いわ。外見は人ではなく獣に近いわね。」

「クグルマも2足歩行の獣で、魔法を使っていませんでしたね。身体強化などは使っていたかもしれませんが。」

「そういえばそうだったね。」

 クグルマとの戦いを思い出すが、彼は一切魔法を使っていなかった。剣を使うようだったが、私との戦いでは素手で戦っていた。力に自信があったのだろう。


「次にトリィ。逆にこちらは、魔法を使う魔族が多くて、姿は人に近いわ。美男子が多いので、悪魔と呼ばれているわね。その顔と甘い言葉で人をだます悪魔・・・それを従える残虐思考の美女なんてね。」

「トリィ自身魔術師って聞いたけど、確か近接戦も強かったよね。」

「魔族だからな。人間よりは、身体能力も魔術も上だ。トリィ自身が実際どちらを極めているのかは、おらにはわからねーが、おらたちよりどちらも上だろうな。」

「よく、そんな魔族を敵に回しているよね。」

「それは、おらもよくそう思った。だから、勇者を召喚するのだろう。」

「・・・」

 トリィの戦いを思い出すが、あの時はあまりよく見ていなかった。ラスターの方が気になって仕方がなかったんだよね。

 でも、魔法は見ていないからわからないが、トリィを脅威に感じることはなかったので、大丈夫だろう。


「最後にラスターね。なんで最後かっていうと、ルドルフについてはよくわからないからよ。今まであまり表に出ていなかったし、ルドルフが人間を襲うときはラスターの配下を使っている様子なの。」

「ルドルフには配下がいないの?」

「わからないわ。もしかしたら、魔王城の警備を担当していて、人間を襲う配下を連れて来ることができなかったのかもしれないわね。」

「魔王城の警備・・・ということは、相当強い配下ってことだよね。」

「もしそうならね。配下がいないだけかもしれないしわからないわ。それで、ラスターの配下だけど、村で見たような・・・あぁ、サオリはわからないわね。ドラゴンの山で見たような魔物や、人型の魔族ね。クグルマとトリィの配下を両方持っている感じかしら。」

「あの魔物か・・・そういえば、クグルマの魔物は剣を使うの?」

「そういう報告はなかったわ。」

「そう。」

 おそらく、脅威なのは四天王だけだろう。


「四天王の動きはどう?」

「ルドルフが、ウォームの町や村を襲ったという報告を受けたわ。あと、おとなしかったトリィも動き始めたようで、こちらはクリュエルを中心に動いているようよ。ラスターに動きがないのが不気味ね。何かの前触れかしら。」

「トリィは、クリュエルにいるんだ・・・今どこにいそうとかわかる?」

「えぇ。ウォームに近い村を狙っているようよ。」

「・・・わかった、ありがとう。他に、何かわかっていることはある?」

 みんなを見まわして聞くが、プティが話したことがすべてのようだ。あとでアルクとリテにも確認をとったが、プティが一番このことについては把握していたようで、大したことは聞けなかった。


 ただ、アルクからは、トリィが体術を極めていることは聞けた。ただ、魔術もプティよりも使えるだろうと予測していて、結局どちらも桁違いの力だと判断することになった。



 町に着いたのは、夕方。食事をして、それぞれ自由時間となった。

 私は、部屋に入って、移動魔法を使いゼールのもとに行く。


「おかえりなさいませ、さおりさん。」

「ただいま・・・っ」

 自然にただいまと返したが、ここは私の家ではない。何となく恥ずかしくなった。


「ふふっ。さ、こちらへどうぞ。」

 手を引かれて、椅子に腰かける。ゼールは手際よく紅茶を入れて、私の前に温かい紅茶が用意された。


「ありがとう。」

 私は、これから話すことを考えて少し憂鬱になった。


 町にいる間、私は四天王を倒そうと思っている。でも、四天王を倒しに行くのは、ゼールを連れてと約束していたのだ。あの時は、何も考えず約束したが、ゼールを連れて行って大丈夫なのか不安になった。

 彼は強い。でも、私より弱い。だから、心配なのだ。


 もし、彼がいなくなってしまったら。


「冷めてしまいますよ。」

「あ、うん。」

「私は待っていますから、話したくなったらどうぞ。」

「・・・ありがとう。」

 悩んでいることがバレバレのようだ。とりあえず、紅茶を飲んで落ち着いたら話そう。


「ん、今日はハーブティー?」

「はい。リラックス効果があるそうですよ。」

 確かに香りを嗅いだだけで落ち着く。


「サオリさん、今日はお疲れのご様子ですね。話は後日にしましょうか。」

 話・・・そういえば、昨日はゼールに会っていなかった。私は気を失っていて、ゼールのところに来ることができなかった。そのことも気になるはずだろうに・・・


「そんなに疲れてる顔してる?」

「いいえ。ただ、簡単に私の罠にはまってしまったので、お疲れなのかと。昨日はお越しいただけませんでしたし。」

「・・・え、罠!?」

 何をされた?私はあわてて自分の状態を確認したが、手足の自由が利かないとか、声が出せないとか、そういうことはない。なら、そういうことだろうなと思って、私は移動魔法を使った。


「移動魔法・・・」

 宿の部屋に移動魔法を使うが、私は移動しない。


「成功のようですね。」

 にっこりと笑うゼールの目は、笑っていなかった。


 嫌な汗が流れる。

 どうしてこんなことになったのか、理由ははっきりしていた。


 昨日、私がゼールに会いに来ることができなかったからだ・・・



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