第64話 転生ってやつ
ガタゴトと揺れる馬車の中、私は美形に囲まれていた。
ピンク髪のローブを羽織った少女は、私に向かって寂しそうに微笑む。
なぜか頭から動物の耳が生えた少年は、白い肌を一層白くしてこちらを見ている。
金髪青目の王子様のような青年は、難しそうな顔をしていて、その隣の緑髪の青年は、なぜかピンク髪の少女を睨んでいる。
「本当に、覚えていないのですか、サオリ様。」
動物耳の少年が確認をしてきたが、そもそも覚えていないとはどういうことか?
「えーと、召喚されたんだよね私。たった今。まさか馬車の中で召喚されるとは思ってなかった・・・セオリーでは、玉座の間とか神殿とかで行われるはずだけと、実際は違うんだね。」
「サオリ様・・・」
「なぁ、サオリ。お前は、神から力を授かっているか?」
王子様のような青年は、にこりともせずに質問をしてきたが、その質問に心当たりはない。
「何、力って?え、もしかしてチートってやつ?」
「ちーと?」
「人より優れている能力があって、その力で世界を救うってのがよくある話なんだ。私にもそれがあるの?」
「・・・あるはずだ。」
「そうなんだ。なら、世界を救うのが楽になるね、よかった。」
何も力の無いまま魔王を倒せとか、無理な話だ。物語ならどうにかなるのかもしれないが、これは現実。素の私のままでは、そこら辺の魔物も倒せないだろう。
「ちょっと騒がしいわね。サオリが目覚めたの?」
周りを覆っている布の前のほうがめくられて、そこから金髪青目の美少女が顔をのぞかせた。気の強そうな顔をした、お姫様のような少女だ。
「あ、私がサオリだよ!あなたも一緒に魔王を倒してくれる仲間なの?よろしくね!」
「・・・はい?」
「あれ、違った?きれいな人だし、仲間かと思ったんだけど・・・」
あきれたような視線を向けられて、焦る。美少女にこんな目で見られたくない。
馬車が町に到着した。
私は魔王討伐隊というらしい人たちと、宿に泊まることになった。いろいろな説明は、金髪青目の青年アルクがしてくれた。これから話し合いが行われるらしく、私たちは借りた部屋の一つに集まった。
「で、本当に何も覚えていないのかしら?」
金髪青目の美少女プティに問われるが、覚えも何も私は召喚されたばかりだ。何を覚えているというのか。
「えーと、私は私がいた世界で死んで、生き返らせてもらう代わりにこの世界を救うよう女神に言われて、この世界に召喚されたよ。それだけしか覚えがないけど。」
「・・・クリュエル城のことは?」
「王女様!それは・・・!」
緑の髪の青年リテが非難をするが、プティは取り合わずに私だけを見て、どうなのかと再度聞いた。
「聞いたこともないけど・・・それが魔王城の名前?」
「・・・魔王城に名前はないわ。なら、移動魔法は?私たちの名前にも覚えはないの?」
「移動魔法?旅が楽になりそうな魔法だね。どっちも覚えはないかな・・・女神もあなたたちのことは言ってなかったし。」
私の言葉に、みんな考え込むように黙った。
困った私を見て、アルクが説明をしてくれた。その説明によると、私は記憶喪失らしい。私がこの世界に召喚されてから数か月がたち、私は彼らと共に魔王城へ向かっている最中だったらしい。
「何か思い出せそうか?」
「ごめん・・・全く。ちょっと信じられないし。」
「・・・そうか。」
肩を落とすアルク。
「まったく、また記憶喪失だなんて、困ったものね。」
「また?」
また、とはどういうことだろうかと思い、プティに顔を向ける。
「あんたが記憶喪失になるのは2度目なのよ。一度目は仕方がないにしても・・・今回のは意味が分からないわね。」
どうやら2度目の記憶喪失らしい。私の頭は大丈夫だろうか?これが死んだ後遺症だとしたら、また記憶を失うかもしれない。
私がひそかに恐怖していると、後ろからバチンと音が聞こえて振り返ってみれば、顔を赤くはらした獣耳のルトがいた。今の音は、もしかして自分で顔をたたいたのだろうか?
「プティさん、どうしますか?サオリ様は移動魔法すら使えない状態です。僕としては、サオリ様の思うままにしたいと思いますが、さすがに危険でしょう。僕は、あなたの判断に従うべきだと思いました。どうしますか?」
「・・・他はどうなの?アルク、あなたは?」
「俺もプティに従う。どうやって魔王を倒すのか、その考えを聞いていなかったからな。」
「そう・・・リテとマルトーはどう?」
「僕は、引き返すべきだと思います。最初から意見は変わりません。」
「どうせ雇われの身だ。判断は任せる。」
「わかったわ。・・・サオリ、あなたは?」
「え、私?えーと・・・何の話かよくわからないけど、あなたの判断は聞きたいと思う。」
私の言葉にプティは頷いて考え込んだ。その時間は1分と満たない時間だったが、私はひどく緊張した。
「クリュエル城に向かうわ。」
「王女様!?」
「プティさん・・・」
「まだ行くとは決めていないわ。ただ、進むにしても引き返すにしても、クリュエル城の情報は受け取っておくべきと思ったの。」
クリュエル城の情報?
はてなマークを浮かべる私に気づいて、ルトが説明してくれた。どうやら、クリュエル城には、魔王や魔王の配下などの情報があるらしい。それなら行くべきだろう。
プティが全員の顔を見渡して反対意見がないことを確認した。
「決まりね。予定通り、クリュエル城に向かうわ。」
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