第9話 村
クリュエル王国の城下町の宿屋で一晩休み、私は2人の騎士に連れられて、ウォーム王国へと向かった。
本当は3日ほど宿で休む予定だったが、私がもうこの国にいたくないと言うと、予定を早めて出発してくれたのだ。もうこんな国、2度と来たくない。
私は初めて馬というものに乗った。リテの前に乗せてもらっただけだが。何もしていないが、落ちたらどうしようかと思えば怖いし、すぐ後ろに男の人がいるというのもだいぶ緊張した。それが伝わったのか、リテは途切れることなく会話を続けてくれたので、気が紛れて助かった。
リテは、この国の話も簡単に話してくれた。なんでもこの国は魔王が納める国の隣にあるらしい。だからこの国が勇者召還を、つまり私を召喚することになったらしい。
この国の王は、即戦力である勇者が欲しかった。でも、召喚されたのは、移動能力という非戦闘向けの能力持ちだった。しかも女。
でも、そんなこと私は知らない。期待通りでなかったからって、あの扱いはないだろう。
それと、水晶についても聞いた。水晶とは、私が召喚されてすぐに触った、魔法のアイテムだ。あれは、メインの能力がわかるらしい。
能力は、持っている人は珍しくないが、複数持っている人はなかなかいない。複数持っている人は、その中でも一つだけの能力しか表示されないらしい。その能力が一番育てやすい。
だが、本人がどのような能力を持っているかなんて、普通は水晶でしかわからないらしいので、複数持っている人もその能力が一番伸びるのではないかと、私は思った。
2つ目からの能力は、他の能力者を見たりして、自分もできるかもとやったら、能力があった・・・なんて、感じで見つかるようだ。
おそらく、これのせいでもあるのだろう。私がひどい目にあったのは。
あの部屋で、私は3人の兵士に囲まれて、様々な暴力を振るわれ回復していた。そのとき、兵士の一人が、水晶を持っていることがあったのだが、これはきっと録画していたのではないか?そして、その映像を多くの者に見せ、能力の発見に使ったとしたら?
「今日は、この村に泊まりましょう。」
背後から聞こえた優しい声に、ハッとして返事をする。考え事に夢中になっていた。
村には、宿というものがなく、村長の家で泊まることになった。夕食は質素だったが、暖かく、それだけでおいしく感じた。
明日も早いので、もう寝ようかと話していたところ、外から何か物が倒れるような大きな音が聞こえて、騒がしくなる。
「僕が見てきましょう。アルクは、サオリさんの傍に。」
「わかった。」
リテが出て行った方を見ていると、大丈夫だ、とアルクに頭を撫でられた。でも、心配なものは心配だ。
騒ぎが収まったかと思うと、すぐにリテが戻ってきた。
「盗人でした。村のはずれにろう・・・罪人を捕らえておく家があるそうなので、連れて行きます。先に寝ていてください。」
「・・・あぁ。ありがとな。」
「いいえ。では、おやすみなさい。」
こちらに安心させるような微笑みをかけるリテ。それに、牢屋と言おうとした言葉も言い換えてくれた。だいぶ気を使われているようだ。
「気を付けて。」
「ありがとうございます。」
リテが去ると、アルクは「寝るか」と言って、準備を始めた。
布団を敷き終えた。ちなみに、3列に並んだ布団の真ん中が私の布団だ。何かあった時のためとはわかっているが、恥ずかしい。一緒の部屋というだけでも気まずいのに。
そんな私の目の前に、突然アルクの背中が迫った。
「さがって。」
理解できない私を置いて、状況は進んでいく。
外から聞こえる荒々しい音は、複数の人間がたてる音だ。心臓がバクバクと嫌な音をたてた。怖い。
アルクの手には、剣が握られている。いつの間に、と考えているとき、部屋に一人の大男が入ってきた。そして、それに続いて、小汚い男たちが数名入ってきて、部屋は一気に狭くなる。
「青い髪か。身なりはいいが、本当に貴族か?」
「外に立派な馬がいやした。どこぞの金持ちには、ちげぇねぇでしょ。」
私たちを値踏みするように見て、好き勝手に言う男たち。青い髪ということは、私が目当てなのだろう。私は、日本人離れした顔立ちに、青い髪と赤い瞳を持っている。
カタカタと、足が震える。立っているのが辛いが、座り込むわけにもいかない。
「部屋の隅に。大丈夫だ、俺が守るから。」
アルクの声に顔をあげるが、彼はこちらを見ていない。だけど、その言葉を信じて、私は部屋の隅へと移動した。小さな部屋だから、2,3歩後ろにさがっただけだが。
「騎士様かっこいいーねぇー、ヒューヒュー。」
「だが兄ちゃん、この人数だぜ?それに狭い部屋だ、その得物を振り回したら、嬢ちゃんを傷つけちまうかもしれねーぜ?わかったら、さっさとその女をよこしな。」
下卑た笑いが聞こえて、悪寒がはしる。
泣き叫ぶ私に笑って剣を振るう兵士。
腕を失くした時の絶望・・・
勝手に思い起こされた記憶に、体が震えた。
「うずくまって、なるべく小さく・・・」
アルクの言葉に従った私に、何かが覆いかぶさる。掛布団だ。
湿ったそれは、普通の人なら嫌かもしれない。でも、牢屋に比べればこの程度何でもない。それに、これはアルクがかぶせたものだから。
私の耳に、肉を立つ音が聞こえた。剣同士がぶつかる金属音も。
どれも聞き覚えがある。
野太い悲鳴。剣が肉を切る音。金属同士のぶつかり合う音。
そして、笑い声が聞こえた。狂ったような笑い声。
現実の音なのか?それとも、これは記憶?
城が襲われたときの記憶?
肩に何かが触れた。
「ひっ」
思わず悲鳴が漏れた。
「ごめん、もう大丈夫だ。俺だよ。」
掛布団がはがされて、血なまぐさいにおいが鼻を突いた。
「もう大丈夫だ。」
「・・・う、うん。」
男たちは、うめき声をあげながら倒れていた。まだ、彼らは生きている。
彼らは生きている。
「生きているの?」
「あぁ、急所は外した。」
「そう。」
なんで殺さなかったんだろう。
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