第3話 殺人鬼解放
私は、足を止める。そこは、牢屋の前。中に人がいるのを見つけて、私は立ち止まった。
中にいるのは、おそらく男性。両手両足を縛られ、目隠しと猿轡をされている。これでは、話すことは出来ないだろう。以前、返事がかえってこなかったことに納得した。
私は、彼を殺人鬼と断定し、彼の牢屋へ移動魔法を使い入った。男はこちらに顔を向け、じっとしている。
「私の話を聞いて。条件をのんでくれたら、あなたを逃がしてあげる。今から、あなたを牢屋から出す。そしたら、この城から逃げていいよ。で、逃げている間に見つけた人間を片っ端から殺してくれる?」
そう言って、私は猿轡だけを外す。
「答えは?」
「・・・武器は?」
男の声は意外と若い。勝手におっさんを想像していたので驚いた。
「ない。そこら辺の兵士から調達して。」
「わかった。」
私は、男の手足を縛るロープを外そうと近づいたが、諦めた。ほどけそうにないと感じたのだ。少し考えて、私は一つ思いついた。
「・・・ま、やってみようかな。」
男の肩を掴み、男と一緒に牢屋の外へと移動するイメージをした。そのとき、ロープは男とは別物考える。これが成功すれば、これからできることが増える。
「なんだ。変な感じがしたな。ん?もう外したのか。」
牢屋の外に移動した私は、男を見る。もう男は縛られていなかった。牢屋の中には、先ほどのロープが落ちている。
「成功。」
実験が成功したことに喜んでいると、何かを肩に掛けられた。
「なんて格好をしているんだ。」
どうやら上着を貸してくれたらしい。触り心地の良い上着に疑問がわく。
男を見れば、先ほどの恰好と変わった様子がない。どこからこの上着を取り出したのか?それに、捕らえられていたにもかかわらず、上等な上着をここまで清潔な状態で持っていられるものだろうか?
あと、目隠しを取らないのはなぜだ?
色々と疑問はあるが、とりあえず、上着について聞く。
「この上着は?」
「あぁ。洗い立てだから綺麗だ。安心しろ。」
「・・・そう。ありがとう。」
面倒なので、これ以上聞くことはやめた。本当にどこから取り出したのか不思議だったが、今はそれどころではないのだ。上着に腕を通して、前ボタンを留める。
「準備はできたようだな。なら、行くか。」
「できるだけ殺してね。」
「・・・お前は行かないのか?」
「私はやることがあるから。」
「手伝うぞ?」
それはありがたい提案だったが、私の憎しみを晴らすためには、私の手であの王を殺すべきだ。だから断る。
「・・・遠慮しとく。それに、あなたができるだけ殺してくれれば、それが手伝いになるの。だから、頼んだよ。」
本当はこの城の人間すべてを殺したいほど憎んでいる。でも、そんなことをできるほど、私は人を殺しなれていない。一人を殺している間に、他の人間に逃げられるより、殺人鬼にその人間を殺してもらった方がいい。誰も逃がさない。全員に死んでもらう。
「わかった。なら、もう行く。助かった。ありがとな。」
「こちらこそ、上着ありがとう。」
「・・・大丈夫か?」
男の一言で、私は泣きたい衝動にかられたが、同時に憎しみが心を支配する。その憎しみが、私に涙を流させない。
「声が聞こえた。・・・悪い。」
「あなたが謝る必要はないよ、殺人鬼さん。」
「それは、そうだな。その上着はやるから、気にすんな。じゃ。」
男は走って、先へと進んでいった。
殺人鬼の男と共に行けば、今後の生活も楽になるかもしれないと考えた。でも、私にはやるべきことがある。
自分の力を知らなければならない。そして、その力で。
「全員、殺す。」
消えた傷の痛みが、熱さが、苦しさが蘇る。いまだ残る恐怖で手が震えるが、それに上書きするように、憎しみで手が震えた。
所々に転がる死体。剣で急所を一突きにされている。
「すごい。さすが殺人鬼。プロは違うね。」
血の匂いが辺りに広がっているが、そんなこと慣れた。自分の血の海に沈むよりは、何も感じない光景だ。
「いたぞ!」
前の角から兵士たちが現れる。その数は5人。
「殺せ!」
剣を構えてこちらに駆けてくる兵士を見て、私は近くに転がっている兵士の剣を手に取った。兵士は、すでに私に向かって剣を振り上げていた。
私は、素早く剣を上げた。
剣と剣がぶつかる音。私に剣を振り下ろしている兵士と目が合う。その顔は驚いているようだった。
そんな私たちにかまわず、兵士の後方右から、私に斬りかかろうとする兵士が現れたので、その横っ腹を蹴る。すると、面白いように兵士は飛ばされて、壁に体を打ち付けた。
目の前の兵士が動揺した。私は素早く後ろにさがり、体勢が崩れた兵士を斬りつけた。続けて、後ろの兵士も3人続けて斬る。
動かなくなった兵士を見て、ため息をついた。
「なんだ、簡単だね。」
今まで何を怯えていたのだろうか。
神様から与えられた能力。戦闘能力は、大いに活躍してくれた。
これで一通り、神様から与えられた能力は使った。自動治癒、移動魔法、戦闘能力。このうち、メイン能力である移動魔法以外は、最初の水晶で見破られることはなかった。
ただ、その後に斬りつけられたせいで、自動治癒の存在が知られてしまった。でも、最後の能力、戦闘能力だけは今まで隠し通していた。
それも、今日で終わり。
もうここにいられないというのなら、今まで我慢してきた憎しみを、全ての能力を使って晴らさせてもらう。
自分の能力を知る実験も兼ねて、一石二鳥だ。
「さて、次の実験は・・・あ、丁度いいところに。」
窓の外、おそらく中庭に、見慣れた3人の背中が見えた。
この国で最も面識がある3人は、私が憎しみを向けるのに最適な人間たちだ。
脳裏に浮かぶのは、私を見下ろす6つの目。聞こえるのは下卑た笑い声。恐怖と憎しみがあふれ出すが、別の感情がわずかにある。
それは喜び。
私はにやりと口をゆがめ、笑った。
やっと、晴らせる。この憎しみを。
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