5-34 田中さんの目的
「15年前、貴方は一度、邪竜ティアマトと戦っている。
そして負けた。違いますか?」
田中さんの投げつけた一撃によって、私の頭に酷い頭痛が走る。
私じゃない、彼女の感情があり得ないぐらいに暴走していた。
あり得ないとあり得ると、混乱と困惑と、彼女と私の持っている情報を一緒くたにしてまとめ切れずに叩きつけている。
(イナンナ様!!)
私の方から彼女に関与するなんて初めてだった。
(しっかりして下さい!! イナンナ様!!)
出来る事なんて限定的だったけれど、呼びかける事で少しだけ彼女の冷静さを取り戻させる。
”どういう事……? 私は知らない。失敗したって本当なの……?”
いや、冷静と言うよりは止まってるだけか。
(イナンナ様! 惑わされないで下さい! まだそれが本当かどうかわからないんですから!)
私の声が届いたのか、ようやく本当の意味で静かになる。
そして、私がイナンナ様とやり取りしている間、対峙している二人の男達も無言を貫いていた。
「貴方は、私ほど演技がうまくは無い」
「ああ、俺はお前ほど演技はうまく無い」
ようやく口を開いたのは田中さんからで、ほぼオウム返しのようにギルガメッシュ様が言葉を返す。
「ええ、わかりました。ありがとうございます」
その言葉だけで、二人はわかりあってしまったようだった。
「質問の答えは頂きました。では、改めてこちらの目的をお教え致しましょう」
私が見ていても、ギルガメッシュ様の動きに何らおかしなところは無かった。
なのに、田中さんはそれに満足してもう一つの爆弾を放り投げた。
「難しい事ではありません、私は龍神ティアマトに妻と娘の復活を願っただけです。
代償は、来る時に備えてギルガメッシュ様の両腕を奪う事でした。腕一本につき一人ですね」
すぐに私は田中さんの部屋で見た写真と、彼のあの乱れ様を思い出す。
「田中さんのご家族って!」
たまらず私は声を上げてしまう。でも、それに対しても田中さんは冷静な態度を崩さなかった。
「ええ、あの写真の二人ですよ。今はこの世に存在していません。
おそらくは15年前のギルガメッシュ様とティアマトの戦いに巻き込まれたのでしょう。
いえ、今日の彼が肯定してくれましたから間違いないです」
全く私には理解できなかった。
でも、田中さんはそれを確信している。
そして、ギルガメッシュ様の言葉も、質問の意味は違えども暗にそれを追認していた。
「ハタナカ、お前、どこまでを知っている?」
「どこまで、ですか。ほとんど、ですかね。
まぁいいでしょう、冥途の土産に置いていきますよ」
明らかに場の主導権を握っているはずのその声は、どうしてか妙に疲れ切った響きがする。
「昔話になりますが、12年前でしょうか。
私がギルガメッシュ様の……いえ、この場は霧峰様とお呼びしましょう。霧峰様の下に配属されました。その半分の理由は偶然でした、ですが、半分は私が志願したのです。
その頃の私は行方不明になった家族の事を必死で探していたのです。そんな中、ベール教の要人警護の仕事が回ってきました。しかも、裏事専門の要人だと印付きのね。
私は志願しました。裏事に詳しいのであれば、家族の情報も探せるかもしれないと思ってね。
採用されるにあたり、独り身であるという点が重要視されたのは皮肉な事ではありますがね。
その時からです。私は貴方と一緒に仕事をしながらずっと追っていたのです、家族の行方を」
ずっと探していたと言う事に関しては、以前に言っていた事と、今、頭上で語られている彼の言動に矛盾は無い。
「仔細はご存じの通りです。私は貴方の役に立つように努めた。皇国とベール教のパイプをつなぐだけでなく、国内での荒事の事前、事後処理、はては龍神教とのパイプ役なども色々やりました。
そうしていくうちに私は貴方の信頼を得て、隣につくことが出来たのです。
それからというもの、仕事の合間に色々な情報を探らせて頂きました。
15年前に消えたのは私の家族だけではない事、それをベール教が主導して隠蔽していたのは早くから見つけることが出来ました。
ただ、私はその原因まではわからなかった。
正直、今になっては家族への未練なんて実の所とっくに無くなっていましたよ。それでも、原因の方はずっと探し求めてはいました」
でも、私はここの言葉に嘘を感じていた。未練が無い人があんな荒れ方をするはずがない。
静かに、でも全てを吐き出すかのように、彼は話を続ける。
「転機は今回の仕事で龍神教とのパイプを任されてからです。龍神教の方に潜入している際に、偶然にも私にも龍神ティアマトから声を掛けて頂きましてね。
その場では断ったのですが、有無を言わさずに先のような条件だけは提示されてしまいました。
もっとも、私が願ったのは、家族の生死や、死んでいるならば原因の方を私は尋ねたのですがね。
それに関しての回答は無くて、代わりに復活の話だけが私にもたらされました」
とうとうと話す内容の中に、隠せていない違和感あるのを私は感じていた。
……そして、龍神や邪竜と言われるティアマトがどういう存在なのかも、薄々と私の中で理解が出来ていく。
「その話に食いつくつもりは毛頭ありませんでした。その奇跡を目の前にしても気は変わりませんでしたよ。
ただしそれも、先ほどまで、ですが」
「どういうことだ! お前は何を知った! 変心した理由なんだ!」
ようやく発したギルガメッシュ様の叫びは、私の疑問と同じだった。
「変心した理由? それは先ほどの質問の答えでもありますが、事実を知ったからですよ。
貴方が隠していた事、ティアマトがやりたい事の両方を知ったから、私は自分がやるべき事を見つけたまでの話です」
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