5-23 二度目の実戦

 死を振り撒くはずの爆音は一瞬にして消え去り、視界からは色が抜け落ちた。


”ちょっと厄介よ! 少し厚くするわ!”


 前もって二枚だけ用意しておいた防壁をイナンナ様は重ねて運用する。

 加速された空間に入った私は、明かりの乏しい夜闇の中でもゆっくりと高速で迫りくる銃弾をしっかりと捉えていた。


”反動制御が行われていない! 弾道がブレているから守りにくいわ!”


 イナンナ様の叫びと共に迫りくる弾道を凝視する。

 確かに銃弾の弾道は最初の時に比べて散っていた。


 無作為に散らされると、狙われてはっきりとコースが分かるよりも確かに防ぎにくさはある。

 でも、逆を言えば、取捨選択をちゃんとすれば当たるコースの弾は少ないはず……?


 彼女の言葉とは裏腹に、後ろの先生の事を考えながら多数の中の二、三発を弾いただけで後はかすりもしなかった。


 初撃の当てが外れた後、ガシャンガシャンとお決まりのような機械音と共に、ゆっくりとそれは全身を露わにする。


”案の定、二体目は一人乗りの一型ね”


 最初に見たそれよりも幾分細い姿で、右腕に特徴的な円柱を備えていた。


”正気かしら? 恐らくだけれど、試作最初期型の甲式のように見えるわ。

 主武装は多目的ガトリング砲一つだけのはずよ。

 威力だけ考えれば十分に厄介だけれど、魔力の消費が多すぎて中の人を殺す主要因になった武器なのに”


 分析することはイナンナ様に任せて、私は先生に声を掛ける。


「先生、追われていたのはこれにですか?」


 思考加速されている分、話すのも長くて億劫だし、返答が返ってくるのも同じ以上に長い。


「あ、ああ。これ、これだ!」


 正面にいる敵から視線を切るのはちょっと躊躇ったけれど、遅い返事に後ろを少しだけ気にすると、先生は腰を抜かして座り込んでしまっていた。


「どのくらいの間、追われていましたか?」


「わからない! 十分か、三十分か、時計なんて見る余裕なんて無かった」


 十と三十と言う数字だけ頭に入れて、あとの先生の言葉は後ろに流す。

 私は話の相手をすぐに切り替えて、意識を正面を向きなおした。


(イナンナ様、これ、もしかして?)


”ええ、直接叩くより、自滅を狙った方が早そうね”


 全力で運用すると五分も持たないで中の人が死ぬという話は私もちゃんと覚えている。でも、そんなに燃費が悪いなら、どんなに節約していたとしてもそんなに長くは持たないだろうと言う事でお互いの認識が一致した。


”足を使って相手を動かせれば良いのだけれど、さすがに後ろのそれは放置しないわよね?”


(はい)


 先生を見捨てると言う案も私は拒否する。


”それであれば対応は簡単よ。全部防ぎきる。それしかないわ。

 武装が一門な分、十分に弾は積んでいるはずだけれどそこは我慢所ね。

 攻め入らない分、集中すればさっきの戦いよりは楽なはずよ”


 ゆっくりと持ち上げられた筒が私を捉える。

 それに合わせて同じように私は槍を回していく。

 お互い臨戦態勢に入った所で、動き始めたのはロボットの方からだった。


 その体に似合わず、ロボットは人の速度よりもやや早いぐらいの速度でサイドステップを行い、側面を突くように動いてから弾を吐き出し始める。


 意表を突かれたとはいえ、肉体の悲鳴を無視した加速を行っている私にはさして気になる速さでは無かった。


 前回の復習とばかりに演舞を行い、切っ先から魔力を紡いで防壁を作り出す。

 視線は前方を見据えたまま、当たる当たらないをちゃんと判断した上で、丁寧に私とイナンナ様は弾を弾いていった。


”いいわ、相手が動けば動くほど自滅までの時間が縮まるわ”


 イナンナ様はそう言ったけれど、確かに相手は良く動いていた。何か意図があるのか、相手は私とある程度の距離は保っていたけれど、左右にフェイントも混ぜながらこちらに弾をばら撒いていく。

 一度はジャンプさえした。予備動作こそ大きくて、結果的には私に時間をくれたようなものだったけれど、違う射点からの攻撃はちょっとだけ逸らしにくかった。


 数えきれないぐらいの無数の弾を凌ぎながら、私は一つ気付く。

 多分、このロボットは、私を狙っているんじゃなくて、先生を集中して狙っていると言う事に。


”弱者から掃討するのは基本よ。それに、もしかしたら何か見たのかもしれないわね、それは”


 彼女の言葉に頷く暇は無かった。


 弾倉交換リロードがあった前回の相手とは異なり、どこにそんなに弾があるのかわからないぐらいの物量が飛んでくる。

 当たってはいないし、凌ぎきってはいるけれど、一発でも当たればアウトって状況があるせいで少しずつ私の精神は削れていく。

 緊張が途切れたら即終わりなのはわかっていた。

 緊張を切らさないように、殊更相手に集中していくと、短いはずの時間なのに薙刀を合わせている時のようにお互いの癖が理解できるような気がしてくる。


 次第と射撃と防御のタイミングが合って来ていた。噛み合っていると言うより、読まれて合わせられているような予感がする。

 そう感じる時は大抵危険な兆候なのはわかっている。


 意識をさらに引き締める。


 こちらからタイミングを崩す事はしない。守り切る事を目的にしてひたすらに弾く。


 相手の手を色々と考え常に予想外に備えていたのだけれど、それ以上の奇策は相手から出てくることは無く、最後に粘り勝ったのは私だった。

 読まれつつあるタイミングを使われる前に、ついに相手の弾が切れたのだった。

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