5-24 終わりと、終わりと

 ガラガラとガトリング砲の空転する音が深夜の山に響いていく。


 私は構えこそ解かなかったものの、少しだけ体の力を緩める。

 凌ぎ切った事への安堵は多少なりとも私に残っていた。


 そして、この行動が、安堵の気持ちを持つことが相手にとってどういう事なのか私にはわかっている。

 だから、行動が読めたのは相手だけではなくて私も同じだった。


 力を緩めたまま、ゆるりとした動作でお決まりの槍を回し、自然な所作で私はロボットに背を向けた。

 先生の姿を一瞬だけとらえた後すぐに目を固く閉じる。


 次の瞬間、閉じた目にもわかるような大光量の光が発せられ、耳は爆音に突き刺されて、一瞬だけ鼻まで痛くなった。


 閃光爆弾はいつ何時でも警戒するようにしていた。だからこそ、私はこのタイミングで来るだろうと予測出来ていたわけで。

 即席の演舞を続けながら即座に振り向いてロボットに正対する。そして、目を開いた私の前に広がったのは、無数の宝石が飛んでくるような光景だった。


”ここで魔法弾の連射は無茶よ。最後の足掻きにもなりはしないわ”


 彼女の声は、無謀を晒す姿に呆れたようなそれだった。

 魔法弾と呼ばれた色とりどりの宝石もかなり近くまでは迫ってきていたけれど、結局のところ私にそれらが届くことは無かった。


”あの武器、複数ある砲身一つ一つに主要な元素の魔法が使えるようにしてあるのよ。単に銃弾をばら撒くだけじゃなくて、用途に応じて色々とできるようにね。

 でも、所詮それだけよ・・・・・・・


 きっとそれは、火炎放射のように人を業火に包むことも出来たのだろう。

 水流で魔法使いの火の玉を打ち落とす事も出来たのだろう。

 雷球で戦車や機械を壊したり、大地を調節して地面から攻撃も出来たのだろう。


 ただ、今私に来るのはそれらの要素が単に弾になったものだけで、結局のところ実弾と同じように防壁で弾けてしまっていた。


”もう既に魔力が枯渇していたのね……。魔法と呼べるものでさえなくなっているわ”


 宝石のような魔法弾が降り注がれたのは本当に短い時間だけだった。

 攻撃が止んだ後、銃身は地面へと向けられ、ロボットは安定して立てる姿勢を取って動きを止めた。


『搭乗員の生命活動が停止しています。至急搭乗員を交換してください』


 音を立てるものが居なくなった空間で、相変わらずのラジオのような音質の声がロボットから発せられる。

 直後、胴体にあった操縦席が開き、中の人がむき出しになった。


 戦場になった駐車場は暗かった。もともと暗かったのに、幾つかの電灯は銃撃でなぎ倒されてしまっていて、戦闘前よりもその場の光量は少なくなってしまっていた。

 色も戻らない視界だったけれど、じっと見据える事で、私はそこに乗っている人の様子を確認する。

 顔が見えないのは頭を下げているからだった。長い髪が前に垂れ下がっていて、余計に顔を隠している。

 コートを着た姿。

 多分細めの体なのか、干からびたような雰囲気。


 私は警戒しつつもゆっくりとそちらの方に足を進める。


 魔力感知の視界でみても、ロボットはおろか、その操縦者からさえも魔力は感じなかった。


”大丈夫……そうね”


 私は足を速める。

 その中の人が気になった。

 思い違いでなければいいのだけれど。


 視界が良くないし、見間違えならいいのだけれど。


 私がロボットの足元まで来てもそれは動かなかった。

 強化された身体能力に物を言わせて、私は開いた操縦席に乗り込む。


 その操縦者は椅子に座ったまま、両手で操縦用なのか棒を握ったままだった。

 遠目から見た通り、両腕は干からびてしまっている。それともう一つ気になったのは、その両腕がしっかりと金属で留められていた事。まるで、手錠を掛けられたかのように。


 顔はやっぱり長い髪で隠れて見えなかった。

 体は全く動いている様子は無くてはた目にはもう駄目だとわかっていたのだけれど、一応確認はしないと。


「生きていますか?」


 もどかしい口での発声と一緒に、イナンナ様が私の魔力を使って金の糸を伸ばす。


”それを繋げればわかるわ”


(魔力の糸……ですか?)


”そう。生きていれば操れる。死んでいれば何も起こらないだけよ”


 いつか学校で見た糸は、その干からびた体に近づく。

 繋がった瞬間、ピクリとだけその体が微動した。


(まだ生きてる?)


 手を伸ばして確認したかった。

 片手には槍を持ったままだし、もう片方は狭い操縦席の中に納まるためにバランスをとるのに使っていてすぐには出来ない。


”生きている……とは言い難いわ。ここまで枯渇していると、手を施しても生きるかどうかは微妙な所ね”


 私は体の位置を調節して、何とかして片手を開けようとする。

 緊張感は持っているつもりだけれど、焦っているのか少し手間取ってしまっていた。


「…………」


 かすかな声が聞こえた気がした。

 私は動きを止めてそれに集中する。


「……て」


 その声の元は、目の前にいるその体からであるのはすぐにわかった。


(イナンナ様!)


 助けられませんか? と言いたい私の気持ちは、伝える前にそれが無理なのだとわかってしまう。

 魔力感知の視界で、どんなに目を凝らしてみても反応が見えなかった。生きる力が少しでも残っていれば何かは見えるはずなのに。


 私は白くなってしまった長い髪の後ろに隠れている顔を見たかった。

 どこかでよく見た気がするコートと、その中に見える学校の制服を見て、私の胸はぎゅうぎゅうに締め付けられている。

 学校の生徒なんて沢山さらわれているのだし、多分それは違うはず。


「……に……」


 手を伸ばすのを一旦諦めた私は、うわごとの様に繰り返すその言葉に耳を傾けた。


「……にげ……。……てき……は……せん……」


 言葉を理解するのと、背中に悪寒を感じるのは同時。


 訓練その三をしっかりと守っている私は、即座にその場から横に飛んだ。いかなる時でも気は抜かない。

 直後に白い槍のような、棘のような何かが私が居た場所を貫く。


 勝ったと思っても気は抜かない。


 学んだ事をちゃんと実践できていると感じるのはそこまでだった。

 私が逃げた後、その棘がどうするのかまでは考えていなかった。


 棘は、操縦者の胴体ごと、むき出しになっていた操縦席を易々と貫いていく。

 目にも止まらないような高速での出来事であっても、加速された状況の私の目には知覚できる速度で……


 貫かれた衝撃が広がり、体の上と下がさようならをしていく中、白髪の隙間から見えたその顔はやっぱり私の大の親友のものだった。

 

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