4-16 創始者の挨拶

 昼ご飯を出店で済ませた後、私たちは駐車場スペースを使ったイベント会場にいた。

 かなり広めの駐車場スペースの端にトレーラーがあり、それを仮設のステージに仕立てていて結構本格的な感じがする。

 私達は子連れと言う事で運よくステージ前の方に通してもらうことが出来たのだけれど、後ろを見ると、こんなにも人が来ていたのかと言うぐらいびっしりと観客が来ていた。


 人の壁が後ろにできているせいで、外でもあんまり風が当たらなくていいんだけれど、何かあったら困るよねこの位置……

 逃げるときは本当に夜野さん頼みになるのかな。


 そんな事を考えながら、開始までのわずかな時間に、私は会場の入り口で貰ったパンフレットに目を通していく。


 ・龍神教の説明

 ・龍神教の加護

 ・入信に関して


 うん。イベントの中身としては特に穿ったところは無さそう。

 気になる所は加護と入信の部分かな。と、目星をつけておく。


 軽くパンフレットに目を通し終えたぐらいで、ちょうどイベントの開始時間となり、一人の中年の男性がステージに立った。


「皆様、本日は龍神教神殿の建立イベントにようこそおいでくださいました!

 私は本日の司会進行、説明を担当させて頂きます、大越と申します。

 よろしくお願い致します」


 仰々しく挨拶をする司会を見ながら、ああ、この施設、神殿扱いにするんだ、と今まであまり気にしていなかった事を考える。


 確か宗教施設にしてしまえば税金とか安くなるんだっけ。

 そんなことお父さんが言ってたな。

 ふとした拍子にお父さんの事が脳裏に出てきてしまい、私の気分が少し落ちる。


「早速ですが、これより我らが龍神教の成り立ちと現在に関して説明をさせて頂きます。

 それでは、こちらのスクリーンをご覧ください!」


 考え込んでぼーっとしていた視界に入って来たのは、トレーラーのステージ上に建てられた大きなスクリーンだった。

 スクリーン上に光が2、3回走った後、初老の知らないおじいさんがそこに写される。


「ご覧ください! かの人が龍神教の創始者であります!」


 その声と共にステージの近くにいた信者がたちが盛大に拍手を始めた。

 それを冷めた目で見ながら、私はどのようにそれをスクリーンに映したのかの方を気にしていた。


「映画の映写機……かな?」

「でしょうね」


 漏れた言葉に夜野さんが反応する。

 単なる宗教イベントなのに、随分と大掛かりな事をやっていると二人で感心して頷く。


「ちなみに、かの方は創始者でありますが、本人のたっての願いにより龍神教ではその名を明かしていません。私たちは単に『創始者』とだけ呼んでおります。

 さて、それでは、創始者の方より、龍神教のご説明をさせて頂きたいと存じます」


 司会者が再度仰々しくお辞儀をした後、全員の目は紹介された男性に向けられた。


「私が、龍神教の創始者です」


 スピーカーから、大した威厳も無い普通の初老の声が会場に響く。

 皆が一気にざわめいたのは次の瞬間。


 二次元の間っ平らなスクリーンから、そのおじいさんはステージ上に飛び降りる様に出て来たのだった。

 どうみてもそれは立体的で本当に人がいるようだった。でも、よくよく見ると後ろが微妙に透けて見えている。


「何あれ!!」


 夜野さんが堪え切れずに口に出す。

 私はすぐに魔力を感じる様に……と思ったけれど、結界の事が頭をよぎりそれを止める。


 何をしているか見破りたいところではあるけれど、変に動くようなことはしないようにしないと。

 本当に危険な時にはイナンナ様が合図してくれるはずだし、それまでは静かにしよう。


「わからないけれど、魔法なのかな……?」


 口に出した私の呟きへの解答は、創始者と呼ばれた男性からだった。


「皆様驚きの事でしょう。まずはこの場にいない無礼をお先に詫びさせていただきます。

 その上でご説明いたしますと、これは魔法を使った立体映像記録になります。本人である私はここには居ません、きっと今も本部で仕事中でしょうな」


 観衆のざわめきの中に、はっはっはと彼の笑い声が響く。


「ご来場いただいた皆様には、このような常識を超えた神魔法も、龍神様のご加護の一部だとご理解ください」


 それは今まで見たことが無い現象で、さらに加護の一部だと彼は言う。

 場がさらにざわめくのは必然だった。


「さて、場が騒がしくなっている事かと思いますが、これからしばし我々龍神教の歴史に関して少し説明をさせて頂きます。

 しばしの間ご清聴をお願いいたします」


 その場にいた皆が興味を持ってしまったのか、場が静かになるのに時間はかからない。


「今は龍神教などとたいそうな名前をつけていますが、キッカケは良くある話なのです。

 かれこれ、15年前でしたか。私は偶然にも龍神様の声を聞くことが出来ました。

 ええ、そして、私は龍神様の声に従い、あるものを発見しました。

 一言で言うならば、賢者の石、神の血、聖遺物。そういった類の物です。

 それを見た時、私はすぐにわかりましたよ。

 ああ、これは本物だと」


 そう言って彼は、懐から片手に収まるぐらいの大きさの赤み掛かった鉱石らしきものを取り出す。


「今はこの大きさですが、実は発見した時はもう少し大きな塊でした。

 龍神様曰く、龍の血だそうですがね。眉唾だと思うでしょうが、この石は本当に神聖なものなのです」


 立体的に映る虚像が持つその赤い塊。それが本当に魔力を持つものなのはどうかは全然わからなかった。

 お金稼ぎの為に信者に売りつけるんだろうか? と他の方向で考えが飛ぶ。


「この龍の血を少しだけ削って人に与えると、治療魔術ではどうしょうもないような傷が治ったり、潜在魔力の底上げが出来たりと様々なご利益があったのです」


 うさんくささを覚えたのか、周りのざわめきがまた増えつつあった。


「最初の頃、私は龍神教などと名乗らず、身の回りの困っている人にこの血を分け与えて喜んで貰っていました。

 皆に分け与えていくうちに、当然ながら石は次第に小さくなっていきました。ええ、私とて、それに対して多少は勿体ないと思ったり、私欲を感じなかったわけではありません。

 ですが、それはもとより龍神様が、龍の血を使い、広め、困難に喘ぐ人々を救えと仰っていた事なので、使い切ったならばそれで良いと思い、どんどん使っていくようにしていたのです」


 いかにもと言わんばかりの親しみやすさを込めた表情と仕草で、彼は話を続けていく。


「そんなある日の事でした。

 数人を治療し、感謝の言葉を頂いた後で気付いたのです。削って小さくなっていったはずの石が少しだけ大きくなっている事に。

 もちろん気のせいかとは思いました。でも、それは気のせいなんかではなかった。

 治療して元気になった方から龍神様に祈りを捧げて頂いた後で、微量ではありますが本当に大きくなっていたのです」


 ジェスチャーを交えながらそう語った創始者は、手に持った石を上に掲げた。


「一度や二度ではなく、三度四度と繰り返すうちに、私は気付きました。

 皆の祈りで石が大きくなるのであれば、皆が祈りを捧げてくれる限り無限に龍神様の恩恵を届ける事が出来るのではないかと。

 そうして、私はこの龍神様を祭る龍神教を作ったのです」


 初老の老人から出た言葉は、壮大な物言いではなかった。どちらかというと、どこでも居そうな感じの言葉遣いと雰囲気だった。

 それなのに、熱に打たれたように観客のざわめきは止まらない。


「龍神教では見返りとして金銭や他の信者を求める事はしません。ただ、龍神様へ心からの祈りを捧げてください。それだけでいいのです」


 ざわめきは増え、信じる人と信じない人、会場に居る人達は其々に連れ添った人と話をしているようだった。


「今この時点ではご来場の皆様も色々と思う所があるでしょう。

 私の話はここで終わりに致しますが、この後、司会の大越より、実際に龍神様のご加護をご覧頂けるかと思います。

 それを見た後であれば、皆様にも私の言っている事が真実であるとご理解頂けるかと存じます。

 皆様にも龍神様のご加護がありますように」


 そうして彼は、独特のお祈りをした後、最後に砂が崩れ去るが様に消えてしまった。

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