4-15 龍神教のお祭り

「もしそうなったら、だからね? ずっと近くに居てね?」


 匂いってそんなに私臭いするの!?

 って叫びたくなる気持ちを他のやりきれない気持ちと一緒にしまい込んで、優しく私はそう返した。

 もう出来てるか出来ないか全然わからないけれど、大丈夫と信じるしかない。


 ほんとそれしかない。


「うん、わかった! ななえを守るもん!」


 元気よくそう答えるりるちゃん。

 ……良いのか悪いのか、とりあえずりわかって貰えたはず。……はず。

 既に私は頭を押さえる気さえなくなってしまっていた。


「ええ、それでいいわ」


 どちらに言ったのか、夜野さんも私とりるちゃんにそう答えた。

 そして、自然と彼女に目が移ったタイミングで夜野さんはりるちゃんに声を掛ける。


「ところで、ちょっとりるちゃん?」

「うどんのおねぇちゃん、どうしたの?」

「ちょっとだけ稲月さんとお話ししたいからここで待っていてくれる? すぐに戻ってくるから」

「うん、わかった!」

「すぐに戻るからちょっとだけ待っていてね?」


 と、彼女は私に目配せして少しだけ人気が少ない場所に歩いて行く。

 私はりるちゃんが目につきやすい所に居る事を確認してから、夜野さんの所に向かった。


「夜野さん、どうしたの?」

「ちょっと、相談と確認をしたかったの」


 お互い小声で話をする。私の目はずっとりるちゃんを捉えたままにして話を聞く。


「今の所は大丈夫なのよね?」


 と夜野さん。


「うん、大丈夫と言うか、うん、危ない事は何もないと思う」

「……本当に大丈夫?」


 繰り返される問いに、うんと私は返す。


「それならいいけれど」


 夜野さんに結界の事を言おうか少し迷う。

 でも、それ自体は大げさなものではないそうだし、やり過ごせるならやり過ごした方が良いよね。


「でも、なんか嫌な感じがするから、予定通り極力何もしない方向で行こうね、夜野さん。魔法も出来るだけ使わないようにしよ?」


 と言う事で、詳しくは説明しないように私は言った。


「ええ、元よりそのつもりよ」


 頷き返してくる夜野さん。二人の意見に違いはないようで安心したのも束の間、夜野さんはきな臭い話を続けてくる。


「それと、気付いているかわからないけれど、ここに来るまでに既に何人かうちの学校の生徒を見たわ」

「それって?」

「単なる好奇心か、既に手遅れかの判断なんてつかないわ。でも、あのパンフレットだけでも人は集められているって事は事実ね」


 そう、パンフレットには魔力の向上が謳われていた。先生の調べた資料でも。

 その文句に誘われて来た人が少なからずいるって事か。


「色々と確認したいのはやまやまだけれど、今日は大人しくしましょう。

 今日の予定だけれど、とりあえずしばらくは出店で遊んで、お昼からある龍神教のイベントっての見てみましょ?

 見たらすぐに帰る方向でいいわね?」

「うん、いいけれど」


 いいけれど、とまで口に出してから一つの想像が生まれる。

 そのイベントが安全なのかなって。

 それをそのまま口に出してみた所で、意外な答えが夜野さんから返って来た。


「うん、そのイベントって駐車場のオープンスペースでやるみたいだから、最悪何かあったら飛んで逃げるわ」


「私、飛ぶのなんて無理よ?」


 私はすぐに否定する。


 飛ぶどころか、まともに魔法を使えない私の状況を夜野さんは知っているはずなのに、どういうことなんだろう?


 もしかして、一人で逃げる?


 夜野さんに限ってそんな事あるはずないと思う私を、別のアイデアで彼女は補足した。


「二人ぐらいなら抱えて飛べるわ。箒なしでも多分何とかなる」

「箒なしで飛べるの?」

「……ええ、やったことはあるわ。

 正直言うと、一人で飛んだだけだし、二人抱えてってのは初めてだけれどね。

 無茶なのは事実だから着陸時に間違いなく怪我するでしょうね。でも、もし何かあった時に、ここにずっといるよりはいい結果につながると思うわ」


 二人抱えてって所もそうだけれど、そもそも箒なしでの飛行自体、きょうびあまり聞かない話だった。

 道路交通法違反になるし、コントロールの難しさからも箒なしで飛ぼうとする人がいないのだから。


 無茶を感じて驚く私に、彼女はさらにこっそりと耳打ちする。


「これ、誰にも秘密よ? 法律違反とかもあるけど、何より私のとっておきの魔法なんだから」

 

 うん、わかった。と私は小声で返す。


 箒なしで飛ぶこと自体は、適性があったりコントロールが上手な人であれば難しいけれど、決して出来ない事ではない。ただ、どちらかというと個人の魔力特性に依る所が強い技能だった。

 そして、特性無色の夜野さんの場合、感覚でコントロールするというよりは細かな詠唱などでち密にコントロールしていくことになるんだろう。


 一言で言うと、大変そう。うん、とっておきになるわけね。


 りるちゃんの所に戻りながら私はそんな事を考えていた。



* * * * * * * * * *


 りるちゃんと合流した後、私達はメインの会場手前の出店のブロックを練り歩く。出店の数は思ったよりも多く、そして何よりも安かった。


 金魚すくいやら、型抜きは百円で出来て、当然ながら初めて遊ぶりるちゃんはすぐに失敗するものの、店の人は気前よくもう一回分サービスで遊ばせてくれた。


「うー! 難しい!!」


 と、型抜きの板をピンでパッキリと割った後でりるちゃんは叫ぶ。


「難しいよね」


 同意しながら一緒にやっている私と夜野さんもすぐに同じ運命をたどってしまっていた。


「私のはもうちょっとだったんだけどなぁ……」


 私に渡された図柄は傘だった。傘の上部や側面までは上手く切り取れていたものの、最後に傘の柄の部分を綺麗に抜こうとしてそこで割ってしまっていた。


 ちなみに、初挑戦だったらしい夜野さんは、りるちゃんよりも早くパッキリと二つに割っていた。


「過ぎたことは気にしない。それよりそろそろ何か食べましょ」


 飲食店の出店が多い場所を値段をみながら通り過ぎる。

 パンフレットに書いてあった通り、タコ焼きやら、焼きそばやら、綿あめとかの食べ物も格安で、しかも全くそれらは普通の出店の食べ物と遜色ないようなものに見えた。

 最初はお金を使うことを躊躇っていたものの、安さと出店の雰囲気という魔力には勝てずに、結局は三つ四つと色々な食べ物を買っていた。


「多分……食べ物に毒は無いと思う」


 と、食べる前に、念のためイナンナ様に確認したことを、ちょっとだけぼやかして夜野さんに伝える。


「……わかるのね。信じるわ」


 危険が無いとわかってからはみんなで遠慮せずに食べていった。



「焼きそばよりうどんの方がおいしい!」


 焼きそばを口いっぱいにほおばった後で、りるちゃんが言う。


「そう、それは嬉しいわ。今日の夜はうどん食べようね?」


 と夜野さん。

 ああもう、これ、晩御飯は夜野さんの所コースだなと諦観する私。


 いいの? とはもう聞かない、かわりに一言だけ言う。


「たまにはうどんの代金払わせて?」


「ええ、稲月さんが出世したら払って貰うから安心しているわよ?」


 すました顔で返す夜野さんに、無駄かなと私は悟ったのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます