3-14 被害の確認
ドアを閉めた後、ようやく背中を壁から外してほっと一息つくことが出来た。
”良く隠し通したわね”
と、イナンナ様から声が掛かった。
(ええ、ホントに)
私は田中さんと話している間、ずっと背中を隠していた。破れた制服とボロボロになったコートを隠すようにして。
(見つかったら説明大変ですからね)
”自業自得だけれどね”
それはいつも通りのイナンナ様のツッコミで、なんか逆に安心している自分がいた。
”気持ち悪いわねって言って欲しい?”
(いや、いいです)
そう考えながら、りるちゃんを起こさないように静かに服を脱ぐ。
脱ぎ終わった服は予想以上にボロボロだった。
ひどいわこれ……
コートはパンクファッションだし、スカートの破け具合はもしかして下着見えていたんじゃないの? って感じ。
うん。これはこれ以上気にしたらダメ。気にしたところでもう過ぎた事だし。
脱いだ服を全てクリーニング用に置いているボックスに入れる。
あ……、これクリーニングに出したらバレるかな? こんなに破れた服が入ってたらおかしいと思うよね。
フロントの人にバレるぐらいなら大丈夫かと思ったのだけれど、よくよく考えたらホテルに入ってから部屋に入るまでは後ろを全然隠していなかった事自体に気付く。
ああ、もうこれ、今は隠したけどどっかでバレるよね。
こうなったら、もう開き直るしかないか。学校での事故とかにすればいい。うん。
適当な理由を考えてから、私は制服の代わりと言っては何だけれど体育用のジャージを着込んだ。
これで高そうなホテルのレストランで食事をとるのもどうかと思うけれど、内着になる服が無いから仕方ない。
着替え終わった後で起こそうか迷っていたのだけれど、りるちゃんはちょうど着替え終わった頃に目覚めてくれていた。
「おかえり、ななえ」
「ただいま、りるちゃん」
睡眠周期のタイミングが良かったのか、やけにすっきりした感じで起きたりるちゃん。
「お腹すいた?」
「うん」
「じゃあ、ご飯行こうか?」
「うん!」
新品の服を着て、起き抜けでも元気なりるちゃんは私にとってちょっとした栄養補給になっていた。
努めて明るく返事をしていたが、正直疲れ果てていて、私一人だったらご飯も食べに行く気力もなかったしね。
ホテルのレストランに行ってから私は食べまくった。りるちゃんに対して元気な所をアピールする為にも、あと私の体の為にも、とりあえず食べられるだけ食べた。
あ、りるちゃんには好き嫌いなく育ってもらう為に、率先して色々な種類の料理を取って食べるようにしていた。
「おねぇちゃん元気になったから大丈夫よ?」
「良かった! ななえ元気になるのはうれしい!」
こんな会話をしながら食べまくって、今日は置いてあった日本茶を合間合間に胃に流し込む。
りるちゃんも私に劣らず結構な量を食べていた。それは5歳児の食べる量じゃないと後で思ったぐらいに。
「今日は、たくさんななえ食べたね?」
「りるちゃんもね。ごはん美味しかった?」
「うん、美味しかった! でも……ううん、なんでもない!」
食後のお茶を飲みながら、にこやかに会話をする。
りるちゃんの言いたかったことが、「家の方がおいしかった」ならいいな。なんて思いながら、私たちは慣れない自室へと戻って行った。
食事を終えたりるちゃんは部屋に戻るなり、満腹で眠くなったのか、お風呂にも入らずにすぐに寝入ってしまった。
「食べてすぐに寝たら太るぞ、りるちゃん」
なんて、私は、幸せそうな顔で寝入ったりるちゃんに声を掛ける。
そもそもりるちゃんはガリガリなぐらいで、少しぐらい太った方がいいぐらいの体つきなのだけれどね。
しっかりとりるちゃんが寝入ったことを確認した後、私はダッシュでトイレに駆け込んだ。
乱暴にドアを閉め、直後に、体の悲鳴に従ったまま胃の中に入っていた食べ物を吐いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます