3-7 私は仇を討ちたい
もうね、違う意味で泣きたい。
あの後寝てしまったらしく、気が付いたら真夜中だった。
沢山泣いたせいですっきりはしたものの、思い起こすと他の意味で泣きたい状況だった。
(りるちゃんによしよしされるってどういう事? 姉の威厳とか、何もかもあったもんじゃないよね……)
”まぁいいじゃない、ダメ姉なんだし”
(……ありがたいですね。イナンナ様のその言葉)
この場は変に否定されるより、肯定される方がありがたく感じる。
私は枕に顔を押し当ててから、恥ずかしさを放出するために「うわぁぁぁっ」と小声で叫ぶ。
横目でちらっと、もう一つのベッドでりるちゃんが寝ているのを確認してから、起こさないように小声でもう一度叫ぶ。
”それで、そろそろいいかしら? 話とやらを聞いても?”
イナンナ様がそう聞いてきたのは、私がひとしきり叫んだ後だった。
(そうですね。りるちゃんも寝てるみたいですし、今なら大丈夫ですね)
”寝ている?”
もう一度確認すると、りるちゃんはベッドの中で仰向けになって軽く寝息を立てていた。
多分私がこっちのベッドで寝入ってから、起こさないようにもう一つのベットに移動したんだろう。
確認を終えた私はイナンナ様に話しかける。
(で、話なんですが、)
そこまで言ったところで、ちょっと言葉に詰まった気がした。
大切な事だから、と私は心の中で姿勢を正す。
まぁ、こうやって気分を切り替えるのも、イナンナ様に対して何か言うのも、全部私の心の中でなんだけれど。
そして、一呼吸だけ置いた私はイナンナ様にこう思考した。
(私が魔法が使えるようになるために、練習手伝ってもらえませんか?
私の手で、お父さんの仇を取るために)
短いけれど、理由も何もかも隠さなかった。
どうせイナンナ様には隠し事が出来ないんだし、どうせここまでの間に私が何を考えたか理解しているはずだろうからね。
だからこそと言うか、答えは即答だった。
”いいわよ。でも、本当にできると思っているの?”
(できるかどうかは、やってみて、努力してみないとわからないんじゃないですか?)
これはイナンナ様が前に言った言葉。
”……魔法の練習はしたくないんじゃなかったの?”
返してくるそれは私が前に言った言葉だった。もう練習はしたくないって。
(意地悪言わないでください、イナンナ様。
その後に私言いましたよね、必要になったらやりますって、今がその時なんです)
現金な話だと、私でも思う。
”それもそうね。で、いつからやるの?”
答えが既にわかっているのか、イナンナ様からの返答は早かった。
(明日から、明日の放課後からでお願いします。出来るだけ隠れて行いたいんで、学校にも行って、しばらくは
”隠れて……ね。
まぁいいわ、このイナンナが、迷えるナナエの力になってあげると約束しましょう”
その声は、最初に聞いた時のようにとても澄んで私の耳に届く。
それは私にとって本当の神の助けのような言葉だった。
だったけれど、私は嬉しいとかありがたいとかそう言った感情を出すのが恥ずかしくなって、表面だけ整えて軽口のようにこう伝えた。
(……イナンナ様、なんか神っぽいですね)
”当たり前でしょ、私は神なのよ?”
(そうですよね……女神さまですものね……)
そんな事当然のように私も信じている。どうせ本当の事はイナンナ様に筒抜けなのだけれど、それでもイナンナ様は私の戯言に乗ってくれていた。
”まったく、全然信心が無いのね、ナナエは。まぁ、そんなところが、らしくていいんだけれどね……”
(まぁ、私ですからね)
”全然褒めていないわよ”
(褒められてませんからね。そのぐらいわかりますよ)
そんな軽口が続いて私の気が緩んだ瞬間だった。
しっかりしろとばかりに、イナンナ様はすごく痛い直球を投げつける。
”それで、もう一つ早いうちに聞いておくけれど、普通の人間であるあなたがこの状況で何ができると思っているの? 魔法が使えれば何かできると思っているの?”
それは私だってわかっている事だった。一朝一夕で何かしたって、例え魔法が使えるようになったって、銃を持った人間に敵うわけがない。って事ぐらいは。
無駄骨になるよりも、何か行動を起こした場合、最悪私だけ死んでしまう事もあるだろう。多分確率はその方が高い。
それでも、何もしないのだけは嫌だった。
(何も出来ないかもしれない。多分、今から頑張っても何も出来ないと思うし、私が何かする前に霧峰さんが全てを解決してくれて、何も起きないかもしれないです。
でも、出来ることなら、私が……私の手で、お父さんの仇だけは討ちたいんです)
だから、私は思いのたけをイナンナ様にぶつけた。
そして、思いを直接ぶつけたせいか、イナンナ様の返答も直截だった。
"そう。じゃあやりましょう"
(はい!)
正直出たとこ勝負なのはわかっているけれど、この時ばかりはイナンナ様に感謝していた。
心の中は筒抜けになっていなければ隠しておきたかった気持ちばっかりだったけれどね。
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