3-2 神様、こんなの、酷い

 いつもの部屋に着いた後で、私は先生にこっぴどく怒られた。


「俺はお前の過去を良く知っているから、魔法を使えとか練習しろとは言わない。

 だが、あの授業態度は何だ。厳しい事を言うようで悪いが、仮にもお前はあの女神イナンナ様に選ばれた人間なんだぞ。それを認識して行動するようにしてくれ。

 今から振る舞いをしっかりしないと、後々後悔することになるぞ」


 大体要点をまとめるとこんな感じで、これが10分程度。

 いつもの先生より厳しくて、すごく凹んだ……


 頭の中でクックッと笑うイナンナ様が居たせいで、途中から冷静になって話は聞けたものの、初めて先生からこんなに強く言われたのでやっぱり私にはショックだった。


 トントン


「失礼します」


 ひとしきり叱られた後で、私が凹んでいる時に部屋に入って来たのは、夜野さんだった。

 なんか沢山のパンと牛乳持っている。


「夜野、せっかくの昼休みにお使い頼んで悪かったな」

「いえ、理由はわかっているので大丈夫です」


 と、先生と夜野さんは話をして、夜野さんが食べ物とおつりらしき小銭を先生に渡した。

 私には理由がわかりません。先生。


「夜野も座ってくれ」


 そう先生が言って、椅子に座っている私達にパンと牛乳を配る。


「二人とも、遠慮せず食べてくれ。あと、食べながら聞いてほしい」


 真剣な顔をしていたけれど、まず最初に先生がパンの袋を開けた。私も一緒に開ける。

 パンに手を付ける前に先生が口を開いた。


「稲月の件だが、今、職員会議で大きく議題に上がっているんだ。

 今すぐは大丈夫だとは思うが、今後、色々と問題が起きる可能性があるかもしれないってな。眷属認定ならまだしも、神降ろしのような状況なんて誰も経験が無くてな。国や神殿にも連絡を取っているが、まだ何の返答もないんだ。

 正直な所、今後の起こりうる問題と対処に関しては机上で議論している最中だ。そういった状態だから、まずは教職員だけでなく生徒の方でもサポートを入れた方がいいのではと言う案が上がっているんだ」


 ああ、なるほど、イナンナ様が降臨した件か。と思いながら貰ったサンドイッチを食べる。

 私だけじゃなくて、誰も経験ないんだ……まぁ当たり前だよね。


 でも、夜野さんがここにいる理由がまだわからない。

 夜野さんを見る。彼女は下を向いて、パンの袋を持ったまま開けてはいなかった。


「わかりました。私は稲月さんのサポートをすればいいんですね?」


 そう言って、顔を上げる夜野さん。


「えっ?」


「話が早くて助かる。まぁ、夜野なら問題はないだろうと思うしな。その分、内申点とか、諸々加点はするから利点はあると思ってくれ」


 そして、要点を得たように話を進める二人。


「えっ? えっ?」


 二人は頷いた後、私の方を見ていた。

 何それ?えっ、えっ、どういうこと?


 とっさの事に思考がついていかない。

 夜野さんと先生を交互に見た私は、私は……私は…………


(どうすればいいいんですか、イナンナ様)


”よろしくでも適当に言っておけばいいのよ”


「……よろしくお願いします」


 イナンナ様の言葉に従って、そう言った。

 ホントにそれでよかったのか全然わかんないけど。


 説教タイムもそれで終わりになり、私たち三人は静かにパンと牛乳で昼食を取っていた。先生はまた焼きそばパンだった。


 パンを食みながら一息つくことで、夜野さんがクラスでの私のお目付け役になると言う事は理解した。

 妥当な人選だよねとも、お目付け役って結局何をするんだろう? って事も一緒に思いながら。


 誰もが食べる事に集中し、静かな空気が流れる。

 そんな中、私はサンドイッチを食べるのを止めて夜野さんにこう言った。


「夜野さん……土曜日、ありがとうね」


 本当は朝から言おうと思っていたことだけど、ちょっと避けられていて機会が無かったの。


「……いいのよ、気にしないで」


 夜野さんの返事は素っ気なく、目線も合わせてはくれなかった。

 それでも、言葉は続き、


「それに、私も少し楽しかったし……」


 ぼそぼそとはっきりしない声だったけれど、夜野さんはそう言った。


 !!!


 それは、友達のいない私にとっては、小学校の時の事件以来の衝撃的な言葉だった。

 ちょっと嬉しかった。本当はすごくだけれど。

 だから、私は、頑張ってみた。


「……今度また一緒に、買い物いかない?」


 少しの間を置いた後、夜野さんが小さい声で口を開く。


「……そんなサポートまでは対象外よ。でも……ともだ」


 言葉を続けていたんだろうけれど、夜野さんの声は「でも」までしか私は聞こえなかった。


 その言葉を紡いでいた瞬間に、ノックもなく私たち三人が居る視聴覚準備室の扉が開けられたから。



「水代先生! あなたのクラスの稲月さん見ませんでしたか!」



 血相を変えて現れたのは、かつらで有名な教頭先生だった。

 先生を呼びに来たらしいが、私を見るなりこう捲し立てた。


「ああ、稲月さん、ここに居たんですね。

 ご家族の方が車で迎えに来てくれています。午後の授業は受けなくていいので、早く行ってください」


「えっ……何があったんですか?」


 私が言葉を返すも、三人そろって固まったまま。走って来たのか教頭先生の荒い息だけが聞こえた。


「どうか、気をしっかり保って下さい」


 そう言われたけれど、次の言葉までに少しの猶予もなく、教頭先生は続けた。


「ご実家で、火事があったそうです。ご家族の一人と連絡がつかないそうです」


 ……え?


 私は、知らぬ間に、手に持っていた食べかけのサンドイッチを落としていた。

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