私に魔法を使う理由が出来ました
3-1 戻って来た普通の学生生活!
『昨夜遅くに起こった火事は消防とポンプ車が駆け付け、約三十分後に鎮火しました。部屋の居間にあった灯油ストーブの周辺が焼けていることから、警察はストーブが火元とみて詳しい出火原因を調べています』
週が開けたけれど、朝のテレビのニュースはいつも通りだった。
神様が降臨しました。なんてセンセーショナルなニュースは全くなく、いつも通り政治と事件と芸能人のニュースばかり。
”良かったわね”
(ホント良かったですよ、イナンナ様)
この状況に大分慣れたのかな。
こんな会話を頭の中でイナンナとしつつ、口ではお父さんと会話をする。
「お父さん、今日は何してるのー?」
「ん、今日は家で仕事をしているつもりだ。りるは若が午前中のうちに連れて行って、役所やら事務手続きをするそうだ。そうそう、養子縁組の話もそうだが、四月からお前と同じ
「ふーん、そうなんだ」
やっぱりりるちゃんは神學校に行くんだ。
これは、私がりるちゃんにダメ姉と呼ばれる日も遠くはないと言う事ね……
怖い想像をしながら私は学校に行く用意を済ませる。
制服の上に紺のダッフルコートを着て、登校準備を万端にしてから、改めて今日のりるちゃんのファッションを見た。
うん、週末に買ってきた新しい服はなかなかかわいい。下がスカートじゃないからちょっとボーイッシュに見えるけれど、それでもまぁかわいいかな?
「りるちゃん、お外行くときはこのコートを使ってね?」
と、私は新しく買ったコートを手渡した。
土曜日の時に来ていたコートは私の子供の頃のお下がりだし、新しいコートの方がデパートで最後に買ったやつでかわいいしね。
「わかったー」
「うん、いいこ。じゃぁ、学校行ってきます」
「いってらっしゃい!」
「気をつけてな」
りるちゃんは玄関口まで来ていたけれど、お父さんの声は居間からだった。
まぁ、顔を出さないのはいつもの事なんだけど。
今朝は快晴で、放射冷却現象のおかげで気温は寒かった。
学校に行ったら、みんな驚くのかな? イナンナ様が憑いてるって公表したんだし、少しぐらいは人気者になるといいんだけれどなぁ。
ほら、いつもと違う日常……みたいな感じで。
そんな事を思いながら、私は学校に向かう。
* * * * * * * * * *
「1913年に原子モデルが発見されたのを機に、翌年の1914年にフランスの魔法学者のプーヴェが原子運動と魔力の関連性を発見した。
個人から生じた魔力は、その特徴に合った原子の運動に作用する。ってやつだな。これが、今に続く近代魔法学の礎となっている」
先生の朗読と板書のカツカツという音を聞きながら、私は教室の窓から青い外を眺めていた。
世界史の授業はつまらないなと思って、何か興味があるものを探す。
遠くに聞こえるサイレンの音と、民家だけの景色の中からうっすらと立ち上る煙は……まぁ、多分どこかで火事かな。火事は冬場に多いだけに誰も気にする声も聞こえない。授業中なのもあるけれど。
「同年に起こった第一次世界大戦の中盤から、第二次世界大戦において、魔術師は戦争に駆り出され、それに伴って近代魔法学は飛躍的な進歩を遂げた。
いつの世も、戦争が技術や魔法の進歩に多大な影響を起こすのは悲しい話ではあるがな。
第二次世界大戦後に……って、稲月、聞いているか?」
「あ、はい」
水代先生が私を呼んだ。
「今の話、教科書の何ページ目だ?」
「え……と、346ページ目です」
ぼーっとしていても、ちゃんと抜かりはない。教科書はちゃんと開いている。
「じゃぁ、皇国の魔術教育法が制定されたのは?」
「1947年ですね」
……先生はずるい。その話は、全然今のと違うところの質問じゃないですか。
まぁ、答えはわかるんですけどね。
「うん、正解だ。稲月、色々とあったのはわかるが、もう少し授業に集中してくれないか?
神が降臨した生徒が他の生徒の模範にもならないようなら、学校としても色々と困るんでな」
「……わかりました」
素直にそう言って、教卓の方を向いた。
でも、いまいち授業には集中できない。
(いつもと変わらないですね)
と、イナンナ様に頭の中で言う。
”良かったじゃない。いつもと変わらないままで”
(……いつもと変わらないですけれど、いつもと変わらなさすぎじゃないですか?)
そう、私がつまらなく感じているのは、授業の内容と言うよりはこれが原因だった。
今までの生活と全然変わらない。
少しは誰か話しかけてくるのかと思ったけれど、朝から昼直前の今まで、クラスメイトは誰一人として私に話しかけてこなかった。
せめて夜野さんぐらいと思って視線を送ってみたのだけれど、それも気づかれた瞬間、ぷぃと逸らされてしまった。
(もうちょっと……なんか、変化があってもよかったんじゃないのかな……?)
”日頃の行いでしょ?”
(うっうっ、イナンナ様酷い)
思っていた学生生活と全く違うと思って嘆いているうちに、キーンコーンカーンコーンと、四時間目が終わるチャイムが鳴る。
「よし、午前中の授業はこれまで。あと、稲月はちょっとこの後来るように。今日の午前中の授業態度が良くなかったから、その件に関して指導だ。先生はお前を特別視しないからな」
水代先生は授業の終わりがけにそう言った。
ちょっと言葉が気になったけれど、素直に私は先生ついていつもの視聴覚準備室に行く。
今までも度々、特に私がクラスメイトに虐められている時とかに、先生はこうやって表ぶった理由をつけて私を守ってくれていた。
だから、今日もそうなんだよね。って信じて疑わなかった。
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