2-17 週末だしお買い物に行こう

 朝食後に今日はどうしようかなと思っていたら、お父さんが黙ってお金をくれた。

 好きに使っていいって言われたけど……正直、えっ? って感じ。


「今日は一日若と家で打ち合わせをするから、その間にお前たち二人で街中で買い物でもしてくるといい。

 りるの為に色々と必要なものもあるだろう?」


 最初の時も思ったけれど、若って……なんで霧峰さんの事そんな古めかしい呼びをするの?

 ってところよりも、お父さんが黙ってお金をくれたところに私は驚いていた。

 普段は、おこづかいと食費以外は、日用の必要経費でさえちゃんと説明しないと出してくれないのに。


「おかいものー!」


 と、喜んでいるりるちゃんの今の服は、間違いなく私のおさがり。

 うーん……まぁ、お金もらえるならいいか。

 流石に私のおさがりばっかりだったらかわいそうだし。


”体よく追い出して、家にはしばらく帰ってくるなって事よね”


(多分それが理由ですよね、イナンナ様)


 お父さんが何故か「若」と呼ぶ、教皇位継承者の末席の末席である霧峰さん。その人との内緒話であれば、私やりるちゃんが首を突っ込んじゃいけない事なんだろう。

 だから、その間は買い物でもして、外で時間を潰して来いって事なんだろうなと私も気づいていた。


「お昼ご飯は外で食べるけど、晩御飯はどうするの? お父さん?」

「うむ……、今のところ終わる時間がわからないからこちらから連絡……と言いたいが、無理だな。

 仕方ないが夜も外で食べて来ると良い」


 そう言って、お父さんは紙幣をもう一枚追加で渡してくれた。

 お父さんの顔と貰ったお金を交互に見る。

 普段通りのお父さんの表情とは裏腹に、普段のお父さんと全く違うきっぷの良さ。これは本当に大事なんだなと思わされる。

 今日はちゃんと時間考えて帰ってこないとダメだね。


「ん、わかった。じゃぁ、7時半ぐらいに帰ってくるようにするけどいい? あんまり遅くまではレストランも開いていないから」

「ああ、もし早めに帰りたい場合は、公衆電話からでも電話してくれ」

「わかった。あ、でも、もし、りるちゃんが早めに疲れちゃったらそうするかも」


 携帯でもあればよかったんだけど、と頭の片隅で思った事は捨てておく。


 私の用意を済ませた後で、りるちゃんの方も用意をする。夜まで外だったら寒くなるかなと思って、マフラーを巻いて手袋も履かせる。

 コートにズボン姿でマフラーに手袋で完全防備! って姿のりるちゃんは……かわいい男の子だねこれ。

 口では言わないけれどね。


 そうして私たちは、街に向かって家を出た。


 目的はまず買い物。服とか、あとは食料品も少しは欲しいけど、それは街で買うものでもないか。

 時間が沢山ある分、逆に何をするか考えないといけないかな。


 考えながら歩いていると、あちこち物珍しそうにフラフラしていたりるちゃんが聞いてきた。


「ねぇ、ななえ、あれ何?」

「ん? 車の事?」

「くるま……速いね!」

「そうね、でもぶつかると危ないから気を付けてね」

「わかったー」


 りるちゃん車見たことないのかな? そんなわけないよね。

 

「あれは? 何?」


 次に指したのは、上空を箒で飛んでいる人だった。


「あれは魔術師よ。箒で空を飛んでいるの」

「へー。りるもあれやりたい」

「うーん、りるちゃんがもう少し大人になったらね。いい子にしてたら乗れるようになるから」

「じゃあ早く大人らならないと」

「そうね。飛ぶのも危ないから、ちゃんといい子にしてないとダメだからね?」


 なんてやり取りをしながら、内心ちょっとヒヤッとしていた。

 魔術師の素質があれば15歳から飛行免許は取れるけれど、私は免許もないしそもそも飛べないのだ。

 もしこのまま、りるちゃんが大人になって飛べるようになったら……飛べない私の事をどう思うのだろうか。


 いい子にしていなかったから飛べなかったんだね、なんて言われたりして……私、ダメ姉になるのかな。


”いいじゃない、ダメ姉で”


(いや、あんまりよくないですけど、イナンナ様)


”嫌なら、ナナエも飛んでみれば良いのよ”


(無茶言わないでください。私がやったら路上教習の時点で死人が出ますよ?)


”そんなもの?”


(そんなものです。ロケットですよロケット)


 実のところ過去に試したことがあったのだ。お父さんにおねだりして買ってもらった、超初心者用のバランス補助機構付き、出力コントロール機能付き、さらに座り心地改良型の柔らかクッション搭載の箒で。

 空飛ぶ箒自体は昔からある魔道具で、搭乗者が魔力を適度に使うことで浮力と推進力、前方への風防バリアを展開してくれる便利な道具である。

 特段使用魔力が多いわけでもないため、バランス感覚の問題を除けば日常の生活補助道具としては優れたものに相違ない。

 

 で、私にとって問題なのが、魔力を適度に使うと言うところになるわけで。

 結果から言うと、素晴らしい魔力量と最悪のコントロールを誇る私には、その超初心者用の箒であってもダメだった。

 ちょっと魔力を込めただけで許容量をはるかに超えた魔力が流れてしまったらしく、箒のコントロール機能を吹き飛ばしてしまい、箒はそのまま上空に吹っ飛んでいってしまったのだった。

 箒の異常な暴れ方に驚いた私は、すぐに手を離したおかげでちょっと飛んだ所で振り落とされて軽傷で済んだのだけれど、箒自体はそのまま吹っ飛んで行って、落下地点になった遠くの民家の塀に大きな風穴をあけてしまっていた。


 あの時の塀を壊したことを謝りに行くお父さんの苦い顔は、今でも覚えている。


(と言う事で、イナンナ様。あんな怖いものにはもう乗りません)


”ふぅん”


 と、納得したのか、それだけでこの話は終わってしまった。

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