2-8 学校へ行こう

 気が付いたら、朝のいつもの時間だった。

 昨夜は何も夢は見なかったと思うが、妙にすっきりとしない朝だった。


(おはようございます、イナンナ様)


”おはよう、ナナエ”


 脳内に響く朝のあいさつは微妙にまだ慣れなかったけれど、流石に三度目? の寝起きではもう驚く事は無かった。

 

 今日は金曜日、終われば土日は休みだ。うちの学校は課題を多くする代わりに、土曜を休みにした画期的な学校だった。


”課題ってどんなの?”


(大体は実技で、技術を習得して披露したりですね。あとは、考察文を書いたりもありますけどね。

 ああ、もちろん、実技をやらない私がするのは後者の考察文とかですけど……)


”でしょうね”


(はい。

 理論的な所は結構勉強はしてるんですよ。実技をするとダメなだけで)


 そう、ペーパーだけだと成績上位をキープしている。ついでに言うと、基礎体育も比較的上位である。

 だが、何分、魔法の実技が絡む教科は酷いマイナスを受けていて、すべて平均すると五段階中の三ぐらいというところだった。

 ちなみに、この場合あまり平均点は意味が無くて、実技で完全に赤点になった場合、留年確定になるのだけれど。


 でも、イナンナ様にはそんなことは関係なさそうだった。


”ナナエ、あなた、どんくさそうに見えるけれど運動出来るの?”


(どんくさいって、酷いですね。薙刀は初段ですよ? 武術は女子の嗜みですから)


”ふぅん……。ショダンってどのくらいかわからないけれど、それなりには出来るってことね。実戦は? 人を殺したことは?”


(はい?)


 明後日の方向の質問に、思わず手に持っていた着替えを落とす。


(いやいや、無いですって! だから、昨日も言ったけれど平和なんですよ? それが普通なんですよ? そんなこと絶対にあるわけないじゃないですか!)


”ホント使えないわね”


 どうにもイナンナ様は、危ない方向に私を連れていきたいらしい。

 ファンタジーに溢れる中世や、魔術師までもが駆り出された世界大戦中でもあるまいし、本当に世情を考えて欲しいものです。

 そもそも、イナンナ様が前回降臨したのはいつだったのだろう? もしかしたら、その時の知識しかないのかもしれない。


”私たちは、ここに降りる前に一通りの知識を把握してから来るのよ。万が一にも今の私に知識の齟齬は無いわ”


(じゃぁ、常識の違いですね。うん)


”世界の違いよ……”


 多分それは私に聞こえないように小言で言ったのだろうけれど、筒抜けだった。筒抜けなのは双方行らしい。


 ちなみに、頭の中でこんな会話をしつつも、体はいつものように動いていて、朝の支度と朝食は滞りなく終わっていた。



「いってらっしゃいー! ななえー!」

「りるちゃん、行ってきます。帰ってきたら遊んであげるからね」


 玄関でりるちゃんは元気よく送り出してくれた。

 なんかこう、最初のむず痒いようなお姉ちゃんしてる気分を満喫したかったが、すぐに、


”箒、使わないの?”


 と言うイナンナ様の一言によって引き戻される。


(箒なんて使いませんよ? 空なんて飛ばずに、いつも通り歩いて行きますよ?)


 日頃の行いのせいか、何か良い気分になってもすぐに引き戻されている気がする。

 そんな事を考えながら進める足は、決して速くはなかった。


”なるようになれじゃない?”


 そして、イナンナ様には思考も常に垂れ流しなので、こんな割込みも入ってくるのだった。

 今のは、例の事件に対して私に疑いが集中すると嫌だなぁ。と考えていたことに対するお早い回答である。



(あ、そうそう、朝は体育で薙刀ですよ。強い所見せますからね)


 なんて表立っては考えていたのだけれど、結局はもう一つの懸念していることまでイナンナ様には筒抜けなのでした。

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