2-7 イナンナ様と対話する

 色々な事がありすぎて、結局、全然心の整理は出来なかった。

 けれど、体を動かせば少しでも何か整理できるかなと思った私は、午後から一人でりるちゃんの為に私の子供の頃の服を探すのに時間を費やした。

 お父さんと霧峰さんは午後からやることがあるという事で外出したし、りるちゃんもそっちについて行ってしまったしね。

 これから一緒に暮らすとして、りるちゃんの服の大半は私のおさがりで何とかなるかな? 幸い彼女は子供の頃の私と同じ体型みたいだし。

 あ、でも、下着とかは買わないといけないか。


 そんなことをやっていたら、時間は過ぎてあっという間に夜になってしまった。

 皆が戻ってきてから、せっかくお客も来ているんだし、夕食は寿司の出前でもと期待したのだけれど色々あって霧峰さんが台所に立った。

 お父さんが他人に台所を貸すなんて珍しいと思ったけれど、意外にも出来た夕食は美味しかった。

 私が作ったのよりはるかに美味しい夕食を前に、一人負けたようにうなだれていたけれど、四人で談笑していたら夕食の時間も早々に過ぎてしてまっていた。


「あ、タクシー乗って行くんで大丈夫。

 奈苗ちゃんも、りるも、いい子にして寝るんだぞ。おやすみ」


 そして、あんな事件があったせいか食後も早々に霧峰さんは今夜の宿のホテルに戻っていった。

 見送った後で、私とりるちゃんと二人でお風呂に入ってから彼女を寝かしつけたら、もう夜もいい時間に更けていく。


 ねむ……明日学校行きたくないなぁ……

 なんて思いながら布団に入り、早く寝ようとしたところで頭の中で声がした。


”ナナエ”


(……眠いです、イナンナ様)


”ナナエ、寝る前に少し今までの情報の整理をしましょう。あなたにとって必要な事よ?”


(情報の整理って、霧峰さん、今後はこの家に被害でないって言ってたじゃないですか。

 それに、学校の件だってうやむやにしてくれそうな感じでしたし……うん、大丈夫ですよ)


 そう考えながら、布団の中に潜り込む私。


”大丈夫って、あの男の言う事、信じているの? 学校の件だって、私が居る事はわかっていなくても私達が何かしたと目星つけられているわよ”


(信じるも信じないも、ベール教の偉い人ですよ? お父さんと友人関係だって話ですし、大丈夫だと思いますよ。

 目星と言っても……私への単なるカマかけじゃないですか?)


 頭の中だけで会話が出来るのは眠い時には便利だった。


”それならナナエ、挙動で色々ばれてるわよ”


(うっ……)


”ナナエは静かにしているつもりでしょうけど、わかりやすいのよ。

 完全におかしいと見当つけられているわよ。

 それにあなたもね、危険な事があったのに安心しろと言われただけで流されるように信じちゃって、考える事を放棄したらダメよ?”


 耳が痛い。あ、今は心か。


(じゃあ、どうすればいいんですか?)


”どうって、少しは自分で考えてみなさい。言われた事をそのまま信じるんじゃなくて、何が起こっているのかちゃんと調べてみるとか”


(無理ですよ……相手は偉い人ですよ。一介の高校生が何とか出来るわけないじゃないですか……)


”あなたねぇ。じゃあ、少なくとも、何かあってもいいように自分の身は自分で守れるようになりなさい。魔法や銃弾ぐらいで死なれたら困るのよ、私が”


(はい?)


 驚いて一瞬だけ目が覚めた。


(いやいや、魔法や銃弾ぐらいって、基準がおかしいですよ)


 慌ててイナンナ様に反論する。


(40年だか、50年前に世界大戦が終わってから、基本的にこの国は平和なんですよ? ヤクザの発砲事件ぐらいしか銃の事件なんて聞かないですし、魔法だって、法律で色々整備されてるんですから大きな事件なんてあんまりないんですよ。

 だから、そんな自分で自分を守る必要があるような事なんて起きないですって。

 きょうび、何かあったらすぐに警察が来ますしね)


”ホントにそれ言ってるの?”


(本当ですよ。

 それに、何かあったらイナンナ様が守ってくれるんじゃないですか? 幻魔法でどーんって)


”むやみに神に頼るんじゃないの”


(あ、これがホントの神頼みってやつですよね)


 眠気のせいか私のテンションが変な方向に上がったところで、イナンナ様は私をたしなめる。


”馬鹿な事言うんじゃないの。素質があるんだから、基本的な魔力のコントロールから初めて、自分でちゃんと魔法を使えるように練習しなさい”


(練習かぁ)


 すっとテンションが下がり、体から力が抜けた。


(……やりましたよ、やった結果が今の状態です。だから神頼みしかないんですよ……)


 「魔法を使えるように練習しなさい」は、これもまた私にとってある意味呪いのように掛けられてきた言葉だった。

 事件の後もその前も、私は何もしなかったわけではない。魔法がコントロールできるように沢山練習を頑張ったけれど、結果はダメだったのだ。

 でもそれを知らない人は、私にもっとやれと言う。そんな状況がずっと続いたせいで、正直疲れてしまっていた。


”……もう一度、頑張ってみるつもりはないの?”


(状況が変わったりとか、何かする必要になればやりますよ)


 そんなことがあればですけどね。が心の底で続く。


(それに、知ってます? 今は科学というのがあって、魔法なんか使わなくても便利に生活できるんですよ?

 箒で飛ばなくたって車やバスがありますし、空は飛行機で飛べます。

 電話はまだ固定で、魔道具みたいに携帯はできませんけど、いずれ同じようなのが出来るんですよ、きっと)


 そう思いながら、携帯電話と呼ばれている魔道具を使う自分を思い浮かべる。微量な魔力だけで動き、遠隔で話が出来る便利なそれは、私が使おうとすると魔力過大で壊れてしまうのだった。


(私だって稲月家の長女じゃなかったら、今頃は普通の学校で魔法に関係ない生活を送っていたのかもしれないんです。

 コントロール出来ないこんな力なんて無かったって、普通に生活して魔法なんて無くても幸せな生活が……うう……)


 大分頭の中に眠気の靄が掛かって、半分何を考えているかわからなくなってきていた。


”自分の状況が全然分かっていないのね”


(もう眠いし、全然わからないことだらけ……です)


”今までが幸せだったのね”


(全然幸せではなかった……です)


”頑張ってねナナエ、いずれわか……”


 ここらへんで私の意識は眠りに落ちた気がする。

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