タイムカプセル

病院は距離があり、なかなかお見舞いにも行けないまま二月に入った。

そして全員教室でボーっとしていると、柚木さんが口を開いた。


「授業とか面倒くさいと思ってたけど、無いと無いで暇だね」


すると芽衣さんが、なにも書いてない黒板を眺めながら言った。


「そうだね。莉子先生の授業って、なんだかんだ面白かったもんね。教える側なのに間違えて教えたり」


美波はさん携帯を弄りながら退屈そうに口を開く。


「莉子先生と愛梨、卒業までに戻ってこれるかな」


美波さんの言葉を聞いて、全員溜息をついた。


「はぁー‥‥‥」

「いや、なんかごめん」

「学校にいてもすることないですし、帰りましょうか」

「結菜帰るの?」

「はい、沙里さんはどうします?」

「結菜が帰るなら一緒に帰る」


いつ二人が退院してもいいように、皆んな毎日学校に通っているが、お昼までボーっとして帰る日々が続いていた。

そして今日も全員帰ろうとした時、教室に校長先生がやって来た。


「全員揃っておるな」

「どうしたんですか?」


そう結菜さんが聞くと、校長先生は莉子先生の椅子に座って話しだした。


「暇してるなら、タイムカプセルを埋めてみるのはどうじゃ」

「タイムカプセルですか?」

「そうじゃ、M組の校舎裏なら誰も立ち寄らん。皆んなが二十二歳歳ぐらいになった時にでも掘り返してみるといい。大人になると全員揃うことも難しくなる。成人して二年後に皆んな揃うってのも悪くないじゃろ」

「成人式で一度会いますよね」

「成人式から一生会えないって想像してみるんじゃ」

「それは‥‥‥嫌ですね」

「二十二歳でもう一度会い、その時にまたタイムカプセルを埋めるんじゃ。また必ずニ年後に会う約束じゃ」

「とても素敵です。皆さん一度帰って、埋めるものを持って校舎裏に集まりませんか?」

「賛成!!」


そうと決まれば、全員すぐに学校を出た。





僕は何を埋めようかな。

指輪は‥‥‥結菜さんにガチギレされそうだしな‥‥‥。

よし、これにしよう!

これが似合う大人になってますように。



***



その頃結菜と沙里は‥‥‥


「結菜、それ埋めるの?」

「はい!」

「だから手伝ってあげるって言ったのに」

「完成させないわけじゃありません! 大人になった私なら絶対に作れます!」

「どうだかね」

「沙里さんは何入れるんですか?」

「うーん、入れる物ないから、二十二歳の自分への手紙かな」

「いいですね! 私も手紙いれます!」



***



数時間後、全員校舎裏に集まり、芽衣さんが僕の持ち物を見て不思議そうな顔をした。


「輝久は何埋めるの? 南京錠なんかして、すごい厳重だけど」

「な、内緒です!」


皆んなが埋めるものも見えなくなっていて、一つの大きなお菓子の缶にまとめて入れて、僕と一樹君が穴を掘って埋めた。


「何年経っても、この皆んなで遊びたいですね」


そう僕が言うと、柚木さんがしんみりした表情で言った。


「卒業したくないな‥‥‥この皆んなで一年生からやり直したい」


それを聞いて、結菜さんは悲しげな表情をした。


「また皆さんと争うのは御免です。でも、今の皆さんとなら、十年でも二十年でも‥‥‥この学校に通いたいです」

「僕も同じ気持ちです」

「俺も」

「私も」

「私だって」

「私もだよ」


芽衣さんと鈴さんは手をつないで言った。


「私達だって!」


全員の視線が沙里さんに向けられ、沙里さんは少し頬を赤らめた。


「わ、私もだよ! それより、愛梨のお見舞いに行きたい」


結菜さんは沙里さんと手を繋いで、優しい表情をして言った。


「皆さんで行きましょうか!」

「病院遠いんじゃないの?」

「莉子先生の病院までは、今から私達だけじゃ無理ですが、愛梨さんが入院している病院なら行って帰ってきても、ちょうど暗くなる頃だと思います」

「場所分かるの?」

「分かりますよ! 電車移動になりますが、行く人は挙手」


全員手を上げ、皆んなで愛梨さんがいる病院に向かった。




病室に入ると、愛梨さんは横になりながら漫画を読んでいた。


「み、皆さん、来てくれたんですか」


愛梨さんを見て。沙里さんは思わず愛梨さんに抱きつこうとした。


「抱きつかないでください」

「なんで?」

「まだ傷が痛むんです」

「そうだよね、ごめん」

「いいんですよ。元気そうで良かったです」

「なにも持たずにお見舞いに来てごめんなさい」

「気にしないでください」

「卒業式までに戻ってこれるんですか?」

「はい、ギリギリ戻れる予定です」


それを聞いて皆んな笑顔になり、芽衣さんは愛梨さんを茶化すような目つきで言った。


「それより愛梨、少女漫画なんて読むんだねー」

「ち、違うんです! 痛っ」

「大丈夫!? どうしたの!?」

「大きな声を出すと傷が痛むだけです」

「なるほど‥‥‥ごめん」

「そんなことより、この少女漫画は、お爺ちゃんが持ってきたんです」

「へー、どっから?」

「私の部屋からです」


全員真顔で言った。


「へー」


愛梨さんは自爆したことに気づき、掛け布団を顔までかぶって隠れてしまった。


「可愛いね!」


鈴さんがそう言うと、美波さんが掛け布団を軽くめくって言った。


「本当可愛いよね。あと、やっぱり今みたいに髪下ろしてる方が可愛いよ」


布団をめくった隙間から美波さんが覗くと、顔を真っ赤にした愛梨さんと目が合い、愛梨さんはすぐに隙間を閉じてしまった。

すると、沙里さんは幸せそうに優しい声で言った。


「変わらない様子で良かった! 愛梨の傷に響くと悪いから、私達はもう帰ろっか」

「も、もう帰るんですか?」


愛梨さんが布団の隙間から顔を覗かせて、寂しそうにしている。


「なんだ、この可愛い生徒会長は‥‥‥」

「輝久君、声に出てます」


焦って結菜さんの方を見た瞬間、僕は目潰しをされた。


「痛いって!」

「ちょうど病院で良かったじゃないですか」

「先輩達は本当に仲がいいですね」

「ラブラブですから♡」


それから十五分ぐらい愛梨さんと話して、全員帰宅した。



***



その日の夜、結菜と沙里は、一緒にお風呂に入りながら話をしていた。


「久しぶりに愛梨と会えてよかったー!」

「愛梨さんも喜んでましたね」

「うん! 本当、莉子先生も赤ちゃんも、愛梨も無事で良かった。後は二人が卒業式に来れたら完璧!」

「きっと大丈夫ですよ。お風呂から出たら、絆創膏に星を描いて、小指に貼りましょう」

「なんで?」

「願いが叶う、おまじないです」

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