流れ星

***


「結菜、いい子に待ってるのよ」

「どこ行くの?」

「お母さんは、お父さんと大事な仕事に行かなきゃいけないの」

「なんでお姉ちゃんも車に乗ってるの?」

「私も行くんだ! 結菜はお留守番!」

「‥‥‥」

「結菜、大事な仕事なんだ。いい子に待ってなさい」

「行かないで‥‥‥」


***


「はぁっ!!」


結菜は目を覚ました。


「静かに」

「沙里さん? 私‥‥‥なんだか嫌な夢を‥‥‥」

「ずっとうなされてたよ。それよりこれ」

「輝久君? 寝てるんですか?」


輝久はベッドの横に座り、結菜の手をずっと握っていた。


「うん、数分前まで起きてたんだけどね。結菜が目を覚ますまで起きてるって」

「今何時ですか?」

「夜中のニ時」

「そんなに寝てしまっていましたか」


結菜は眠る輝久に、優しく布団を掛けた。


「いっぱい寝れて良かったじゃん。それと輝久からいろいろ聞いたけど、頑張ったね!」

「‥‥‥泣くことしかできませんでした」

「それでもいいんじゃない? 何かを変えようとするきっかけなんて、悲しみでも罪悪感でも、なんだっていいんだよ」

「沙里さん‥‥‥私、寂しいです‥‥‥」


沙里は結菜を優しく抱きしめて、頭を撫で始めた。


「よしよし」

「私は子供じゃありません‥‥‥」

「寂しいよね、辛いよね。大切な人が死んじゃった時の気持ちは分からないけど、きっと辛い。結菜は頑張ってきたんだよ」

「なにも頑張ってなんか‥‥‥」

「アイス食べに行こっか!」

「コンビニにですか?」

「そう! 行こう!」

「何故いきなり‥‥‥まぁ、行きましょうか」


二人は輝久を起こさないように、静かに部屋を出てコンビニに向かった。


「今日は私の奢りだから!」

「大丈夫ですよ、アイスぐらい買ってあげます」

「うるさいなー」

「うるさいってなんですか! 私帰りますよ?」

「奢りたいから奢らせて! 結菜も修学旅行の時に奢ってくれたでしょ? こういう時、どうしたらいいか分からないからさ、結菜がしてくれたようにしようと思った。いや、したいの」


結菜は沙里の優しさに、嬉しくて思わずクスクス笑ってしまった。


「なんで笑うの!?」

「嬉しいからです。二個奢ってくださいね!」

「アイスは一個まで!」

「私は二個奢りましたよ? 三個でしたっけ?」

「わ、わかった! 二個ね!」

「はい!」





二人がコンビニの前に座りながらアイスを食べていたその時、急に沙里のテンションが上がった。


「うおー!! 結菜!! 今の見た!?」

「なんですか?」

「流れ星!! ほら! また!」

「見えました!」

「綺麗だね!」

「はい! (こうやって、家族揃って流れ星を見た日があったな‥‥‥皆んなで蛍を見に行った日、沢山の流れ星が流れて、蛍と流れ星が重なって、とても綺麗だった。また皆んなで見たい‥‥‥会いたい‥‥‥また皆んなに会いたい‥‥‥会いに行かなきゃ‥‥‥)

「こら君達‼︎こんな時間になにやってるんだ!!」

「やば!! 警察だ!!」

「ど、どうしましょう!」

「逃げろー!!」

「ちょ、ちょっと沙里さん!? まったく!」


沙里と結菜は、警察に追われながら、必死に家まで走った。


「沙里さん!」

「なに!」

「このまま逃げていいんですか!?」

「いいの!!」


そして二人は無事に逃げ切り、家までたどり着いた。


「疲れたね」

「疲れましたね‥‥‥でも、少し楽しかったです」

「全然楽しくないよ」

「‥‥‥私、お墓まいりに行きます!」

「警察から逃げて心変わりしたの?」

「違います。流れ星を見て決意しました」

「そっか! それじゃ私のおかげだ!」

「はい! ですが、自分で言ってしまうあたり減点です」

「えー、んじゃアイス代返して」

「沙里さん、貴方って人は‥‥‥」

「それより輝久のこと、ちゃんとベッドで寝かせたほうがよくない?」

「そうですね、お部屋に戻りましょう」


部屋に戻ると、輝久はまさかのベッドの上で寝ていた。


「一回起きたのかな? ちゃっかりベッド使ってるし」

「輝久君の寝顔って可愛いですよね。なんて言うか、子供みたいです」

「結菜も子供みたいたいな顔して寝るよ? この前なんてヨダレ垂らしてたし」

「て、輝久君の前で言わないでください!」

「大丈夫、寝てるから」

「結菜さん? ヨダレ?」


二人の話し声がうるさくて、輝久は目を覚ましてしまった。

すると結菜は真っ赤な顔で沙里を睨みつけ、沙里をお仕置き部屋に引っ張った。


「ゆ、結菜! やめてー!!」


結菜がお仕置き部屋から戻って来ると、輝久はベッドに座りながら、まだ寝ぼけていた。


「結菜さん、起きたんだ」

「は、はい」

「よかった。それで、ヨダレってなに?」

「な、なんでもないんです! それより輝久君、ずっと起きててくれたって聞きました。ありがとうございます」

「あ! そうだ、結菜さん大丈夫?」

「私は大丈夫です。まだ夜中ですし、二度寝しましょうか」

「そうだね」



***



僕達は同じベッドに入り、身を寄せ合った。


「沙里さんは違う部屋で寝てるの?」

「はい、今頃部屋を汚しているところです」

「汚してるってどういう‥‥‥」

「沙里さんはすぐにお漏らしするので」

「なるほど」


納得してしまう自分がいた。


「私‥‥‥お墓まいりに行こうと思うんです」

「そっか、決心したんだね」

「はい、良ければ輝久君も着いてきてください」

「僕も?」

「その方が安心しそうなんです。ダメですか?」

「結菜さんが安心できるなら全然行く!」

「ありがとうございます」


結菜さんは僕を抱き枕のように抱き寄せた。


「大好きです」


そのままキスしようとしてきた結菜さんを、僕は拒否した。


「ダメ」

「なんでですか?」

「お墓まいりにが終わって、無事に帰ってきたら沢山していいよ! そういうご褒美があった方が頑張れるでしょ?」

「わ、分かりました‥‥‥頑張ります」


あー、めっちゃキスしたい。

結菜さんに抱きつかれてキスを拒むとか罰当たりすぎるだろ。むしろこの雰囲気でキスすれば、その先も行けたんじゃ‥‥‥。


「ゆ、結菜さん、やっぱりキスする?」

「ダ、ダメです! 輝久君の考えは分かってます!」

「な、なんで!?」

「だ、だ、だって‥‥‥その‥‥‥輝久君のが、当たって‥‥‥」

「ご、ごめんなさい!! 今日は床で寝ます!!」

「は、はい(当たるぐらいなら気にしなくて大丈夫なのに。好きな人のそういうのって、ちょっと嬉しんだけどな。でも、輝久君が暴走しちゃったら!? は、恥ずかしくて無理です!! きょ、今日は別々に寝ましょう)」



***



翌朝、結局結菜は我慢できずに輝久に抱きついて寝ていた。



***



朝ご飯の時間


「食欲無いんですか?」

「あ、うん、ちょっとね」


何故だか沙里さんの箸が止まってる。

「珍しいですね。それにしても結菜さんは機嫌良さそうですね」

「はい♡ 輝久君と寝れるのは、とっても幸せです♡」

「私が酷い目にあってる間に‥‥‥ニ人ともどこまでやったの」

「どこまでってなんですか、僕は結菜さんと寝ただけです」

「どこまでってそりゃ、セッ」

「あー! 結菜さん! 学校に遅れちゃいます!」

「そ、そうですねー! 行きましょう!」

「イラッ‥‥‥輝久酷い! 私のこと抱いといて、結菜のことも抱くなんて!」

「なに言ってんの!?」

「輝久君?」

「ち、違うんだ! 沙里さんが嘘ついてるだけだよ!」

「嘘じゃないもん! あんなにめちゃくちゃにしといて! 私はじめてだったんだから! 優しくするって言ってくれたのに‥‥‥あんな激しく‥‥‥」

「だから! そんなことした覚えありませんって!」


結菜さんは今にも人を殺しそうな、恐ろしく不気味な笑みを浮かべた。


「さて、まずは輝久君‥‥‥切り落とされる心の準備をしておいてください。今すぐに」

「ひっ! さ、沙里さん!! なんで嘘つくんですか!!」

「だってちょっとムカついたんだもん」

「え? てことは嘘だったんですか?」

「そうなんだよ! 沙里さんが嘘ついただけ!」

「安心しました! お仕置きは嘘をついた沙里さんだけですみそうです! 本当に良かったです!」


うわ、本当に良かった。


僕はニコッと笑って沙里さんを見た。


「ざまぁ」

「輝久も一緒にお仕置きされろー!!」


沙里さんは僕に無理矢理抱きついてきて、それを見た結菜さんの表情がまた変わった。


「輝久君、早く離れてください」

「さ、沙里さん! 離れて!」

「やだ!!」

「五、四」

「死へのカウントダウンが始まってます!! 早く離れてください!!」

「ゼロ」

「三二一はどこへ⁉︎」

「輝久、ざまぁ!」

「沙里さん、僕は生まれ変わっても沙里さんを恨み続けます」


そして、沙里さんのせいで僕達は学校を休むことになった。



***



「あら? 今日は三人も休みなの? そろそろ来月にある体育祭と学園祭の準備とか色々話そうと思ったのに‥‥‥って貴方達、輝久君がいないと、そんな気の抜けた顔するのね‥‥‥」


M組のみんなは、輝久が休みと知って、かなり怠けた姿になっていた。


***

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