愛を飲んで
昨日あんなことがあったけど、鈴さんは普通に学校に来た。
すると芽衣さんは何故か、鈴さんの右腕を勢いよく掴んだ。
「鈴、右腕にも包帯してたっけ」
「え‥‥‥う、うん。してた」
「そっか。溜め込まないで、なんでも私に話してね」
「うん」
絶対切ったじゃん!!
僕のせいで鈴さんの腕に傷が増えた‥‥‥。
※
お昼になると、結菜さんが約束通り僕に弁当箱を渡してきた。
「約束通り作ってきました。食べてください」
「ありがとう!」
弁当箱を開けると、卵焼き、唐揚げ、きんぴらごぼうにプチトマトとブロッコリー、それと肉団子でシンプルなおかず構成になっていた。
ご飯は小さめのおにぎりが四個入っている。
「おにぎりは、たらこ、筋子、梅干し、ツナマヨです。嫌いなものとか‥‥‥大丈夫ですか?」
「うん! トマトがちょっと苦手だけどね」
「輝久君はトマトが嫌いなんですか!? ちょっと待ってくださいね」
結菜さんは、慌ててどこかへ電話をかけはじめた。
「もしもし宮川さん? 私のトマトの植木鉢ですが、全て捨てておいてください」
結菜さんはそれだけ伝え、一方的に電話を切った。
「そこまでしなくても‥‥‥大事に育ててたんじゃ」
「輝久君が嫌いなものは徹底的に排除します。それに私もトマト嫌いですし、さて、食べてみてください!」
「嫌いなのに育ててたの!?」
「食べてください」
「あ、うん」
僕は最初に卵焼きを食べてみた。
「美味しい!!」
「よかったです!」
全てのおかずが美味しすぎて、食べる手が止まらない。
見た目はシンプルで普通の弁当なのに、なんでこんなに美味しいのかな。
やっぱり結菜さんは凄い!
***
そんな中全然ご飯が進まない鈴を見て、芽衣は鈴の気持ちを察した。
「屋上で食べよっか!」
「うん」
「いいなー、私も行く」
芽衣と鈴、そして沙里は三人で屋上に向かった。
***
僕が弁当を食べ終えると、結菜さんはカバンから二つの水筒を取り出した。
「忘れてました! 右のが飲み物で、左のがお味噌汁です! もういりませんか?」
「飲みたい! あっ、唾液入れてないよね」
「い‥‥‥いれてません!」
「なんでそんなに動揺してるの?」
まぁ、今更結菜さんの唾液ぐらい別に平気だけど‥‥‥。
味噌汁を水筒の蓋に注ぐと、見た目は普通の味噌汁で唾液らしきものは浮いていない。
「それじゃ、味噌汁もいただきます」
「どうぞ♡」
んー、なんか変な味が‥‥‥味噌の酸味かな?
なんだろう。
「どうですか?♡」
「美味しいよ! なんか珍しい味噌使った?」
そう聞くと、結菜さんは下半身を押さえて、何故かモジモジしはじめた。
「味噌は普通です! ただ‥‥‥少し隠し味を♡」
「結菜さん!? どこ押さえてるの!?」
「反省と愛を込めて、恥ずかしいのを我慢して頑張りました♡」
いろいろと察しがつき、飲み物の水筒を手に取り、蓋に注がずに勢いよく飲んだ。
「それは私の愛百パーセントです♡」
その言葉に、思わず吹き出してしまった。
「愛ってなに!?」
「吹き出すなんて酷いです。私の愛を受け取ってください!」
結菜さんは水筒を手に取り、僕に無理矢理飲ませてきた。
「遠慮せずにどんどん飲んでください♡」
し‥‥‥ぬ‥‥‥。
***
教室にいた皆んなは、見て見ぬ振りしながら弁当を食べ続けたが、何故か一樹だけは目を輝かせていた。
その頃、芽衣と鈴と沙里は、屋上からの景色を眺めながら弁当を食べていた。
そして芽衣は、元気のない鈴に話しかけた。
「辛いよね」
「うん‥‥‥」
「私も鈴の気持ち分かるよ。多分、M組の女子生徒全員が鈴の気持ちを分かってる」
「どうして?」
「皆んな輝久のことが好きだから」
「沙里ちゃんも?」
「私は輝久と愛梨が好き」
「愛梨ちゃんって女の子だよね?」
「うん。恋愛的な好きかは分からないけど、なんか好きなの」
「そっか、二人は輝久君と結菜ちゃんを見てて辛くないの?」
「今はもう辛くないかな。嫉妬はするし、二人を見てて、結菜のことを羨ましいって思うこともあるけどね」
「なんで辛くないの?」
「本当に‥‥‥いろいろあったんだよ。皆んな沢山傷つけてあって、それでも仲直りして、そうしていくうちに吹っ切れたって言うのかな。なんか、好きだけど結菜と輝久の幸せを願うっていう変な感じ」
「沙里ちゃんは? 辛くないの?」
「うん。私は愛梨が大切で、愛梨が辛そうにしてるは嫌なの。だから輝久の家に行って無理矢理キスしたこともあったし、輝久とはキスしようと思えばいつでもできるし」
「愛梨ちゃんが辛かったのと、沙里ちゃんが輝久君にキスしたのはなんの関係が‥‥‥」
「え? 芽衣のせいだよ」
「なんで私!?」
「芽衣と一樹の関係がギクシャクした時だよ。あの時、愛梨は責任を感じてた。言わなかったけど絶対そう。見れば分かるもん。だからキスしたことを黙っててほしかったら関係を修復しろって脅した」
「沙里も裏で関わってたのね」
「沙里ちゃんって、いい人なのか悪い人なのか分からないね」
「私は私の正義のために悪を振りかざすの」
「なんかそれカッコいいね」
「それじゃ、その卵焼きちょうだい」
「い、いいよ? (カッコ良ければ卵焼きを貰えると思ってるのはよく分からないけど)」
「わーい、卵焼き」
沙里は鈴の卵焼きを頬張って満足したようだ。
すると芽衣は、自分の弁当から卵焼きを一つ、鈴の弁当に移した。
「それで? 鈴はこれからどうしたい? このままだと全員で修学旅行楽しめないでしょ」
「ちゃんと輝久君に告白する」
沙里がお腹を押さえて寝っ転がり、空を見ながら言った。
「やめた方がいいよ。絶対振られるし、鈴が思ってる以上に結菜は怖いよ」
「沙里! そんなハッキリ言わなくたって!」
「芽衣だって分かってるでしょ。今の輝久に告白しても無駄だって」
芽衣は何も言い返せなかった。
そして鈴は弁当箱を閉じて言った。
「私はちゃんと振られたいの。あんな形で気持ちを伝えて‥‥‥振られて‥‥‥それが嫌なの」
沙里は横になりながら目を閉じる。
「なにそれ。本当はワンチャンあるかもって思ってるんでしょ。その小さな希が叶わなかった時、鈴の心は耐えられるの? 両腕に包帯巻くはめになる程度の心で」
芽衣は沙里の発言に苛立ち、沙里に跨って胸ぐらを掴んだ。
「なんでそんなこと言うの? 沙里には人の心がないの!?」
「好きな人に振られて深く傷つくより、私に傷つけられて諦めた方がまだいいでしょ」
「だからって!!」
「大丈夫だよ、沙里ちゃんを離してあげて」
芽衣は沙里を離して、呑気に昼寝をしようとする沙里を見ながらイライラしていた。
そんな中、鈴は気づいていた。
「(沙里ちゃんの発言は、さっき沙里ちゃんが言っていた、私は私の正義のために悪を振りかざすっていう言葉そのものなんだと思う‥‥‥。沙里ちゃんなりの優しさなんだ。それにワンチャンあるかもって見抜かれてた。でも‥‥‥)傷ついても私は告白する。って、寝てるし」
「告白するなら止めないけど、結菜の前ではやめておきな? またトラブルになるから」
「うん、わかった」
その頃教室では‥‥‥
「輝久君! 起きてください! 輝久君!」
輝久は白目をむきながら倒れていた。
「私の愛が重すぎたんですか!? 輝久君!」
柚木が本校舎にある自販機から水を買って走ってきた。
「結菜! これ飲ませてあげな!」
結菜は慌てて水を受け取り、輝久の口に水を注ぎ込んだ。
すると輝久は意識を取り戻して結菜の顔を見て怯えだしてしまった。
「も、もう飲めないです!」
「大丈夫です。輝久君は私の愛を全部飲み干しました♡」
「あの‥‥‥もう一度聞くよ? 愛とは‥‥‥」
「恥ずかしくて言えません♡」
「柚木さん、愛ってなんだと思いますか?」
柚木は少し気まずそうにオレンジジュースを飲み干して言った。
「飲みすぎた。ちょっと愛してくる」
「柚木さん!? どこ行くんですか!?」
「ト‥‥‥トイレ」
柚木はトイレに行ってしまい、全てを察した輝久は、また白目をむきながら倒れてしまった。
「輝久君! 起きてください! トイレで出すようなものじゃありません!」
***
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