怯える芽衣

今日も結菜さんによる撮影会が終わり、教室で先生を待っていた。


「皆んなおはよう! 今日から新しいお友達が増えます! 入って自己紹介して!」


入ってきたのは黒髪姫カットで、うさぎのヘアピンをしている女の子だった。

この子とはあまり関わらないようにしよう。

なんか嫌な感じがする。


「はじめまして! 杉山鈴すぎやすずです! あれ?」


鈴さんの視線の先には芽衣さんがいた。

芽衣さんは何故か、シャーペンを持つ手が震えている。


「もしかして芽衣?」

「あ、うん、久しぶり」

「なに? 二人とも知り合いなの? それじゃ鈴さんは芽衣さんの隣ね! 転校してきたばっかりだから皆んな仲良くしてね!」



***



芽衣は莉子先生に、目で何かを訴えるが、それは通じなかった。


***



「またよろしくね、芽衣」

「うん‥‥‥」


僕は、みんなに聞こえないように結菜さんに話しかけた。


「結菜さん、芽衣さんの様子が変です」

「何故芽衣さんを見ていたんですか?」

「いや、鈴さんと知り合いみたいだったから」

「気にしなくていいです。何かあれば芽衣さんの方から話してくれます。話してくれなかったら、問題が起きてから解決しましょう」

「問題が起きてからじゃ遅いんじゃ‥‥‥」

「話してくれないなら仕方ないです」


それもそうか。というか結菜さん、自然と僕の隣に席戻したけど、莉子先生はなにも言わないな。



**♪



一限目が終わり、莉子先生が教室を出て、美波と真菜、一樹と輝久がトイレに行った時、鈴は芽衣にちょっかいを出しはじめた。


「ねー、なにこの髪、なんで金髪なんてしてるの?」


芽衣は鈴に髪をぐちゃぐちゃにされて、苦笑いで答えた。


「あはは、金髪にしてみたくてさ」

「それになに? このヘアピン、似合わないから捨てちゃいなよ」


鈴は芽衣の髪から、輝久にプレゼントされたヘアピンを取り、ゴミ箱に投げ入れてしまった。


「ひ、酷いなー」


芽衣は作り笑顔を続けながらゴミ箱に向かおうとしたが、鈴はそれを止める、わ


「ゴミ箱から拾うの? 汚いね」

「大事な物だからさ」

「あんな安そうなヘアピンが?」

「う、うん‥‥‥」

「拾っちゃダメだよ? それはもうゴミなんだから」

「え?」

「いいから席に戻りなよ。久しぶりに会ったんだしさ、仲良く話そうよ。ね?」

「そう‥‥‥だね‥‥‥」


結菜は本を読みながら、その出来事に無関心なふりをして、芽衣の助けてほしそうな目線にも気づかないふりをした。

そして休憩時間が終わり、先生が教室に入ってくると、不意にゴミ箱を見て言った。


「あー、もうパンパンじゃん。先生ちょっと捨ててくるね」


芽衣が辛そうにゴミ箱を見ると、結菜が立ち上がった。


「私が捨てに行きます。鈴さんと一緒に」

「いいの? でも、なんで鈴さんと?」

「校内を軽く案内しながら行こうと思いまして」

「なるほどね! それじゃお願いしちゃおうかな! なるべく早く帰ってきてね!」

「はい、行きましょうか。鈴さん?」


結菜はゴミ箱を持ち、鈴を連れて教室を出た。


「結菜ちゃんだっけ? 優しいね!」

「私って本当に優しいと思います」

「うん! だって、私に学校を案内してくれるんだもん!」

「芽衣さんのヘアピンを拾ってあげる私は、本当に優しいです」

「え?」

「芽衣さんとはどんな関係なんですか?」

「中学の時の友達だよ? でも芽衣さ、いきなり転校しちゃったの! それで今日久しぶりに会えたって感じ!」

「そうですか。髪をぐちゃぐちゃにしたり、ヘアピンを勝手に捨てたり、芽衣さんは嫌がっています。やめてあげてください」


すると、鈴は急に立ち止まった。


「私は悪くないの」

「悪いのは貴方です」

「最初に酷いことしたのは芽衣なんだよ」

「詳しく聞かせてくれますか?」

「いいよ。中学の時、私と芽衣を含めた四人の仲良しグループがあったの。芽衣はそのグループのリーダー的な存在でさ、四人で遊園地に行く計画をたてて、日時も決まってたんだけど、私が体調崩して行けなくなっちゃってね、なのに芽衣は私を置いて行ったんだよ? 最低じゃない? 仲間はずれにされたからネットで話したら、皆んな私の味方してくれた。可哀想だねって言ってくれた」

「だから芽衣さんは転校したんじゃないのですか?」

「そうかもね。私を悪者にしてもいい、私に人生潰されたと思ってもいい。芽衣が幸せなら‥‥‥」

「なんだか貴方、とても気持ち悪いです」

「は?」

「自分は悪くないと言ったり、悪者にしてもいいと言ったり、さっきから自分を可哀想と思ってもらうことに必死なんですよ。それに、日時も決まっていた中で体調を崩した貴方が悪いです。それを仲間はずれだとか、小学生でも思いませんよ」

「そんなことない。別に私は芽衣を陥れようとしたいわけじゃないし、自分が可哀想とか思われたくないもん」

「結果的に陥れようとしているじゃないですか。何ヶ月も経っているのに今も根に持っているのでしょ?」

「別に、私はもう興味ないし」

「それは良かったです。なら、もう酷いことはしないでくださいね。これ以上続けると、貴方が惨めになるだけですよ。もう教室に帰って結構です。ゴミ捨ては私が一人で行きますから」


歩き出した結菜の後ろ姿を、鈴は思いっきり睨みつけながら写真に撮り、SNSの谷舎坂高校の生徒だけが知っているコミュニティーに、結菜の後ろ姿の写真を添えて呟いたを


『鈴:M組の結菜って女、マジ感じ悪い。私のこと気持ち悪いとか言ってきたし、それと、本人から聞いたんだけど、ヤれる男大募集中らしいよ! 皆んな遊んであげてね♡』


そんなことも知らない結菜は、ゴミを捨てて教室に戻ってきた。


「芽衣さん、ヘアピンが落ちていましたよ。次は落とさないように気をつけてくださいね」


芽衣は嬉しそうにヘアピンを受け取った。


「ありがとう結菜!」

「どういたしまして」



***



なんか、鈴さんがイライラしている気がする‥‥‥。

僕の知らないところで、何か大変なことが起きているんじゃ‥‥‥。

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