吹っ切れた貧乳
あれから毎日いろんな教室に挨拶に行き、美波さんは、キレ症貧乳先輩として有名人になっていた。
そして今日は体育館で、本格的な演説の日だ。
僕は美波さんが話している間、横に立っていればいいらしい。緊張するけど頑張るしかない。
そんなことを考えていると、結菜さんの親衛隊の、ボコボコにされてM組の校舎に放置されていた女子生徒が、結菜さんの制服を持って図書室に入ってきた。
「結菜先輩、制服返すの遅くなってすいません。ちゃんとクリーニングに出しました」
「ありがとうございます。もう怪我はいいみたいですね」
「はい!」
「あれから親衛隊はどうなりました?」
「隊長が捕まったこともあって、すぐ解散になりました。皆んなも私に謝ってくれたので、もう大丈夫です!」
「それはよかったです」
「はい! 本当に迷惑かけてすいませんでした」
「もう大丈夫ですよ。それより、そろそろ体育館へ移動する時間ですね」
「そうですね! それではまた体育館で!」
僕達も体育館に移動して、僕と美波さんはステージ裏に待機することになった。
そこには立候補した生徒が沢山いて、愛梨さんと沙里さんの姿もあった。
愛梨さんのサポート役は沙里さんなのか。
それからしばらくして、演説の時間になり、立候補した生徒はステージ上に置かれたパイプ椅子に座った。
次々と立候補者が演説をしていき、次は愛梨さんの番だ。
愛梨さんがマイクの前に立つと、ニ年生と三年生の生徒に謎の緊張感が走り、みんな真剣な表情に変わった。
「皆さんこんにちは」
「こんにちは!!」
ニ年生と三年生は元気に挨拶をしたが、一年生は挨拶をしなかった。
「あら? 一年生の皆さん、こんにちは」
「こんにちは」
一年生は戸惑いながらも挨拶をした。
今の一年生は、愛梨さんの怖さを分かっていないんだ。
「生徒会長に立候補した新垣愛梨です。まず最初に今のニ年生と三年生、そして先生方にお詫び申し上げます。去年、私は独裁的な行動と発言で、皆さんを困らせてしまいました。本当にすいませんでした」
愛梨さんは深々と頭を下げた。
「そして、今回立候補したのは、この学校をより良い学校にするためです。まず、学校全体のことについてではなく、先日火災にあったM組の校舎についてですが、早急に校舎の立て直しをします。そして、体育祭や学園祭などのイベントにも、参加の権利を与えます。今の一年生はM組と聞いて、怖かったり嫌なイメージがあるかもしれませんが、一部の生徒は知っているはずです。皆んな仲間想いで、しっかりしいている方々だと。そして、学校全体に関してですか、一週間に一回は必ず、皆さんの提案や不満を聞く時間を作ります。学校を生徒会だけで作るのではなく、生徒全員で作り上げましょう。私は口だけではなく、必ず実行します」
愛梨さんと沙里さんが皆んなに向かってお辞儀をすると、全校生徒の拍手が響き、演説を終えた。
次はラスト、ついに美波さんの番だ。
「美波さん、僕が書いた紙、持ってきましたよね」
「もちろん、この胸ポケットに‥‥‥あれ?」
「図書室に置いてきたみたい」
「はい?」
「長谷川美波さん、どうぞ」
やばい、呼ばれてしまった!
美波さん、なんとか頑張ってくれ。
美波さんは足をガクガク震わせながら、ステージ中央のマイクの前に立った。
「えっ、えーっと、長谷川美波‥‥‥です」
美波さんが顔に汗をかいて僕の方を見てくる。
紙を忘れた以上、どうすることもできない。
僕は美波さんに向かって、口パクで『アドリブ』と必死に伝えた。
「アドリブ!」
美波さん、違う。そうじゃない。
全校生徒が頭にハテナを浮かべたような顔で美波さんを見ている。
美波さんがなにも言えずに固まっていると、一人の男子生徒が声を上げた。
「頑張れ美波さーん! 貧乳は正義!!」
全校生徒の前で貧乳と言われた美波さんは、顔を真っ赤にして口を開けている。
すると次々と男子生徒が立ち上がり、美波さんを応援するように声を揃え始めた。
「貧乳! 貧乳! 貧乳! 貧乳!」
貧乳好きの男子生徒が、美波さんを必死に応援している。
もちろん女子生徒はドン引きしているけど‥‥‥。
美波さんは一瞬歯を食いしばり、吹っ切れた様子で拳を振り上げた。
「貧乳は好きかー!!」
「おー!!」
「貧乳でなにが悪い!!」
「悪くなーい!!」
「貧乳は世界を救う!!」
「救う!!」
「アーハッハッハッ! 私が生徒会長になったら、貧乳の全ての女子生徒と、毎日牛乳を飲む時間を作る!! 学校の水道も全部牛乳に変える!! 私より先にスポブラを卒業した貧乳は、即乳をもぐ!! いいな!!」
「おー!!」
***
沙里もどさくさに紛れて、小さく声を揃えていた。
***
美波さん、やっぱりスポブラだったんだ。
そう考えたら、去年の赤い下着は無理に着けていたんだな。ガバガバだったんだな。可哀想になってきた。
そうして生徒会演説が終わった。
※
図書室に戻り、美波さんが結菜さんに言った。
「結菜も私に票をいれてくれるよね?」
「私は愛梨さんに入れますよ?」
「なんで!?」
「M組の校舎も戻りますし、柚木さんがやりたがっていた体育祭と学園祭にも参加できるんですよ? それに私、貧乳じゃないので」
「真菜!! 今すぐ結菜に貧乳になる魔法かけて!!」
「お姉ちゃん!? 私魔法少女じゃないよ!? それに私、M組で一番胸大きいし」
「あー!!!!」
美波さんは図書室を飛び出していった。
「輝久君は誰に票を入れるんですか?」
「僕も愛梨さんかな」
「良かったです」
***
その頃美波は、トイレの鏡の前で自分の胸を揉みまくっていた。いや、揉めていないが、揉みまくっていた。
「大きくなれ、大きくなれ、大きくなれ!!」
***
後何日かは、毎日挨拶回りをして、生徒会選挙の結果を待つだけだな。
多分美波さんは無理だろうけど。
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