貧乳挨拶
生徒会選挙が始まり、前々から立候補が決まっていた生徒達は、愛梨さん含め、廊下に選挙ポスターを貼っている。
そのポスターの中でもさすが愛梨さんのポスターは目を惹く。
愛梨さんの凜とした姿が描かれ、キャッチコピーは【皆んなの声を大切に】だ。ちょっと信用できない。
みんな順調に選挙活動をする中で、美波さんだけは図書室で頭を抱えていた。
「ポスターどうしよ! 何も考えてなかった!」
そんな時僕は、結菜さんが美術部に入っていることを思い出した。
「結菜さん、美波さんのポスター描いてあげたらどうですか?」
「描けるの!?」
「絵なんてしばらく描いてなかったので、描けるか分かりませんよ?」
「全然いいよ! お願い! 描いて!」
「それでは美術の先生から道具を借りてきてください。授業が始まる前に描いてしまいましょう」
「わかった! 行ってくる!」
授業が始まる前にって、そんな早く描けるもんかな。
「借りてきた!」
「早っ!!」
結菜さんはイラストを描く道具を机に広げて聞いた。
「イメージはどんな感じですか?」
「えーっと、可愛く!」
「キャッチコピーはどうしますか?」
「んー、真菜〜、なにがいいかな」
「一人一人が輝ける生徒会とかは?」
「いいね! んじゃ、一人一人が毎日牛乳で!」
ん?変わってません?
それにしても、芽衣さんと一樹君‥‥‥僕達をよそにイチャイチャしすぎ!
「ダーリン♡ はい、あーん♡」
「あーん♡」
弁当の時間まで、あと四時間半ありますけど!?
すると結菜さんは、物凄いスピードでポスターの絵を描き始めた。
しかも、かなり上手い。
そのスピードと上手さに、イチャイチャしていた二人でさえ見入ってしまった。
「描けました」
美波さんは嬉しそうに、あっという間に出来上がったポスターを手に取った。
「凄い!! 凄いよ結菜!!」
「どういたしまして」
美波さんがアイドルのように描かれ、キャッチコピーは【貧乳にも希望を♡】え?
いや!また変わってません!?
美波さんは絵に見惚れて、キャッチコピーに気づいていないみたいで、ルンルン気分でポスターを貼りに行って戻ってきた。
「どこに貼ってきたんですか?」
「愛梨の隣!」
「なんでわざわざ愛梨さんの隣なんですか!?」
「だってライバルだもん」
「あぁ、なるほど」
「あっ! 選挙にはサポート役が必要じゃん! 輝久やってよ!」
「僕なんかにできませんよ!」
「お願い!」
「輝久君はダメです。真菜さんにでもやってもらったらどうです?」
「えっ、真菜はあがり症だし無理だよ」
「お姉ちゃん! 少しは頼ってくれてもいいじゃん!」
「えー、できるの?」
「えー、無理」
「なんだお前、我が妹ながらなんだお前」
そうこうしていると、莉子先生が図書室に入ってきて言った。
「なに? サポート役の話? それなら輝久君でいいんじゃない? 輝久君は作文とか得意だし、演説で話す内容とか考えられるんじゃない?」
「ほら! 先生もそう言ってるし! 結菜、ダメ?」
「しょうがないですね。ですが私も一緒に行動します、二人きりになるのは許しません」
「わ、わかった。てことで! よろしく輝久!」
「僕の感情は無視ですか」
「無視だ!」
そんな堂々と言われても。
※
その日、僕は自宅で泣く泣く美波さんの演説の言葉を考えることになった。
それにしても、あんなキャッチコピーじゃ絶対無理だよ。
結菜さん、爽やかな顔して絶対楽しんでる。
※
次の日、演説用の紙を美波さんに渡した。
「これ、考えてきました」
「おー! さすが輝久!」
「美波さんは下級生の教室に挨拶とか行かないんですか?」
「え? なんで?」
「なんでって、後輩からの支持を集めないとですよ。好感度上げたり」
「なるほど! それじゃお昼休憩の時間に行こう! 輝久もついてきてね!」
「やっぱそうなりますよね」
結菜さんが図書室で本を選びながら話に混ざってきた。
「私も行きますからね」
「分かってるって!」
※
そしてお昼休憩の時間、とりあえず今日は、一年生の教室を回ることになった。
最初は一年一組だ。
僕と美波さんが教室に入り、結菜さんは廊下で僕を監視している。
「はじめまして! 三年生の長谷川美波です! 生徒会長に立候補しました!」
すると、何故か一年生達がざわつき始めた。
「あ、貧乳の人だ」
「本当にペチャパイじゃん」
それを聞いた美波さんは、眉間にシワを寄せて、今にも怒りが爆発しそうな雰囲気で先生の教卓の端を力強く握りしめた。
「おい一年、先輩に向かって失礼だろうが。シバいたろか?」
「美波さん、キャラ変わってますよ」
美波さんはすぐに作り笑いに切り替えた。
「と、とにかく、皆んな私に清き一票をよろしくお願いします!」
そう言い残して教室を出た途端、美波さんは床を力強く足でドンドンと踏みつけて怒り出してしまった。
「なんなのあの一年!」
「美波さんやめて、床に罪はない」
「誰が貧乳だ! まったく!」
怒る美波さんに、結菜さんが爽やかな笑顔で言ってしまった。
「美波さんしかいないですよ」
すると美波さんは、結菜さんの胸を鷲掴みにして、これでもかと揉みまくり始め、僕は思わずそれをガン見してしまった。
「分けろ! その乳分けろ!」
「分けれる物なら、本当に分けてあげたいぐらい可哀想な胸です」
「ムキー!!」
ムキーって言って怒る人はじめて見た。
「二人とも、あと二クラス残ってますよ? 早く行きましょ」
そして一年ニ組では、貧乳と言われずに、美波さんも機嫌良く挨拶を終えた。
最後に一年三組で挨拶をすると、また貧乳という言葉が飛び交った。
「貧乳先輩!」
「小さくて可愛いー!」
「ブラ必要なさそう」
「さすがにスポブラはつけるだろ」
美波さんは我慢の限界で暴れようとしたが、ギリギリで僕は美波さんの体を掴んで廊下に引っ張った。
「離せー! こいつら殺す! 絶対殺す!」
「は、はーい、図書室戻りましょうねー」
教室を出て、美波さんから手を離した途端、美波さんは泣きながら図書室に走って帰っていった。
「真菜〜!」
すると結菜さんが無表情で僕を見つめてきた。
「結菜さん? ど、どうしました?」
「なんで美波さんの体を触ったんですか?」
「美波さんを止めるためだけど‥‥‥」
「一ポイント」
「え?」
「選挙が終わるまでに十ポイント溜まったら‥‥‥」
「溜まったらなんですか!?」
結菜さんはニコッと不気味に笑ってなにも言わずに歩き出してしまった。
絶対いいことではないのは確かだ。気をつけよう。あとめちゃくちゃ怖い。
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