繰り返し

「美波さん、残念でしたね」

「悔しいー!」


美波さんは惜しくも会長ではなく、副会長に選ばれた。

生徒会長になったのは誰もが納得の愛梨さんだった。


「副会長なんだからいいじゃないですか」

「もう降りた」

「副会長をですか!?」

「だって、会長以外したくないもん!」

「それじゃ、美波さんが貧乳だってことを広めただけじゃないですか」

「でも、輝久も貧乳好きでしょ?」


結菜さんが胸を強調しながら美波さんの目の前に立ちはだかる。


「いいえ、輝久君は大きい方が好きです」

「そうなの!?」

「僕はどっちでも好きです!! って一樹君が言ってました」

「え!? なんで俺!?」


思わず口にしてしまった言葉を一樹くんのせいにすると、芽衣さんが一樹くんの顎を掴み、鋭い目つきに切り替わった。


「一樹、本当?」

「俺そんなこと言わないです」

「でも、輝久は嘘なんてつかないの。一樹は私以外の胸も好きってことだよね」


ごめん、嘘つきました。


「芽衣さんのだけ好きです!」

「んじゃ、輝久が嘘をついたの?」

「え、えーっと、一樹君が言ってたような気がするなーと思っただけです。あっ! でも、皆んなの唾液を水筒に入れて持ち歩きたいとは言ってました!」


僕に暴露された一樹君は、顔中から大量の嫌な汗を流し始める。


「それは本当?」

「そ、それは‥‥‥言ったような言ってないような」


次の瞬間、芽衣さんは一樹くんから素早く離れた。


「は、なにそれ、きも」

「ご、誤解です! い、言いましたけど、違うんです!」

「なにが違うの?」

「いや、違くないんですけど」

「あ、ごめん、やっぱり一樹無理かも」


一樹君は芽衣さんの言葉を聞いて、ショックのあまり白目を向いて倒れてしまった。


「芽衣さんが酷いこと言うから!」

「だって、流石に引くよ」

「別れたりしないでくださいよ!?」


芽衣さんはいきなりノートを開いて、澄ました顔で手紙を書き始めた。


「拝啓、二十歳の私へ。十七歳の春に一樹と別れたけど、今は彼氏とかいますか? もしかして、輝久と結婚とかしちゃってますか? きっとしてますよね、そうですよね」

「芽衣さん、いきなり未来の自分に手紙書かないでください」


結菜さんが芽衣さんの横に立ち、手紙を指差した。


「この、輝久と結婚とかしちゃってますか? の部分、輝久とは絶縁したけど元気ですか? に書きなおしましょう」

「なんで絶縁しなきゃいけないの!?」

「だって、結婚するのは私ですから」

「う、うん待って、僕との関係はいいとして、一樹君と別れたの?」

「当たり前じゃん! こんな男無理!」

「付き合ったと思ったら別れて、別れたと思ったら付き合って、そしてまた別れて、一樹君の心が持たないよ!」


すると一樹君が目を覚ました。


「あれ‥‥‥俺、なにしてたっけ」


芽衣さんが一樹君に近づき、笑顔で言った。


「一樹、最近彼女と上手くいってる?」

「え? 彼女‥‥‥芽衣さんですよねッブ!?」


芽衣さんはいきなり、一樹君の顔面に膝蹴りをして、一樹君はまた気絶してしまった。


「芽衣さん!? なにしてるの!?」

「一樹が心の病にかからないように、記憶を変えてあげようと思って!」


そして、また一樹君が目を覚ました。


「あれ? なんかすごい衝撃を受けたような‥‥‥」

「一樹、最近彼女と上手くいってる?」

「彼女?」

「そう! ほら、忘れた? 一樹って愛梨と付き合ってるじゃん!」

「愛梨さん‥‥‥」

「ほら! 多分、生徒会室にいるから会いに行きなよ!」

「そうですね、愛梨さん‥‥‥愛梨さん‥‥‥愛梨さん‥‥‥」


一樹君は図書室から出て行ってしまった。


「芽衣さん! やりすぎです! 一樹君壊れちゃいましたよ!?」

「大丈夫大丈夫!」

「いや、どこが!?」

「私達トイレ行ってくるわー」

「行ってきまーす」


美波さんと真菜さんは、呆れた様子でトイレへ行ってしまった。



***



その頃一樹は‥‥‥


「愛梨さん! 会いにきました!」

「なぜ?」

「なぜって、俺達付き合ってるじゃないですか!」

「一樹先輩の恋人は芽衣先輩ですよ? 変な冗談やめてください」

「芽衣さん‥‥‥芽衣さーん!!」



***



一樹君が芽衣さんの名前を呼ぶ声が聞こえた。

それにどんどん図書室に近づいてくる‥‥‥なんとかしなくちゃ。


「芽衣さん! 本当に一樹君と別れるんですね!?」

「う、うん」

「分かりました。芽衣さんと結菜さんは僕に話を合わせてください」


次の瞬間、一樹君が図書室に戻ってきた。


「芽衣さん! 俺の彼女は芽衣さんです!」


僕は一樹君の両肩に手を置き、深刻そうな雰囲気を出した。


「一樹君、きみ‥‥‥一樹君だよね」

「輝久君? 当たり前じゃないか、いきなりどうしたんだい?」

「よく聞いてくれ一樹君」

「う、うん」

「君は今図書室に入るその瞬間まで、パラレルワールドに迷い込んでいたんだ! こっちの世界の芽衣さんは‥‥‥ニューハーフなんだ!!」

「う‥‥‥嘘だろ‥‥‥芽衣さん! 嘘ですよね?」

「あらやだ♡ 輝久君ったら♡ 内緒って言ったでしょん♡」


あ、やばい。めっちゃノリノリだ。

堪えろ‥‥‥笑うな僕!!


「ごめんね芽衣さん。一樹君の目を覚まさせるには‥‥‥言うしかなかったんだ!! そして一樹君! 芽衣さんは僕の彼氏だ!!」


芽衣さんはすかさず僕の腕に抱きついて、腰をうねうねし始めた。


「そうなのよ〜♡ 三年前から付き合ってるんだからぁん♡」

「だ、だって輝久君は結菜さんと付き合ってるんじゃ!」


結菜さんは、今にも芽衣さん殺しそうな目をしていたが、堪えて無理矢理笑顔を作った。


「わ、私は誰ともお付き合いしたことがないです」

「本当に俺は‥‥‥パラレルワールドに迷い込んでいたのか‥‥‥ちょっと心の整理をしてくる」


一樹君がバカでよかった。


一樹君が図書室を出た瞬間、芽衣さんが顔を真っ赤にして怒り出した。


「ちょっと輝久!! なにさせるの!?」

「あ、あれしか方法がなかったんですよ!」


そして結菜さんは、また恐ろしい目つきに戻ってしまった。


「芽衣さん、わざわざ抱きつかなくても良かったですよね」

「私だって恥ずかしいことしたんだから、ご褒美だよ! ご褒美!」

「もう輝久君には手を出さないんじゃなかったんですか?」

「出さないよ!! でも好き!! 悪い!?」

「他の男性を好きになったり、輝久君を好きになったり、本当淫乱ですね」

「淫乱はどっちだよ! そんなデカイ胸ぶら下げて! 結菜の方がよっぽど淫乱じゃん!」

「二人とも! せっかく仲良くなったんだからやめてよ!」


僕がそう言うと、結菜さんが僕に詰め寄ってきた。


「元はと言えば、輝久君があんな作戦を考えたのが悪いんです。九ポイント」

「あのポイントって、生徒会選挙が終わるまでが有効じゃなかった!?」

「気が変わりました。罰ゲームです」


次の瞬間、芽衣さんが僕と結菜さんの間に割って入ってきた。


「なに、罰ゲームって! 輝久が可哀想じゃん!」

「貴方には関係ありません」

「関係ある! 好きな人が嫌がることは許せない!」

「本当にコロコロ好きな人が変わりますね」

「もう変わらない! 輝久が好き! 次変わったら死んでもいい!」

「死んでもいいので変えてください」

「はぁ!? なにそれ!」

「皆さんの前で泣きながらキスしておいて、今更輝久君のことが好きなんて都合が良すぎます」

「んじゃ消毒するし!」


芽衣さんが僕の方を振り向き、いきなりキスをしてきた。


「め、芽衣さん!?」


そして芽衣さんは、また結菜さんの方を向いて言った。


「はい、消毒完了!」


すると、結菜さんは芽衣さんの首を絞め、芽衣さんも結菜さんの首を絞めながらお互い睨み合ってしまった。


「ちょっと! 二人とも手を離してください!」


結菜さんは苦しそうに言った。


「やっぱり貴方とは仲良くできなそうね」

「そうだね」


そこに美波さんと真菜さんが、売店で買ったパンを食べながら、呑気に帰ってきた。


「二人とも! 結菜さん達をなんとかしてください!」


美波さんは慌てることもなく、パンを食べながら言った。


「どうしたのその二人」

「喧嘩?」

「そうです! 早く止めてください!」


美波さんは喧嘩を止めることなく、椅子に座ってしまった。


「そのうち終わるでしょ」


真菜さんも椅子に座り、美波さんと二人で呑気にパンを食べ始めてしまった。

いったいなに考えてるの!?


その間にも芽衣さんと結菜さんは、首を絞め合いながら足で蹴りあったりと、どんどんエスカレートしていく。

そこに、やっと一樹君が帰ってきた。


「二人ともなにやってるんですか!?」

「一樹君! この二人一緒に止めて!」

「わ、わかった!」


一樹君が僕達の方に走ろうとした瞬間、莉子先生が大慌てで図書室に入ってきた。


「車出すから皆んな急いで!! 柚木さんが大変なの!!」


莉子先生の言葉に一樹くんは立ち止まり、美波さんと真菜さんはパンを食べる口と手が止まった。

そして結菜さんと芽衣さんの喧嘩も止まり、二人は急いで図書室を飛び出した。

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