相談者
「結菜先輩ですよね! 相談聞いてください!」
「貴方は誰かしら」
「今年からこの学校に入学してきた、蕾です! 私、好きな人がいて! 告白するかどうか悩んでるんです!」
「したらいいと思うわよ」
「分かりました!」
学校中に結菜さんは人をいい方向に変える力があるという噂が広まり、休み時間の度にいろんな生徒が結菜さんに相談しに来るようになってしまった。
結菜さんは大体の相談は適当に答えるけど、さっき告白するか悩んでいた子も、数分後に告白し、あっさり彼氏ができた。
そうやって運がいいパターンも続いたせいか、結菜さんに恋愛の相談をしたら必ずいい結果になるとか、新しい噂まで広まっている。
だが、いろんな相談がある中で、たまに真剣に向き合う時がある。
それはいじめや、自殺などに関する相談だ。
「結菜先輩、私、今二年生なんですけど、一年生の時からいじめられていて‥‥‥」
「どんないじめですか?」
「いろんな人から無視されるんです‥‥‥」
「それは嫌よね」
「はい‥‥‥」
「嫌なのに、何故学校に来ているの?」
「親には言えないし、学校休んだら怪しまれちゃいます」
「嫌でも学校には通わなくてはいけない、それなら貴方自身が変わるか、貴方が周りを変えるかね。両方できれば最高ね」
「どっちも私には難しそうです‥‥‥」
「いじめっ子ってね、罪悪感を持っていじめをする人なんて滅多にいないの。貴方は小さい頃、何の意味もなく蟻を潰したことがないかしら」
「ある気がします‥‥‥」
「その時、罪悪感なんて感じなかったでしょ?」
「はい‥‥‥」
「でも今になって蟻を潰せって言われたら、ちょっと可哀想な気がしないかしら」
「たしかに今はできません」
「昔の貴方と今の貴方が違うように、今の貴方と明日の貴方は変われると思います。いじめっ子も人間ですから、必ず飽きがきます。ただ、早めになんとかしたいのなら、貴方が飽きさせなければいけません。無視されても平気なふりをして、しばらく無理をしてでも明るく振舞ってみなさい。それでも状況が変わらなければ、また話をしにきなさい」
「分かりました‥‥‥頑張ってみます!」
「待ちなさい」
「はい?」
「どうやってもダメな時は、逃げてもいいんだからね。それは死ではなく、貴方の明るい未来への話よ」
「‥‥‥ありがとうございます!」
そうやって真面目な会話が繰り広げられた後は、必ず僕含め、M組の生徒からの拍手が送られるが、結菜さんは何もなかったように本を読み始める。
そんな繰り返しが一日中続いていた。
※
そして放課後、また結菜さんの元に相談者がやってきた。
「結菜先輩、相談聞いてくれませんか?」
「これから用事があるので、ごめんなさい」
「私、死にたいんです」
「何故?」
M組の皆んなが思ったであろう。
結局聞いてあげるんだ。優しい。
放課後にもなると、相談に対して結菜さんがどんな答えを出すかを聞くのが、僕達の楽しみになっていた。僕達は帰る準備をしていたけど、相談が始まり、皆んな静かに席に着いた。
「私‥‥‥彼氏に振られて‥‥‥もう生きてる意味がないんです!」
「じゃ、何故私に相談しにきたのかしら。生きる意味がないのでしょ?」
「それは‥‥‥分からないですけど‥‥‥」
「今は生きる理由なんて、死にたくないからで充分だと思うわよ。死んだ先に、貴方の苦しみが五千年続く世界があるかもしれないですし、死を都合よく考えて死ぬなんて、賭けにしては大きすぎるわ。それにね、私も死のうとした時があったのだけれど、その瞬間に幸せが訪れたの。だからね‥‥‥一分後に幸せなことが起きるかもしれない未来を捨てるのは勿体ないです」
「どんな人生を歩めば、結菜先輩みたいになれますか‥‥‥?」
「私みたいにならない方がいいわ。貴方は貴方らしさを貫きなさい。その中で失敗をして、失敗を力にして素敵な自分を作り上げるといいわ」
相談してきた女子生徒は、目を輝かせて結菜さんを見つめる。
「ありがとうございました! 結菜先輩を見習って頑張って生きていきます!」
相談者は表情が明るくなり、M組を出ていった。
すると結菜さんは疲れたように溜息をついた
「はぁ‥‥‥」
それを見た芽衣さんは結菜さんを気遣うように、結菜さんのカバンを持ってあげた。
「大丈夫? カバン持ってあげるから、早く柚木のとこに行こ」
「ありがとうございます。今日は沢山の相談に乗って疲れました」
それから僕達は久しぶりに皆んな揃って柚木さんのお見舞いに行き、その後遊びに行くこともなく解散した。
***
夜になると、結菜は自宅のお風呂に入りながら、今日一日の疲労感を癒し始めた。
(はぁー。なんでこんなにいきなり相談されるのかしら。変な噂が広まったのって、絶対沙里さんと愛梨さんのせいよね‥‥‥明日の休憩時間は輝久君と話したいな)
※
翌日、結菜の願いも虚しく、M組には沢山の生徒が押し寄せた。
「おい! 彼女に振られたぞ! 話と違うじゃないか!」
「結菜先輩の詐欺師! 告白しても付き合えなかったじゃん!」
「なんとか言えよ!」
「そうだ! なんか言ってみろよ!」
昨日とは様子が違い、昨日の相談者のうち十名ほどが苦情を言いに来たのだ‥‥‥。
***
結菜さんは全ての苦情を無視して、静かに本を読んでいる。
芽衣さんと美波さんと真菜さんは苦情を言いにきた生徒達を静かに睨んでいるが、僕と一樹君は、その状況におどおどしていた。
「なんとか言えって!!」
その時、結菜さんが本閉じて立ち上がった。
「人に自分の運命を預けて、人の力で自分の未来を変えようとして、納得のいかない結果になったら文句を言う。だから貴方達は幸せになれないんです」
さっきまで文句を言っていた生徒達は、何も言えずにイライラしている。
「それに、私には人を変える力なんてないわ。私の周りで実際に変われた人もいるけれど、それは自分自身の力よ。自分でいろんな感情と向き合って、自分で新しい自分になったのよ。人に人生預けるような人間に、文句を言う資格なんてないわ」
すると、文句を言ってきた生徒達は、小声で文句を言いながら帰っていった。
さすが結菜さん。言葉の重みが違うな。
※
それからは、本当に深刻な悩みがある人しか相談してこなくなり、結菜さんは平和な休憩時間を取り戻した。
***
今回のことで、結菜を嫌いになった生徒もいたが、結菜を女神と崇める生徒も多数いた。
そして結菜のファンクラブが作られたことを、結菜はまだ知らない。
***
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