ハニートラップ大作戦
***
いつものように結菜が学校に行くと、校門をくぐったところで大勢の生徒に囲まれた。
「結菜先輩! 今日も美しいです!」
「結菜さん! サインください!」
結菜は困った様子で立ち止まる。
「これはなんの騒ぎですか?」
すると【結菜Love】の文字が入ったハチマキをした男子生徒が言った。
「我々は、結菜様のファンクラブ兼、親衛隊! そして俺がその隊長です!」
「そんなの困ります」
「問題ありません! 今日から俺達が結菜様をお守りします!」
結菜はなにも言わずに呆れた表情でM組へ向かった。
「結菜様が教室に向かわれるぞ! 周りを警戒しろ!」
「はい!」
結菜は完全防御の中で、頭痛を感じながらM組まで歩いた。
(私は一体、なにから守られているのかしら)
教室について、その後しばらくして、輝久が教室に入ってきた。
***
「なんか外に変な人達が沢山いたんだけど」
「朝から変な集団に付きまとわれて大変でした」
「結菜Loveって書いたハチマキをした人もいましたよ」
「本当に迷惑です。輝久君になら、あのハチマキしてほしいですけど」
「恥ずかしくて無理だよ!」
「それは残念です」
結菜さんがガッカリした時、美波さんが走って教室に入ってきた。
「結菜! なんか変な集団がいたけど、なにもされてない!? 大丈夫!?」
「え、えぇ」
その後、真菜さんが少し遅れて教室にやってきた。
「お姉ちゃん、いきなり走らないでよー」
「ごめんごめん! 結菜が心配でさ」
「私は大丈夫ですよ。私のファンクラブ兼、親衛隊の方々らしいです」
「結菜さん、最近人気者ですね」
僕がそう言うと、結菜さんは僕の手を握り、上目遣いで僕を見つめた。
「嫌ですか? 輝久君が嫌なら、私はあの方達に嫌われる努力をします」
「そ、そこまでしなくていいよ!」
「不満があったらいつでも言ってくださいね」
「う、うん!」
※
放課後になると、ファンクラブ兼、親衛隊の皆がM組の中にズカズカと入ってきた。
そして、ハチマキを巻いた男子生徒が結菜さんに頭を下げる。
「今日も一日お疲れ様です!」
「私に関わらないでくれるかしら」
「その素っ気ない感じも素敵です! そんなことより、結菜様は、もちろん生徒会長に立候補しますよね?」
「興味ないです」
「そんな! 結菜様こそが、この学校の生徒会長に相応しいです!」
結菜さんが露骨に嫌な顔をした時、芽衣さんが親衛隊の前に立ち塞がった。
「結菜困ってるでしょ! ほら、帰った帰った!」
「お前は結菜様のなんなんだ!」
「私は結菜の友達!」
「お前みたいな人が結菜様の友達なわけないだろ!」
結菜さんは本を見ながら言った。
「友達ですよ」
芽衣さんはその言葉に喜び、目を輝かせて結菜さんの手を握る。
「友達!? 私達は友達!?」
結菜さんは少し不思議そうな顔で芽衣さんを見つめて首を傾げる。
「えぇ、随分前から友達だと思ってましたけど」
「やったー!」
すると、美波さんと真菜さんも結菜さんに食い気味に聞いた。
「私達は!?」
「と、友達ですよ?」
「イェーイ!」
「俺は!?」
流れで一樹くんも食い気味に聞いたが、嫌な予感がする。
「貴方は微妙です」
僕は落ち込む一樹くんの肩に手を置いた。
「ドンマイ!」
「輝久君は余裕だよね。友達どころか、恋人なんだから」
「あはは、改めて言われると恥ずかしいな」
それを聞いていた親衛隊の男女全員が、静かに僕を睨んでいる。
「結菜様、今日は帰らせてもらいます。結菜様もお気をつけて帰ってくださいね!」
「さよなら」
***
親衛隊の隊長は本校舎に戻る時、全員に向かって言った。
「緊急作戦会議を行う。全員帰りの準備を済ませ、屋上に集合だ」
そして、学校の屋上に全員が集まると、思ったよりも寒く、震えながらの作戦会議となった。
「許せん!! あんな冴えない男が結菜様の彼氏なんて、絶対に許せん!!」
全員が声を揃える。
「そうだそうだ!!」
「なんとしてでも、あの二人を別れさせるべきだ」
「そうだそうだ!!」
「そこで一つ作戦がある‥‥‥ハニートラップだ!!」
すると、女子生徒達が首を傾げて聞いた。
「ハニートラップ?」
「そうだ。親衛隊の女子生徒が一人一人、あの男を誘惑するんだ! そして、徹底的な瞬間を、我々男子生徒が写真に納める。その写真を結菜様に見せれば、絶対に破局する!! ハニートラップを仕掛けている場面を結菜様に見られたら、臨機応変になんとかするんだ! 作戦実行は明日だ、いいな!!」
「おー!!」
***
翌朝、僕が校門をくぐった瞬間、一人の女子生徒が近づいてきた。
「輝久先輩! 今日もカッコいいですね!」
「君は?」
「入学式の時から輝久先輩に一目惚れで! 輝久先輩! 私と付き合ってください!」
「え! いや、僕は彼女がいるから‥‥‥」
素直に答えると、その女子生徒は無理矢理僕にに抱きついてきた。
「いいじゃないですか先輩〜♡」
「こ、困ります!」
僕は走ってM組に逃げてきてしまった。
実に情けない。でも、結菜さんに見られたら、あの子が危ないもんな。
僕の行動は正しい。
***
女子生徒は、茂みに隠れていた男子生徒と合流した。
「撮れた?」
「撮れたぞ! あのハグは完璧だった!」
親衛隊の作戦は輝久の知らないところで、順調に進んでいた。
***
M組の校舎に入り、自分の下駄箱を開けると、大量のラブレターが入っていて、一応確認してみると、全員が放課後に体育館倉庫に呼び出している。
なんか嫌な予感がするな‥‥‥
なにか起きた時のために、情けないけど美波さんについてきてもらおう。
※
そして放課後、こっそり美波さんを呼び出して、二人で体育館倉庫に向かった。
美波さんは僕と二人なのが嬉しいのか、ルンルン気分で歩いている。
***
撮影役の男子生徒達は、まさかの美波同伴に驚いたが、二人が一緒に歩く姿もしっかり写真に収め、体育館倉庫には五台の携帯で、隠しカメラを設置済みで、準備ば万全だった。
***
「美波さんはここで待っててください。僕が助けを呼んだらすぐ入ってきてほしいです」
「任せて!」
そして体育館倉庫に入ると、いきなり十人の女子生徒に囲まれた。
動揺していると、女子生徒達は僕を体操マットに押し倒して、体を抑えて動けないようにしきた。
「輝久先輩♡」
「輝久君♡」
「私達といいことしましょうね♡」
「美波さーん!!」
こんなに早く美波さんを呼ぶことになるなんて‥‥‥。
美波さんが勢いよく扉を開くと、女子生徒達は僕を離して一斉に逃げていった。
「待てー!!」
美波さんもそれを追いかけて、何処かへ行ってしまった。
すると、体育館倉庫に親衛隊の男子生徒達が入ってきて、堂々と携帯を回収し始めた。
「ハプニングはあったが問題ない。一部でも写真になればこっちのものだ」
「君達はなんなんですか!?」
隊長らしき人が僕の髪を引っ張り、急に顔を殴られてしまった。
ジンジンする痛みのを感じても、僕は怖くてやり返せない。
「結菜様に近づくな!!」
そう言い残し、男子生徒達も帰っていった‥‥‥。
殴られて呆然としていると、美波さんが息を切らせて戻ってきた 。
「ごめん! 逃げられちゃった! なんなのあいつら」
「結菜さんの親衛隊の人達です。写真がどうとかって言ってました」
「ちょっと輝久!? その顔どうしたの!」
「後から入ってきた男子生徒に殴られました」
「とにかく保健室で顔冷やそう! ほんと許せない!」
※
保健室で氷の入った袋を貰い、その日は顔を冷やしながら帰ることになってしまった。
帰ってしばらくすると、腫れは引いてきたけど、痛々しく痣が残ってしまった。
明日、結菜さんに心配されちゃうな‥‥‥。
なんて説明しよう。
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