ベッドで......
翌日、いつものようにM組に行くと、教室内がぐちゃぐちゃに荒らされていて、結菜さん達が立ち尽くしていた。
「なにがあったんですか?」
一樹君が困った様子で僕に説明してくれた。
「学校に来たら、すでにこの状態だったんだ。誰が犯人かも分からない」
僕と結菜さんには心当たりがあった。
「結菜さん、ちょっといいですか?」
僕は結菜さんを男子トイレに連れて行き、二人だけで話を始めた。
「結菜さんはやったのはどっちだと思いますか?」
「昨日、私達が確認した中で最後にM組にいたのは愛梨さんだけど、多分、沙里さんだと思うわ」
「そうだよね。僕達に恨みがありそうな人って言ったら、沙里さんぐらいしか浮かばないもんね」
「はい、それにしても、ここで話すのは久しぶりですね」
「そうだね。もう男子は僕だけじゃないんだから、沙里さんを男子トイレに呼び出しちゃダメですよ?」
「それなら、先に一樹君を処分する必要がありますね」
「僕の友達なんだから、酷いことしないでね」
結菜さんは笑顔で答えた。
「ほどほどにします!」
結菜さんのほどほどって、息の根が止まらないギリギリとかな気がする‥‥‥。
僕達が教室に戻ると、芽衣さんが僕に話しかけてきた。
「輝久は誰がやったと思う?」
「え、えーっと、全然分かんないや」
「結菜は?」
「誰が犯人でもいいです。早く椅子と机を戻しましょう」
すると、美波さんがイライラした様子で机にバンッ!と両手をついた。
「なんで!? 悔しくないの!? 私達の教室がぐちゃぐちゃにされたんだよ!」
「これくらいのことをする犯人は、私達が普通に過ごすだけで、自分から名乗り出てきます」
「よ、よく分からないけど、結菜がそう言うなら分かった」
それから皆んなで、莉子先生が来る前に倒れた椅子や机を直して、何もなかったように過ごした。
※
全ての授業が終わり、帰りの会が終わると、莉子先生がM組を出てすぐに沙里さんがやって来たが、沙里さんは明らかに怒っている。
沙里さんが怒ると、一気に眠気が飛んだ感じが恐怖を更に感じる。
「なんで皆んな普通にしてるの!」
結菜さんが座ったまま沙里さんを見つめ、煽るように微笑んだ。
「いらっしゃい、犯人さん」
美波さんが驚いて立ち上がった。
「え! 沙里が犯人!? 本当に来た!?」
芽衣さんはイライラした様子で沙里さんに近づいて、沙里さんの目の前に立ち塞がった。
「なんであんなことしたわけ?」
「この教室があるから悪いの。邪魔な結菜を消すなんて簡単! M組の生徒なんて、M組がなければ学校にいられないんだし、退学だよ!」
芽衣さんが今にも手を出しそうな雰囲気の中、結菜さんが冷静に口を開く。
「芽衣さん、沙里さんから離れなさい。その子は何するか分からないわよ」
結菜さんに言われ、芽衣さんは素直に距離をとった。
そして結菜さんはなにを考えているのか、座ったまま本を開き、沙里さんに興味が無いようなそぶりを見せる。
すると沙里さんは、結菜さんを睨みながら、結菜さんの机の前にやってきた。
「なに本なんか読んでるの? 私が怖くないの?」
「怖くないわよ」
「これでも?」
沙里さんはカッターではなく、普通のナイフを取り出して、結菜さんが読んでいた本を突き刺した。
結菜さん以外の全員は、僕も含めて恐怖で声が出ないどころか、体も動かなかった‥‥‥。
それでも結菜さんは何故か冷静だ。
「これではページがめくれませんね」
そう言って結菜さんは、ナイフの刺さった本を勢いよく閉じて引っ張り、沙里さんからナイフを奪うと、本ごと床に投げ捨てた。
さすがに結菜さんの行動に驚きを隠せない。
「もしかしてそこまで計算してたの!?」
結菜さんは余裕の笑みで僕を見つめる。
「いいえ? 運が良かっただけです」
「どこまで私を馬鹿にする気!?」
「だってナイフですよ? 人が死んでしまいます。真菜さんだって、さすがにナイフは使いませんでした」
真菜さんは自分の机に両手をつき、前のめりになりがら言った。
「過去のこと言わないでよ!」
「あら、ごめんなさい。それより真菜さん、護身用でスタンガンは買い直しました?」
「う、うん、一様持ってるけど‥‥‥」
「貸してください」
「わかった」
真菜さんは結菜さんの手元にスタンガンを軽く投げ、結菜さんはスタンガンをキャッチすると、それを沙里さんに向けた。
「冷静に話す気はありますか?」
「なに? 脅し?」
「はい、脅しです」
「そんな脅しに屈しない!!」
沙里さんが床に落ちているナイフに手を伸ばそうとした時、結菜さんが沙里さんの脇腹にスタンガンを当てた。
沙里さんはすぐに気絶してしまい、床に倒れ込んでしまった。
「私が保健室に連れて行きます。皆さんは帰っていてください」
芽衣さんが心配そうに言った。
「結菜一人で大丈夫?」
「大丈夫です」
皆んなは心配と不安が入り混じりながらも大人しく帰ることにした。
***
結菜は沙里を保健室に運び、あることをしてベッド横の椅子に座って沙里の目覚めを待ち続けた。
しばらくすると沙里が目を覚まして、結菜の顔を見た瞬間、結菜に飛びかかろうとしたが、沙里の体が動かない。
「あ、あれ? なんで動かないの?」
結菜はベッドの上で身動きできない沙里に顔を近づけた。
「冷静に話せるように、ベッドに拘束させてもらいました」
「ふざけんな! 外せ!」
「あまり大きな声を出さない方がいいわよ。まだ部活をしている生徒が沢山いますから」
「別に私は困らなし、こんなことして、バレて困るのは結菜じゃん!」
「そうかしら?」
結菜は掛け布団に手を入れ、沙里の体を撫でるように上から下へと指でなぞる。
すると沙里は体をビクビクさせ、顔が真っ赤になってしまった。
「な、なんで私裸なの!?」
「反抗できないように脱がせちゃいました♡」
「はぁ!? こんなんで冷静に話せるわけないじゃん!!」
「それは残念です。それでは、掛け布団を剥いで私は帰ります」
結菜が勢いよく掛け布団を剥ぐと、沙里は慌てて言った。
「分かった! 話すから!」
結菜はまた掛け布団を掛け直し、ベッドの横にある椅子に座り直した。
「それでは、最初の質問です」
「な、なに」
「沙里さんはなんでツルツルなんですか?」
「今関係ないでしょ!! 誰かに言ったら本当に殺す!!」
「わー、怖い。私いま、裸でツルツルの少女に脅されてます〜」
「お前! 本当に!!」
「まぁ、冗談はここまでにしましょう。貴方は愛梨さんが私と仲良くしているのが気にくわないんですよね」
「うん、輝久の時も、今回も結菜が私の好きな人を奪う」
「輝久君のことはもう好きじゃないんですか?」
「今は愛梨が好き‥‥‥どうせ女が好きとかって馬鹿にしてるんでしょ」
「いいえ? 愛の形は人それぞれですから。誰かを好きになる勇気を持つことは素敵なことです」
「理解してくれるの?」
「もちろんです」
「そ、そうなんだ‥‥‥でも、結菜は私から愛梨を奪おうとした。許せない」
「恋愛と友情は違います。確かに自分の好きな人が、恋愛感情がないとはいえ、他の人と仲良くしてるのは嫌ですが」
「ならなんで愛梨と仲良くするの?」
「私は友達になることを断りました」
「え? なんで?」
「私が沙里さんの立場だったら絶対嫌ですし、勘違いした沙里さんが何かしでかすと分かっていたからです」
「全部お見通しだったんだね」
「はい。単純馬鹿の考えることなんて簡単ですから」
「はぁ!? 今なんて言った!!」
「私も好きな人が関わると、単純で馬鹿になってしまうので、よく分かるんです。とにかく、私は愛梨さんを拒みました。ですが恋愛と友情の区別をして、なおかつ愛梨さんの気持ちを理解して、友達になることぐらい許してあげたらどうですか? 私は輝久君一筋ですから、愛梨さんに友達以上の感情を抱くことはありませんし」
「でも‥‥‥絶交しちゃったし」
すると、泣き声混じりで愛梨の声が聞こえてきた。
「沙里‥‥‥ごめんなさい‥‥‥」
「愛梨!?」
「私が呼んでおきました。しっかり仲直りしなさい」
結菜がベッドから離れると、愛梨は沙里に泣きながら抱きついた。
「ごめんね‥‥‥絶交なんて言ってごめん‥‥‥」
「も、もういいよ! それより、絶対布団めくらないでね! 絶対ね!」
「え? 体調が悪いんですか?」
「う、うん、ちょっとね」
「それは大変です!」
結菜が沙里に話しかけた。
「今ので仲直りは済んだんですか?」
「う、うん! もう大丈夫!」
愛梨は涙を拭いて結菜を見つめる。
「結菜先輩、この場に呼んでくれてありがとうございます」
そう言われた結菜は、無言で愛梨に近づいた。
「結菜先輩? ん‥‥‥!?」
結菜は脱がせた沙里のパンツを愛梨の口に咥えさせてしまった。
「沙里さん、ちゃんと話してくれたご褒美です。貴方はこういうのが興奮するんですよね?」
沙里は愛梨を見つめて息遣いが荒くなり、結菜は掛け布団を取って帰っていっていった。
「愛梨さん、後はお願いします」
「結菜〜!!!!」
裸を見られて顔が真っ赤になる沙里、パンツを加えたままフリーズする愛梨。
保健室には妙な空気が流れていた。
しばらくして愛梨は、自分の口からパンツを取り、顔を赤くしながら沙里の体を見た。
「ツルツル‥‥‥」
「言うなー!! 私だって望んでツルツルなわけじゃないの!!」
「天然!?」
「言わないでー!! 早く解いて!!」
***
それからというもの、僕はなにがどうなったのか分からないが、愛梨さんと沙里さんは、休憩時間に二人でM組に来るようになり、無事に平和が戻ったが、結菜さんは迷惑そうだ。
そして、結菜さんには人を変える力がある。
そんな噂が学校中に広まり始めていた‥‥‥。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます