絶交


僕は、莉子先生に学校へ呼び出されて学校に来ていた。

そして職員室に入った瞬間‥‥‥


「輝久く〜ん!!」

「な、なんですか!?」


莉子先生が号泣しながら、僕の肩を掴んできたのだ。


「宮川さんと喧嘩しちゃった〜!! なんとかして〜!!」

「そ、それは結菜さんに言った方がいいんじゃないですか!? なんで僕!?」

「結菜さんだと、呼び出して相談したことが宮川さんにバレちゃう!!」

「わ、分かりました。なんで喧嘩したんですか?」

「カップラーメンは三分待つか、バリ硬麺で食べるかで言い合いになったの‥‥‥」

「莉子先生」

「なに?」

「僕帰ります」

「待って〜!!」


莉子先生が泣きつくのを無視して学校を出た時、結菜さんと見覚えの無い女子生徒が一緒に校門に向かって歩いてきた。

僕に気づいた結菜さんが、笑顔で駆け寄ってくる。


「輝久君じゃないですか!」

「春休み中なのに、こんなたまたまあるんですね! えっと、そちらの人は、はじめましてですね!」

「はじめまして、愛梨と申します」

「愛梨さん!? 髪型が違うから気づきませんでした! なんで二人が一緒に?」


僕が聞くと、結菜さんが答えた。


「ちょっと、学校の階段に用があるんです」

「学校の怪談!? 結菜さん、怖いの好きだっけ‥‥‥」

「なに言ってるんですか? それより、輝久君は何故学校に?」

「えっと‥‥‥」


結菜さんには言えないよな‥‥‥。


黙り込む僕を見て、結菜さんの表情が笑顔から恐ろしい表情に変わった。

僕の制服のネクタイを掴み、顔を近づけてくる。


「隠し事ですか?」

「いや、その‥‥‥」

「学校に入れば輝久君の隠し事が分かりそうですね。行きましょう」


結菜さんは僕のネクタイを引っ張って学校に入ったが、愛梨さんは、その状況に置いてけぼりになってしまった。


「んー、春休みですし、生徒はいませんね。いるとしたら先生ですよね。職員室に行きましょう」


終わりだー!

いや待て、僕は別にやましいことをしていたわけじゃない。気楽に行こう、気楽に。


職員室に入ると、莉子先生が椅子に座りながら脱力していた。


「莉子先生じゃないですか」


莉子先生は結菜さんの声を聞いて、焦って立ち上がる。


「結菜さん!?」

「なんでそんなに驚くんですか?」

「いや! なんでもないわよ?」

「そうですか。ところで、今この学校には莉子先生しかいないようですが、輝久君が何故この学校に来ていたのか知ってますか?」

「えっと、な、なんでだろうね」

「そうですか、二人で隠し事ですか。二人に、ありとあらゆる拷問をして吐かせるしかありませんね」


その言葉を聞いて、僕はあっさり莉子先生を裏切ることにした。

自分の命のために!!


「莉子先生の相談に乗ってました!!」

「相談ですか?」

「はい!! 宮川さんと喧嘩をしたそうです!!」

「ちょっと! 輝久君!」

「ごめんなさい莉子先生! 僕は莉子先生の未来より、僕の今が大切です!」

「裏切り者〜!」

「まぁまぁ、結菜さんに喧嘩した理由話してみたらどうですか?」

「結菜さん、相談したこと宮川さんに言わないって約束してくれる?」

「はい」

「あのね、カップラーメンは三分待つか、バリ硬麺で食べるかで言い合いになったのよ」

「私忙しいので」

「待ってよー!」


結菜さんは僕の手を引き、職員室を出た。


「喧嘩の内容がくだらなすぎましたね」

「うん、時間経てば勝手に仲直りするやつだと思う」

「そうですね、輝久君はこれから帰るんですか?」

「うん! 何もすることないし!」

「そうですか。それでは、次に会うのは始業式の日ですね」

「うん! 明後日だけどね!」

「それでも寂しいです。春休み中はほとんど会えていませんでしたから」

「結菜さん、忙しそうだったもんね」

「はい、いろいろやることがあって」


そこに愛梨さんが不満げに早歩きで向かってきた。


「いきなり行ってしまうなんて酷いですよ」

「ごめんなさいね、輝久君が隠し事するのが許せなかったので」

「もう話は終わりました?」

「はい、それでは行きましょうか」

「二人って友達になったの?」


愛梨さんが嬉しそうに笑みを浮かべて答えた。


「はい! お友達です!」


すると、結菜さんが無表情で言った。


「何を言ってるのかしら、友達ではないです」

「結菜先輩!? 春休み中、ずっと一緒に過ごしたのにですか?」

「はい、愛梨さんは私とお友達にならない方がいいわ」


愛梨さんはショックそうに俯いてしまった。

結菜さんはやっぱり冷たい時はとことんだな。


(結菜先輩、なんでそんなこと言うんでしょうか。もう友達になれたと思ったんですけど‥‥‥)

「そ、それじゃ、僕は帰りますね! また始業式に!」

「はい、気をつけて帰ってくださいね」



***



輝久は足早に帰り、結菜と愛梨は最後のおまじないを済ませて帰宅した。



***



春休みも終わり、今日は始業式。

僕達は遂に高校三年生になった。





全校生徒が体育館に集まり、校長先生の長い話をダラダラと聞き、その日はすぐに下校となった。


結菜さんと校門を出ると、校門の外に元生徒会長の悠人先輩が私服で立っていて、素直に驚いてしまった。


「君達も今日から三年生だね。おめでとう」


僕と結菜さんは口を揃えて言った。


「ありがとうございます」

「いろいろあったけど、まだお礼を言えてなかったからさ、結菜が俺を生徒会長に戻してくれたんだろ?」

「悠人先輩のためじゃありません。私が有意義な学校生活を送るためです」


悠人先輩は、結菜さんの強変りに思わず笑ってしまった。


「ハハハ! 理由はなんにせよ、本当にありがとう!二人とも、高校生活最後の一年、しっかり楽しむんだぞ。これからは君達が後輩を引っ張って行く番だ。頑張れよ!」


そう言って、悠人先輩は帰っていった。


そして明日は入学式だ。

どんな一年生が入ってくるのか、楽しみな気持ちと、少しの不安が混じっていた。





そして入学式当日。

無事に入学式で新入生を迎え入れ、僕達はM組に戻った。


莉子先生の機嫌もいいし、宮川さんとも、ちゃんと仲直りしたんだろう。単純な人だ。


そして何故かその日は、授業と授業の合間の休憩時間に、毎回愛梨さんが結菜さんに会いに来て、少し喋って本校舎に帰っていくのを繰り返していた。





放課後、僕と結菜さん以外が帰った頃、また愛梨さんがM組にやってきた。


「結菜先輩、これから暇ですか?」

「これから柚木さんのお見舞いに行きます」

「私もご一緒します!」


その時、不機嫌そうな表情を浮かべた沙里さんがM組に入ってきた。


「春休み中も全然遊んでくれないし、今日も休憩時間に会いに行っても何処にもいないし、愛梨さ、いつから結菜と仲良くなったの?」

「ごめんなさい、結菜先輩とお話ししていただけですよ?」


沙里さんは悔しそうに拳を握りしめた。


「私の愛梨を‥‥‥愛梨を‥‥‥」

「‥‥‥沙里?」


結菜さんは立ち上がり、カバンを持って小さな声で言った。


「だから私と友達にならない方がいいと言ったんです」

「どういうことですか?」

「状況を見て分からないですか? 輝久君、行きましょう」

「う、うん」


僕と結菜さんが教室を出ようとした時、すれ違いざまに沙里さんは、僕の手をカッターで切りつけた。


「痛っ!」

「どうしました!?」


結菜さんが心配して僕の手を見ると、沙里さんが狂気染みた表情で言った。


「私の愛梨なの。愛梨を私から奪おうとしたんだもん、結菜の大切な人も奪ってあげる」


結菜さんは僕の傷口を押さえながら、怒った表情で沙里さんを見下ろす。


「奪われる前に、貴方を消してあげます」

「できるの? 私を傷つけたら、ネットで言いふらすよ」

「まだそんな子供みたいなこと考えるのね」

「だって私子供だし!」

「都合のいいように子供になって、時には大人ぶる。気持ち悪いわね」

「うるさい!!」


沙里さんが僕に向かってカッターをふりあげた瞬間、愛梨さんは沙里さんの頬に、力強くビンタをした。


「‥‥‥愛梨?」


愛梨さんは涙目になりながら、頬を押さえて唖然とする沙里さんに言った。


「なんで沙里は平気で人を傷つけるの。もう‥‥‥絶交です」


沙里さんは目に涙を浮かべて、M組を走って出ていってしまった‥‥‥。


なんだこの空気‥‥‥。帰りたい。


「あの‥‥‥よかったんですか?」

「どうしましょう‥‥‥私、そんなつもりじゃなかったんです」


結菜さんが深い溜息をついた後、口を開いた。


「貴方は頭がいいのに、何故人間関係は不器用なんですか」


ん?結菜さんもだよ?

この空気だから言わないけど、結衣さんもだよ?


「とにかく、私は輝久君を保健室に連れて行きます」


愛梨さんはM組の床にうなだれながら泣いてしまったが、僕達は愛梨さんを置いて教室を出た。





僕は保健室で、結菜さんに絆創膏を貼ってもらい、その日はお見舞いには行かずに僕だけ真っ直ぐ家に帰ることにした。

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