口移しヨーグルト

目を覚ますと、僕は病室のベットの上だった。

周りには誰もいなく、時計を見ると夜の十時。


あの時たしか、車に轢かれて‥‥‥僕生きてる!!


事故の瞬間を思い出さして、ゾッとすると同時に、生きている喜びを噛み締めた。



***



輝久が病院で目を覚ました頃、真菜は美波の部屋で、美波に抱きつきながら泣いていた。


「好きな人が死ぬのは嫌だ‥‥‥怖いよ‥‥‥」

「輝久は死んでないでしょ?」

「うん‥‥‥でもね、輝久くんが死んじゃったって思った時、今まで私がしてきたことの罪悪感が襲ってきたの、いけないことをしたって、やっと気づいた‥‥‥」


美波は優しく真菜の頭を撫でながら、優しい声で言った。


「時間かかったね。偉いよ」

『にゃー』

「ほら、バニラも偉いって! いい子の真菜は、お父さんとお母さんにも謝れるね?」

「うん、今から謝る‥‥‥」


美波は真菜を連れて、両親が居るリビングへやってきた。


「二人とも、真菜が言いたいことあるって」


お父さんとお母さんは、真剣な顔で真菜を見つめる。

真菜は二人をゆっくり交互に見た後、深く頭をさげた 。


「パパ、ママ、長い間ずっと‥‥‥冷たくしたり強く当たったりしてごめんなさい」


お父さんは優しい声で、優しい表情をして言った。


「いいんだよ。俺はまた真菜と話せて、それだけで嬉しいぞ」

「そうよ、真菜は本当はすごい優しい子って分かっているわよ」


二人の優しい言葉に真菜はまた涙を流し、震える声を振り絞った。


「ありがとう‥‥‥」

「そうだ! 俺、そろそろボーナス入るかもしれないんだよ。久しぶりに家族で旅行でも行こうか!」

「いいわね! 行きましょうよ!」

「行こ行こ! ね? 真菜?」


真菜は涙を拭いて、満面の笑みを浮かべた。


「うん、行く!」


真菜は輝久の事故を目の当たりにして、大きく感情が動き、優しかった頃の心を取り戻すことができた。



***



僕が事故にあった翌日の放課後、結菜さんが一人でお見舞いに来てくれた。


「目を覚ましたんですね! よかったです!」

「うん! もう元気だよ! とくに骨折とか、脳にダメージとかもないみたいだから、明日には学校行けるよ! 登校はお昼ぐらいになりそうだけど」

「なら安心ですね。これ持ってきました」


結菜さんは、プリンとヨーグルトを買ってきてくれ、テーブルの上に置いてくれた。


「ありがとう! 病院食一日目にして嫌気がさしてたから、甘いの嬉しいです!」

「私が食べさせてあげます! プリンとヨーグルト、どっちがいいですか?」

「ひ、一人で食べれるよ!」

「こういう時ぐらい甘えてください」

「それじゃ‥‥‥ヨーグルトがいいです!」


結菜さんはヨーグルトを自分の口に入れて、まさかの舌を絡ませながら口移しをしてきた。


「んー!?」

「美味しいですか?♡」

「ビックリして味とか分からないですよ!」

「それじゃ、分かるまで続けましょう♡」

「ちょっと結菜さーん!?」


普通のディープキスより‥‥‥エロい‥‥‥。


「結菜さん、口の周りにヨーグルト付いてますよ。なんかエロいです」


そう教えてあげると、結菜さんはベットに座っている僕に跨ってきた。


「なにを想像したんですか?♡」

「い、いや! なんでもないです!」

「それじゃ早く綺麗にしてください♡」


僕がティッシュを取るために左を向くと、結菜さんは僕の顔を押さえて、無理矢理目を合わせた。


「輝久くんの舌で綺麗にしてください♡」

「下!? 下と言うのは、下ですか!?」

「はい♡ 舌で♡」


僕は唾を飲み、自分のベルトに手をかけた。

すると結菜さんは僕から降りて、顔を赤くして目を泳がせながらモジモジしてしまった。


「な、なに勘違いしてるんですか!? こんな場所では無理です!」

「え!? えーっと‥‥‥」

「私が言ったのはベロのことです!」

「あ、あ、あー! ごめんなさい!」

「もういいです」


結菜さんは恥ずかしがりながら、ティッシュで口元を拭いた。

結菜さんって、僕の方からグイグイいくと恥ずかしがるんだ。場所が病院だからかな?

なら、これが家だったら‥‥‥。


「クソ!! 車のアホ!!」

「いきなりどうしたんですか!?」

「なんでもないです!!」

「そ、そうですか」

「それより、真菜さんは大丈夫でしたか? 元気にしてました?」

「はい。人が変わったように、いい子になってました」

「そっか! よかったー‥‥‥わっ!!」


結菜さんは一瞬の間に僕の顔に、自分の顔を急接近させていた。

結菜さんのこの目‥‥‥完全に怒ってる‥‥‥。


「ねぇ輝久くん? せっかく私と二人っきりなのに、なんで真菜さんのことを考えるんですか? 真菜さんに会いたかったんですか? ねぇ、答えてくださいよ。ねぇねぇ」

「そ、そうじゃなくて! 猫死んじゃったのかなって‥‥‥だから真菜さんが大丈夫か心配になったんです」

「猫なら無事でしたよ。でも輝久くん? 他の女の子が元気かどうかなんて気にしないでください。輝久くんが気にしていいのは、私がなにをしているかとか、私と会いたいとか、そういうことだけでいいんです。だって、私は一日中輝久くんのこと考えているんですよ? 輝久くんも私だけを考えてください。分かりましたか?」

「わ、分かりました」

「いい子です♡ それじゃ、明日学校でお待ちしてます♡」

「う、うん、また明日ね!」


結菜さんは機嫌を直して、スキップしながら帰っていった。

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