努力

僕達はゲームセンターのメダルコーナーにやってきた。


「真菜さん、ルールの話しですが、メダル百枚から何枚まで増やせるかでいいですか? 最終的に多かった方が勝ちです」


「いいよ。制限時間はどっちかがゼロ枚になるか三十分経つかにしよ」

「分かりました。それと、約束してください」

「なに?」

「私が勝ったら、もう輝久くんに近づかない。もう酷いことをしないと約束してください」

「それじゃ、結菜ちゃんも約束して。私が勝ったら、私は輝久くんのご主人様として、輝久くんに何をしてもいい、何を命令してもいい」

「分かりました。さぁ、始めましょう」


真菜さんはメダルを持ちながら、子供向けのメダルゲーム機の前に座った。


子供達に混ざって、女子高生が必死にゲームをしている光景を見て、子供達は若干引いている。


「結菜さんも急がないと負けちゃいますよ」

「私は大丈夫です」


結菜さんは、自販機の横の椅子に座ってしまった。

結菜さんは何考えてるんだろうか。

このままじゃ本当に負けちゃうよ。


一樹くんと芽衣さんと美波さんは、戦いが終わるまでダーツをして遊ぶと言って、メダルコーナーから離れてしまった。



***


真菜は百枚から百三十枚にメダルを増やし、ビンゴゲームで一攫千金を狙っていたが、一気に三十枚ベットして大外れをかましてましい、降り出しの百枚枚に戻ってしまった。


「くそー! せっかく増やしたのに! こうなったら‥‥‥」


次に真菜は、そのままビンゴゲーム、全てのメダル、百枚をベットした。


「‥‥‥やったー!」


三百九十八枚メダルをゲットしたその時、ビンゴゲームから派手な音楽が鳴り始め、ビンゴゲームの機械が喋り出した。


『三番席、jackpotチャンス! 金色のボールがjackpotに入れば、メダル三千枚ゲット! jackpotチャレンジ、スタート!!』



***



「結菜さん!! 本当に負けちゃいます! 三千枚とかゲットされたら勝てないですよ!」

『おめでとうございます!! jackpotチャレンジ成功!!』

「ほら! 当たっちゃいましたよ!? 結菜さん!?」

「大丈夫です。あと十五分もあります。私は勝てない勝負はしないので」


真奈さんが一人で喜んでるのを見ているのに、なんなんだこの余裕。

何か秘策があるのか?

ペットは嫌だけど、結菜さんに勝ってもらわなきゃ困る。





そして残り時間五分になった時、メダルを百枚しか持っていない結菜さんがやっと動き出した。


結菜さん、残り五分で一発逆転狙う気なんだ。

なにかに百枚一気に賭けるつもりだ。


すると結菜さんは、メダルコーナーのカウンターに行ってしまった。


「結菜さん! 残り四分もないです! 今からゲームのやり方聞く気ですか!?」


次の瞬間、結菜さんは財布からお札を取り出した。


「店員さん、メダルを十万円分くださるかしら」


僕も驚いたが、店員さんは驚いて、どうしたらいいか分からなくなっている。


「じゅ、十万ですか!?」

「はい、三分間待ってやる」


あれ?

今、結菜さんがサングラスして銃を持ってるように見えた‥‥‥って、そうじゃなくて!


「結菜さん! そんなやり方大丈夫なんですか!?」

「大丈夫です」


すると、数人の店員さんが大慌てでメダルを運んできた。


「お待たせしました! 四万五千枚です!」

「意外と少ないんですね。ありがとうございます」


メダルは、千枚入るカゴが何個も重ねられて、大きなカートに乗ってきた。


金の暴力は存在するんだ。

金持ちを敵に回すと怖い。


遂に制限時間がきて、真菜さんが上機嫌で僕達の所にやってきた。


「私は三千九百八枚になったよ! あれー? 結菜ちゃんのメダル少なくない?」


真菜さんは、結菜さんが持っている百枚入りのカップを覗き込んだ。


「そうですね、意外と少なかったです。私は四万五千百枚です」

「なに言ってるの?」

「見えないんですか? 私の後ろにあるじゃないですか」

「ど、どうやってこんなに増やしたの!?」

「メダルを購入しました」

「反則だよ!!」

「何故ですか? 私は、何枚増やせるかとしか言ってません。そのルールに納得したのは真菜さんでしょ? 私の勝ちです」

「そんな‥‥‥」


勝負に勝った結菜さんは、誇らしげに僕のリードを掴んだ。


「輝久くん」

「はい?」

「お座り」

「で、できませんよ! こんな場所で!」

「躾けるには餌が必要って言いますもんね。これからゆっくり調教してあげますね♡」

「やめてください!!」


その時、ダーツをしていた三人が帰ってきた。

芽衣さんは、リードを持つ結菜さんを見て確信したのか、笑顔で言った。


「結菜が勝ったんだ!」

「おかげさまで」

「真菜、ちゃんと約束守りなね? みんなが約束を聞いてたんだから」


美波さんに言われた真菜さんは、悔しそうに答える。


「分かってる‥‥‥」


分かってもらえて良かったが、真菜さんは泣き出してしまい、それを見た結菜さんはメダルを預けて、一度外に出ることにした。


「中はうるさいですから、外で話しましょう」


さっき揉め事があった路地裏にやってきて、結菜さんは、泣いている真菜さんを見て呆れた様子で言った。


「まだ泣いているんですか?」

「だって、もう輝久くんと関わることできなくなるんだよ?」

「努力せずして得れるものなんて、大したことありません。貴方は努力ではなく、恐怖で何かを手に入れようとしました。そんなもの、相手が恐怖に慣れたら逃げられてしまいますよ」

「私、努力とか向かないし、でもそれなりに頑張ったつもり」

「努力している中で、もうシンドイとか、こんなに頑張っているのに、まだ頑張らなきゃいけないの? とか、ずっとネチネチ言う人がいます。そんな人、何かを得るに値しないんです。夢を叶える資格がないんですよ。夢を叶えられる人は、そう思ってもすぐに、でも頑張ろうと気持ちを切り替えられる人です。真菜さんはどっちでもないです」

「何が言いたいの?」

「貴方は努力すら始めていないんですよ。努力しないで何かを得ようとする人間は、少しでも納得のいかないことがあると、すぐに人を攻撃します。私はこんなに頑張ってるのに、なんで分かってくれないの? って、全部人のせい、努力してるつもりになってる人が私は大っ嫌いです」

「少しは努力したってば!!」

「努力は人に認められてからやっと、自分は努力したと、自分を認めることができるものです」

「それじゃ、これからまずは‥‥‥輝久くんとちゃんと友達になる努力する‥‥‥今は嫌われてるみたいだし‥‥‥」

「結構なことです」

「え? 関わるなって言ったのに、いいの?」

「はい、真っ当な努力なら邪魔しません。ただし、私の前以外で輝久くんに喋りかけないこと、これは約束ではなく、私の願望なので、頭に入れておいてください。もしも二人きりで話してるのを見つけたら‥‥‥真菜さんか輝久くん、どっちかの口を縫います!」

「な、なんで僕も!?」

「だから輝久くんも頭に入れておいてください。私の前以外で女性と話してはいけません」

「は、はい、とりあえず首輪外していいですか?」

「ダメですよ!」


だと思ったが、僕には作戦があった。


「こんな恥ずかしいの、結菜さん以外に見せたくないです」


すると、結菜さんはすぐに首輪を外してくれた。

結菜さんは結構ちょろいのだ。


そして美波さんは、更生の一歩を踏み出した真菜さんの頭を撫でながら、優しい口調で話しかけ始めた。


「真菜? 約束守るんだよ? もう酷いことはしないって」

「うん‥‥‥」

「それじゃ、今までのこと謝ろうか」

「‥‥‥ごめんね、お姉ちゃん」

「わ、私はもういいんだよ」

「一樹くんも巻き込んでごめんなさい」

「うん! もう気にしないで!」


パンパンに顔が腫れてるのに、一輝くんは優しいな。


「芽衣ちゃんもごめんなさい」

「ま、まぁ、私に関しては直接なにかされたわけじゃないから大丈夫だよ」

「‥‥‥輝久くん‥‥‥無理矢理嫌なことしてごめんなさい」

「もうしないなら全然許しますよ!」

「それと結菜ちゃん‥‥‥沢山酷いことしてごめんなさい‥‥‥これからは友達に‥‥‥」

「嫌です」


まさかの即答に、全員が結菜さんを見て声を揃えて言った。


『え?』


芽衣さんは気を使って、真菜さんを励まそうと、ぎこちない笑顔で話しかけた。


「まぁまぁ、私も最初は友達じゃないって言われてたからさ!」

「え? 芽衣さんは今も友達じゃ」

「やめてー!!」


なんだかんだで、僕達は無事和解して、路地裏を抜けた時、歩道に白黒の猫がいるのを見つけた。

その猫を見た美波さんと真菜さんは、驚いたように声を揃えた。


『バニラ!?』


真菜さんはいきなり慌て始め、軽くパニック気味になっている。


「首輪も黄色だしバニラだよ! 家から脱走したんだ! 捕まえなきゃ!」


僕達も、猫をを追いかける真菜さんを必死に追いかけた。


僕はこのままじゃ危険だと思って、走りながら真菜さんに聞こえる声で呼びかける。


「真菜さん! この辺車通りの多いので危ないですよ!」

「だから早く捕まえないと!!」


その時、猫が道路に飛び出してしまった。

猫につられて、真菜さんも道路に飛び出そうとした時、僕は咄嗟に真菜さんの制服を後ろに引っ張った。



***


輝久は猫を守るような形で、車に轢かれてしまった。


真菜はバニラを抱き抱え、輝久を見ると、輝久の頭から血が流れていた。

目の前で轢かれ、コンクリートに流れる血の色。

その光景を見て、あの日のことがフラッシュバックしてしまい、激しく呼吸が乱れ始めた。


「真菜! 大丈夫だから!」

「輝久くんが‥‥‥死んじゃった‥‥‥」

「死んでない! 大丈夫だから、深呼吸して!」


一樹と芽衣は輝久に駆け寄り、声をかけ続けた。

車の運転手は、車から降りて救急車を呼んでいる。


結菜は、なにもすることができずに、目の前の光景に唖然としていた。


「輝久くん‥‥‥?」



***

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