舐めなさい

元気になったかどうかは分からないけど、次の日も結菜さんはちゃんと学校に登校してきた。


そして莉子先生は、何故かいつもより嬉しそうに教室に入ってきた。


「今日はこのM組に、新しいお友達が増えます! はい、入って自己紹介して!」


え?新しい生徒?

お友達って言われても、問題起こした人しか来ないし、変な緊張感あるな。


「どうも、一樹です。よろしくお願います」

「一樹くん!?」


一樹くんは、この学校で僕の唯一の男友達!

僕はビックリして立ち上がった。


「輝久くん!」

「なんで一樹君がM組に!?」

「輝久くんと同じ理由だよ。M組に通うことは夏休み前に決まってたんだけど、昨日は学校休んじゃって」

「そうなんだ!」


嬉しい、嬉しすぎる!

このM組に僕以外の男子生徒が!

しかも気楽に話せる一樹くん!

それに一樹くんは、いじめられてたとはいえ、そこそこ顔はいい方だと思う。

いじめられてるっていう事実があるから、周りに女の子が近づかなかっただけだと思う‥‥‥多分。


「二人とも友達なんだね! それじゃ輝久くんの隣!と言いたいところだけど、結菜さんがいるから、芽衣さんの隣でいいかな!」

「えー、輝久に変な勘違いされたくないし、嫌ですー」

「変な勘違い?」


一樹君が困った顔で、自分で席を決め始めた。


「だ、大丈夫ですよどこでも。俺はここに座りますね」


一樹くんが選んだのは、僕の後ろの席だった。

「輝久くん、久しぶりに今日の放課後にゲーセン行かない?」

「え!? 行く行く!」


本当に久しぶりだ、楽しみすぎる。


その時、結菜さんは少し不満そうに話しかけてきた。


「私も行きたいです」

「あぁ‥‥‥男同士で遊ぶの久しぶりだから、今日はごめん」

「そうですか‥‥‥分かりました」


それを見て、芽衣さんが結菜さんに声をかけた。


「それじゃ、私と美波と結菜の三人で行こうよ!」

「別にいいですけど」

「輝久もそれなら文句ないでしょ? 邪魔しないからさ!」

「は、はい」

「はいはい、みんな暗くなる前にお家に帰りなさいよ? それじゃ授業をはじめまーす!」





時間は経ち放課後。

五人でゲームセンターにやってきたが、約束通り男女別行動になった。


「輝久くん! 久しぶりに勝負しようか!」

「最初っからそのつもりだ!」


僕達は久しぶりの格闘ゲームに夢中になった。

勝敗は五戦中、二対三で一樹くんの勝ちだ。


「あー、悔しー! やっぱり一樹くんは強いなー!」

「それより輝久くん!」

「なに?」

「隣の席の子と付き合ってるの?」

「う、うん!」

「へー! あんな綺麗な子と! 羨ましいなー、僕は断然芽衣さん派だけど!」

「芽衣さん!? なんで!! 隣の席断られてたじゃん!」

「俺、ああいう風にハッキリ気持ち言える人が好きなんだ!」

「M組の女子、ハッキリ言う人ばっかりだよ? 怖いぐらいに」

「そうなの!?」

「うん、恋愛となると大変なこともいっぱいあるよ‥‥‥ま、まぁ、芽衣さんと一樹くん、応援するよ!」

「ありがとう!」

「輝久くん! 私も来ちゃいました♡」


後ろから真菜さんの声が聞こえて振り向くと、そこには真菜さんと拓海くんと、拓海くんの友達五人が立っていた。


拓海くんは、僕と一樹君の間に顔を入れて、肩に手を回した。


「俺達と遊ぼうぜ」

「い、いや、今日は一樹くんと二人で‥‥‥」

「お前ら、連れていくぞ」


僕と一樹くんは、ゲームセンターの近くの路地裏に連れていかれて、コンクリートの上に正座させられた。


そして真菜さんは、怯える一樹くんの太ももを踏みながら、一樹くんを見下ろした。


「一樹くんだったかな? 君も私のペットにしてあげる。ほら、早く脱いでください」

「ぬ、脱ぐ!? 無理ですよ!」


すると真菜さんは、無言で一樹くんから離れ、拓海くんは、一樹くんのお腹を殴ったり体を蹴ったりを繰り返した。


「うっ!!」

「バレたらめんどくさいから、顔はやめなねー」

「分かってるよ」

「や、やめてください! 一樹くんが可哀想です!」


拓海君くんは一樹くんの胸ぐらを掴みながら、僕を見下ろした。

次は僕だと覚悟はしたが、体の震えが止まらない。


「安心しろよ、輝久には手を出すなって真菜に言われてるからよ」


すると真菜さんが僕に近づいて、リード付きの首輪をつけてきた。


「そうだよ輝久くん♡ 輝久くんの苦しい顔を見ていいのは私だけなの♡ その怯えた表情‥‥‥すごい興奮するよ♡」

「もうやめてください! 僕は結菜さんが好きなんです!」

「うん、もう輝久くんの彼女になる気はないよ? だからリードつけてあげたの♡」


真菜さんはその場で右足の靴と靴下を脱いで、僕の顔に近づけてきた。


「舐めなさい♡」

「な、なに言ってるんですか‥‥‥」

「ご主人様の言ってることが分からないの? 早く舐めなさい」

「無理です‥‥‥」


真菜さんは足を下ろして、拓海くんのことを睨みつけた。


「一樹くんのこともっと痛めつけちゃってよ。ほら、皆んなもだよ」

「やめてください! 一樹くんは関係ないじゃないですか!」

「だったら輝久くん、ご主人様の命令は聞かなきゃ、ね?」


真菜さんはまた足を近づけてくる。


「ほら♡ 舐めなさい♡ 早くしないと、一樹くん‥‥‥死んじゃうかも♡」


舐めるしかないのか‥‥‥

でもやっぱり‥‥‥


「嫌だ!!!!」


僕が真菜さんの体を突き飛ばすと、真菜さんは思いっきり尻餅をついてしまった。

あっ、白、そんな場合じゃない!!

僕は弱々しく拓海くんに殴りかかろうと、拳を振り上げた。


「一樹くんから離れろ!!」


やばい、足が痺れて‥‥‥。


僕は転ぶ瞬間、拓海くんの友達に体を掴まれて動けなくなってしまった。

その時、結菜さん達が息を切らせて走ってきた。


「輝久くん!!」


すると美波さんが、昨日見せた空手技で、拓海くん達を簡単に追い払ってしまった。

そして美波さんは真菜さんに近づき、真菜さんの頬に力強くビンタをした。


「真菜!! なんで分からないの? やっていいことと、ダメなことがあるでしょ!」

「私は輝久くんを私の彼氏にするつもりはないの。輝久くんはペット! それなら浮気じゃないし、結菜ちゃんも文句ないでしょ?」


結菜さんは無表情のまま、僕のリードを左手で引っ張り、真菜さんの頬に優しく右手を当てた。


「彼氏じゃなければいい? 笑わせないでください。それでも輝久くんをペット扱いするなら、私と真菜さん、どっちがご主人様に相応しいか勝負しましょう」

「勝負?」

「えぇ、せっかくゲームセンターがあるのですから、ゲームセンター内で決めましょう」

「はぁ? 私ゲームなんてしたことないし」

「大丈夫です。私もしたことありませんから。それとも、負けるのが怖いんですか? 可愛いですね」

「いいよ、やってやる!」

「あ、あの結菜さん? せめてリードだけでも外してくれませんか? 恥ずかしいです」

「なに言ってるんですか輝久くん。私が勝負に勝ったら、恋人でありながら、ご主人様とペットという関係になるんですよ? これから一生着けておく物です。今のうちに慣れてください」

「なんでそうなるんだー!!」


芽衣さんは一樹くんに駆け寄って、手を差し伸べた。


「一樹だっけ? 立てる?」

「ありがとう、優しいね」

「えっ‥‥‥黙れ」

「えぇ!?」


芽衣さんは一瞬顔が赤くなったが、すぐに我に返ったようだった。


僕は、なんでここが分かったか気になり、ゲームセンターに戻る前に聞いてみることにした。


「結菜さん、なんでこここが分かったんですか?」

「芽衣さんが、輝久くん達が連れていかれるところを見たって言ったので、場所までは分からなかったので遅れてしまいましたが」

「そうだったんだ」


なにより、ひとまず助かった。


そして、全員でゲームセンターに戻り、僕のご主人様を決める勝負が始まろうとしていた。


そう、僕は必ずどっちかのペットになってしまう‥‥‥何故だ。

マジで何故だ。

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