クズ
夏休みも終わり、今日から新学期だ。
教室に行くと、結菜さんと真菜さんの二人が居なく、少しだけ嫌な予感がした。
***
二人は男子トイレで話していた?
「真菜さん、お返ししたいものがあります」
結菜は、前に着けられた首輪を真菜の首に着け、淑やかな眼差しで真菜を見つめる。
「バカにしてるの?」
「なんでですか? 大人しく着けられたのは真菜さんですよ?」
真菜はポケットからスタンガンを取り出したが、三度目の結菜はさすがに引っ掛からず、スタンガンをもつ真菜の腕を力強く掴んだ。
「もうその方法は見切ってます」
真菜は腕を掴まれたまま、怒りのまま結菜を睨みつける。
「いいの? 結菜ちゃんの恥ずかしい写真、学校中にばら撒くよ」
結菜は何も言えなくなって、真菜の手を離してしまう。
すると真菜は、結菜を睨みながらニヤニヤしだし、何もできない結菜を煽り始めた。
「あれー? どうしちゃったんですか? 結菜ちゃんも女の子だもんねー? さすがに嫌だよねー? それより、見てよ」
真菜は、携帯画面を結菜に見せつける。
「なんですかこれ!」
結菜の下着が見えている写真に、見知らぬ男性を合成し、まるで浮気中のような写真になっていた。
背景も普通の部屋の床のようになっていて、本物のようなクオリティーだ。
「上手にできてるでしょ? この写真、輝久くんに送っちゃおうかなー」
「なんでそんなことするんですか」
真菜は結菜に顔を近づけ、恐ろしい表情で結菜を睨みつけた。
「邪魔だからに決まってるじゃん。輝久くんに近づく結菜ちゃんが邪魔なの」
「輝久くんは私を好きだと言ってくれました。輝久くんは私の彼氏です」
「へー、これからどうなるか楽しみだね」
真菜は首輪を外してトイレを出て行ってしまった。
しばらくして結菜も教室へ戻った。
***
全員席に座り、莉子先生を待っていると、莉子先生が浮かれ気分で教室に入ってきた。
「夏休み明けて、また皆んなと会えて先生は嬉しいなー!」
先生、絶対宮川さんと進展あったなこれ。
「先生、なんかテンション高いですね」
「まぁ、私にもついに春が来たのよ!」
「宮川さんですか?」
莉子先生は顔を赤くして、黒板の方を向いてしまった。
「は、はーい、授業始めますよー」
宮川さんでビンゴだ。
莉子先生も幸せそうでなによりだけど、こんなに分かりやすいと苦労しそうだな。
※
全ての授業が終わり、柚木さんは誰とも喋らずに足早に帰っていった。
夏休み中の様子は分からないけど、あの合宿あたりから孤立している気がする。
一方で真菜さんは、帰りの準備をしている結菜さんに声をかける。
「結菜ちゃん、この後時間ある?」
「輝久くんと帰るのでありません」
「そんなこと言わないでさ、私、今までのこと全部謝ろうと思ってるんだ」
「それなら許しますので大丈夫ですよ」
「それじゃ私が納得いかないの! お願い、あんまり人前で謝るのは恥ずかしいからさ、この後、体育館倉庫来てよ。結菜ちゃんが来るまでずっと待ってます」
「分かりました、話を聞いたらすぐに帰ります」
「本当!? ありがとう!」
真菜さんは教室を出ていき、ふと美波さんを見ると、なんだか表情が暗い気がした。
そんな美波さんを見てか、芽衣さんは美波さんの背中を軽く叩いて言った。
「じゃ、今日は二人で帰ろ!」
「う、うん‥‥‥」
二人は一緒に教室を出ていき、結菜さんは帰る準備を終わらせて、僕の手を両手で握った。
「一緒に帰りたいです。校門で待っていてくれますか?」
「もちろん!」
「ありがとうございます!」
僕は校門前で結菜さんを待ちながら、ゆっくりと流れる雲を眺めて時間を潰した。
***
芽衣と美波が一緒に帰っている途中、美波はいきなり立ち止まり、しゃがみ込んで泣き出してしまった。
「どうしたの!?」
「ごめんなさい」
「だからどうしたの!?」
「真菜に脅されて、全部話しちゃったの‥‥‥」
「なにを?」
「結菜の過去とか全部‥‥‥今頃結菜‥‥‥」
芽衣は慌てて美波の両肩を掴んで、美波と目を合わせた。
「今頃なに! ハッキリ言って!」
「酷い目に合ってるかもしれない‥‥‥」
「バカ!! 行くよ!!」
芽衣は美波の腕を引っ張り、全力で来た道を走り、学校を目指した。
その頃、結菜は、ちょうど体育館倉庫に入ったところだった。
「真菜さん? いないんですか?」
すると、跳び箱などの陰から、拓海を含めた男六人の男子生徒が姿を現す。
「なんなんですか貴方達」
拓海は結菜の顔を見て、ニタニタと笑いながら言った。
「俺の首を絞めたの、お前だったんだな。見た目変わりすぎて気づかなかったぜ」
拓海がそう言うと、体育館倉庫に真菜が入ってきた。
「真菜さん、これはどういうことですか」
「あー、男を忘れるには男って言うじゃん? 気持ちよくなって忘れさせてもらいなよ。拓海君への過去の謝罪も込めてさ」
「なにをされたって、輝久くんのことを忘れるなんてありえません」
「そーかもね。でも輝久くんはどうかな? 他の男に汚された女なんて、いらないんじゃない?」
拓海がはワクワクした様子で真菜に言った。
「真菜も悪い女だな。そろそろ始めていいか?」
「いいよ。結菜ちゃん、ちゃんといい顔するんだよ? 全部動画撮ってあげるから」
結菜は俯いて、震えた声で言った。
「‥‥‥クズが‥‥‥」
「どうしたの? そんな声震わせて、怒ってるの? それとも怖いの? ビビりすぎてお漏らししないでねー。まぁ、したらしたで面白い動画撮れるからいいけど」
拓海は力強く結菜を運動マットに押し倒してしまった。
「お楽しみの前によ、お前のことボコボコにしてんねーと気が済まねんだよ」
「女性に手を出すなんて、野蛮人ね」
「いつまで強気でいれるか楽しみだな」
拓海は結菜の首を絞めたり離したりを繰り返し、真菜は結菜が苦しむ姿をそれを動画を撮っている。
「結菜ちゃん、その苦しそうな顔最高だよ!」
周りの男五人も、目の前の光景に盛り上がっている。
「やれやれー!」
「くっ‥‥‥(苦しい‥‥‥誰か来て‥‥‥輝久くん‥‥‥助けて‥‥‥」
真菜は結菜の髪を掴み、冷たい声で言った。
「助けなんてこないよ。ちゃんと見張り役もいるから、とりあえずキスシーンの撮影しまーす!」
「やめ‥‥‥て‥‥‥」
***
校門の前で結菜さんを待っていると、芽衣さんと美波さんが大慌てで走ってきた。
「どうしたんですか? 美波さんはなんで泣いてるの!?」
芽衣さんは息を切らせて焦っている。
「話は後! 結菜が危ない! 体育館倉庫に急いで!!」
「え!? わ、わかりました!」
芽衣さんは、疲れて呼吸が乱れている美波さんの腕を引っ張った。
「ほら! 私達も行くよ!!」
急いで体育館にやってくると、体育館の前に五人の男子生徒が立っていて、僕を止めた。
「お、輝久じゃん。今ここは入れないぞ」
「体育館倉庫に用があるんです! どいてください!」
「なんだよお前、なんか生意気になったな」
一人の男子生徒が僕の顔を殴り、唇が切れて血が出てしまった。
それを見た美波さんはピタッと涙が止まり、冷静さを取り戻し、俯いたまま男子生徒に言った。
「今‥‥‥なにした」
「はぁ? 見たらわかるだろ、殴ったんだよ」
「拳はそうやって使うものじゃない。正しい使い方‥‥‥教えてあげるよ」
「女が男に勝てるわけねーだろ。しかもこっちは五人だぞ?」
美波さん、なにしようとしてるんだろ‥‥‥。
このままじゃ二人が危険だ。
「二人は逃げてください! 僕がなんとかします!」
「押忍!!」
「え? 美波さん?」
「五人でかかってきな。空手黒帯の実力、見せてやる!!」
黒帯!?
美波さんが!?
男子生徒はイライラして、美波さんに襲いかかった。
「ふざけんな! 女だからって容赦しねーからな!」
「シュ、シュ、シュ、ハイ!!」
「えぇー!?」
美波さんは凄いキレのある動きで、男子生徒五人を軽々倒してしまった。
唖然としていると、芽衣さんが、尻餅をついてる僕に手を差し伸べた。
「大丈夫?」
「大丈夫です。それより倉庫に急ぎましょう!」
体育館に入り、奥にある体育館倉庫の扉を開けると、泣きながら暴れている結菜さんを、拓海くん達が押さえつけていた。
「結菜さんを離せ!」
「輝久か、久しぶりだな」
拓海くんが結菜さんを離して、僕に近づいてくる。
その時、芽衣さんが結菜さんに駆け寄った。
「結菜! 大丈夫?」
芽衣さんが結菜の体を起こして、体育館倉庫を飛び出した。
ありがとう芽衣さん。
拓海くんが僕を殴ろうとした時、真菜さんが拓海くんを止めた。
「輝久くんには手を出さないで」
「これからって時に結菜に逃げられたんだ。一発殴らねーと気がすまねー」
真菜さんは、拓海くんの背中にスタンガンを当てると、拓海くんは一瞬で倒れてしまい、周りの男子生徒はビビって、拓海くんを置いて逃げてしまった。
すると、真菜さんは倒れた拓海くんの背中を強く踏みつけた。
「ほんと使えない男」
「なんでこんなことするの? もうやめよ? お父さんだって、真菜が変わるようにってバニラを買ってくれたんだよ」
「バニラは大切。でもやっぱり、今更変われないよ」
真菜さんは、僕のことが好きだからこんなことするんだ‥‥‥。
なら、僕が真菜さんに嫌われれば‥‥‥。
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