1日遅れの誕生日会

結菜さんの誕生日会当日のお昼、僕は大事なことを思い出した。


そういえば、結菜さんが先に帰ってきちゃったら、プレゼント見られちゃうな。

宮川さんに連絡しておこう。


「もしもし輝久です」

「輝久さん! どうしたんですか?」

「結菜さんの家に、プレゼント置きっ放しなんですけど、隠しててもらえませんか? できれば芽衣さんのプレゼントも」

「任せてください! それじゃお待ちしてますね!」

「はい!」


さて、結菜さんの家に行くまで、まだ時間があるし、ケーキ屋さんでも行こう。


張り切ってケーキ屋さんに来たはいいものの、結菜さんが苦手な物とか好きな物が全然分からない。


まぁ、ケーキならなんでも食べれるかと思い、お金もないし、ショートケーキを一つだけ買っていくことにした。


ケーキを買った後は一度自分の家に帰り、時間までゆっくり過ごして、午後六時に結菜さんの家に着くように家を出た。



***



芽衣と美波は、輝久より一足早く結菜の家に来ていた。

三人は結菜の部屋で、コンビニのアイスを食べて、完全にリラックスしている。


その中でも美波は、床に寝そべりながらアイスを食べていた。


「美味い〜、床が冷たくて気持ちいい〜」

「美波さん、行儀悪いですよ」

「結菜こそ、自分の家でくらいリラックスしなよー」

「いつもリラックスしてますよ?」


結菜は正座しながら行儀良く食べている。

芽衣は、結菜のベッドに寝そべりながら食べていて、結果的に結菜が一番リラックスしていないような光景になっていた。


「芽衣さんはベッドから降りてください。ベッドが汚れてしまいます」

「え〜、このベッドふかふかで最高なんだもん。このベッド何円ぐらい?」

「二百万円ぐらいですよ」


それを聞いた芽衣は、素早くベッドを降りて正座してアイスを食べ始めた。


(あっぶない。私ベッド汚してないよね? 弁償とか言われたら死ぬ)


その頃、やっと結菜の家に輝久が着き、宮川にケーキを預けて、結菜の部屋に向かっていた。



***



「結菜さん! 輝久です!」


結菜さんは勢いよくドアを開けて、僕を部屋に引っ張った。


「いきなりどうしたんですか!」


結菜さんは僕の手を握ったまま、可愛らしい笑顔を見せた。


「好きです!」


可愛い!!


「僕も好きです! でも結菜さん、芽衣さんと美波さんが死んだ魚みたいな目で僕達を見てます」


結菜さんは二人の方を振り向いて、まさかの発言をした。


「あれ? 二人とも居たんですか?」

『さっきまで普通に話してたよね!!』


同時にツッコむ二人を見て、仲良し感が滲み出ていることに、すごく心がほっこりした。


そういえば、病院での検査は大丈夫だったのかな。


「検査はどうだったんですか?」

「全然問題ありませんでした!」

「ならよかったです!」


僕達は宮川さんに呼ばれるまで、結菜さんの部屋で話をして時間を潰した。





一時間半ぐらい話をしていると、宮川さんが僕達を呼びにやってきた。


「皆さん! 茶の間に集まってください!」


ワクワクしながら茶の間に行くと、結菜さんの家に泊まった時同様、宴会みたいな雰囲気になっていた。


あの時と違うのは、風船が浮いていたり、色紙のリングチェーンなどで部屋が彩られていることだ。


一番奥に四人で横一列に座ると、次の瞬間いきなり部屋が真っ暗になった。

すると、結菜さんにスポットライトが当てられ、スピーカーを通した宮川さんの声が聞こえてきた。


「結菜お嬢様が生まれて、今日で十七年になります! いや、昨日で十七年ですね! それを記念して、私達からプレゼントがあります!」


その暗闇の中、誰かが僕の後ろに、僕が用意したプレゼントとケーキを、結菜さんにバレないように置いてくれた。


そして部屋が明るくなると、目の前に等身大の牛の形をしたケーキが現れ、結菜さんは嬉しそうに立ち上がった。


「わー! 凄いです!」


確かに凄い、凄いんだけど‥‥‥どこにローソク刺してんの!?

十七本のローソクは、牛のお尻に刺されていた。

そのローソクに火をつけると、また部屋が暗くなり、皆んなでハッピーバースデートゥーユーを歌い始め、歌が終わると、結菜さんがローソクの火を消した。


なんか嫌だ。

この光景なんか嫌だ!!

結菜さんが牛のお尻に息を吹きかけてる‥‥‥ヤダ!!


でも今が一番いいタイミングだと思い、僕はプレゼントを持って結菜さんに近づいた。


「結菜さん、プレゼントです!」

「開けていいですか!?」

「どうぞ!」


結菜さんは、小さい女の子みたいに、無邪気にプレゼントを開け始めた。


感情を隠しきれない、嬉しそうな表情に僕まで嬉しくなってしまう。


牛柄のマグカップを見た結菜さんは、ニコニコしながら大人達に自慢し始めた。


「見てください! 輝久くんからのプレゼントです!」

「よかったですね! お嬢様!」


お揃いってことを伝えたら、もっと喜ぶかな。


「結菜さん、それ二つ入ってるでしょ? 一つは僕のです!」


結菜さんは、想像通りますます笑顔になって、またマグカップを高らかと上げ、大人達に自慢し始めた。


「皆さん聞いてください! 輝久くんとお揃いです!」

「輝久さん流石!! 最高!!」

「当たり前です! 私の婚約者なんですから!」


なにそれ、なんか恥ずかしい。


「結菜さん、恥ずかしいよ」

「つい嬉しくなってしまいました」


続いて、お昼に買ったショートケーキを渡そうと思ったが、あんな凄い等身大ケーキを見せられた後だとな‥‥‥。


「あの、牛のケーキ見た後だとなんかヘボいけど‥‥‥ケーキもプレゼントです」


結菜さんは嬉しそうにショートケーキを見た後、携帯を取り出して、携帯のカメラで連写し始めた。


「結菜さん、撮りすぎです」

「食べたら無くなっちゃうんですよ!? いっぱい撮ります!」

「牛のストラップ、携帯に付けたんですね!」

「はい! もう失くしません!」


すると、宮川さんがカメラを持って話しかけてきた。


「二人とも、マグカップ持ってください!」


言われた通りお揃いのマグカップを持って、写真を撮ってもらった。


「はい、次! 輝久さん、結菜お嬢様にケーキをあーんしてあげてください!」


まさかのお願いに、結菜さんの顔が真っ赤になってしまった。


「宮川さん! そんな恥ずかしいことできません! 人が多すぎます!」


昨日皆んなの前でディープキスしといて、何言ってるのこの子。


「お嬢様! 記念ですから!」

「‥‥‥わ、わかりました」


なんとか、可愛い反応をする初々しい結菜さんにケーキを食べさせている写真を撮り終えると、芽衣さんが結菜さんにプレゼントを渡した。


「喜んでくれるか分からないけど、私からもプレゼント!」

「輝久くん以外からのプレゼントでは喜びませんよ?」


さっき牛のケーキに喜んでませんでした?

結菜さん?


芽衣さんが渡した袋を開けると、中には可愛らしい牛の着ぐるみが入っていた。


それを見て、喜ばないと言っていた結菜さんは目を輝かせている。

すると芽衣さんは、なにかを企んでいるようにニヤニヤしながら、結菜さんからプレゼントを奪ってしまった。


「まぁ、嬉しくないなら私が着るから返してー」

「ダメです! もう私のです!」


結菜さんは芽衣さんから牛の着ぐるみを奪い返し、また目を輝かせて着ぐるみを見つめる。


めっちゃ喜んでますやん!!


僕は、それを着ている結菜さんが見てみたくなり、思わず言ってみた。


「せっかくだから着てみたら?」

「はい!」


結菜さんは、着ぐるみを持ったまま自分の部屋に走っていった。


「芽衣さんのプレゼントも喜んでくれてよかったですね」

「うん! 本当、素直なんだか素直じゃないんだかね」


大人達が嬉しそうにしている時、美波さんはしょんぼり気味に座り込んでしまった。


「私もプレゼント買えばよかったー」

「ストラップ渡したじゃないですか」

「あれ、元々結菜のだし」

「でも、嬉しかったと思いますよ!」

「そうかなー、来年は絶対になにかプレゼントする!」


そうこうしてるうちに、結菜さんが戻ってきた。


牛の着ぐるみを着て、少し恥ずかしそうな表情を浮かべている。

こんな格好の結菜さん見たことなかったからか、めちゃくちゃ可愛い。


するて宮川さんが、またカメラを持ってやってきた。


「四人とも! 並んでください!」


僕達は、牛の着ぐるみを着た結菜さんを囲むように立ち、写真を撮ってもらった。

その後も宮川さんは、全員集合写真や、牛のケーキと結菜さんのツーショットや、ご飯を食べている僕達、いろんな写真を撮り続けていた。


最後に牛のケーキを食べて、今日の誕生日会は終わりだ。

宮川さん達が、協力して牛のケーキにナイフを入れると、牛のケーキから赤い液体が飛び出してきて、グロ耐性の無い僕は、思わず聞いた。


「宮川さん!? なんですかその赤いの!! グロい!!」

「これは苺ソースです!」


僕達四人は、あまりにグロテスクな光景に、お通夜の時みたいな表情になっていた。

その後、普通にケーキを食べたが、味は最高に美味しく、ヨーグルト風味のケーキにに苺ソースがかなりマッチしている。


そして無事に誕生日会も終わり、四人で結菜さんの部屋に戻ると、芽衣さんが結菜さんが着ている牛の着ぐるみのポケットを指差した。


「あ、そうだ、そのポケットに手紙も入ってるからね!」


結菜さんは手紙を取り出し、静かに読み始めた。

手紙を読み終えると、結菜さんは笑顔で芽衣さんを見つめる。


「ありがとうございます」

「でも、本当に本当だから!」

「分かってますよ」


その手紙に、何が書いてあったのかは僕には分からなかった。





今日は四人で結菜さんの家に泊まることになり、皆んなお風呂も済ませて、僕は結菜さんとベッドで寝ることになった。

ズボンに南京錠付けて寝たい気分だ。


寝る前にたわいもない話で盛り上がっていると、結菜さんは、どこからか芽衣さんと美波さんの布団を持ってきて、床に敷き始めた。


「二人はこれで寝てください」


すると、美波さんが押入れを指差した。


「私、押入れで寝てみたかったの! 押入れに布団持っていっていい?」


美波さんがそう言うと、芽衣さんもワクワクした様子で立ち上がる。


「私も!」

「いいですよ」


待って‥‥‥あの押入れって‥‥‥。


美波さんと芽衣さんは嬉しそうに押入れに布団を敷いて、押入れに入ってしまった。


すかさず結菜さんが木の棒で、押入れの扉を固定して開かないようにしている。


「結菜さん? なにしてるの?」

「二人の夜を邪魔されないためです♡」

「寝るだけですからね!」

「はい♡」


その笑顔、絶対信用できない。


部屋を暗くして、しばらく経った時、押入れから美波さんの声が聞こえてきた。


「この袋なんだろう」


美波さんの下に寝ていた芽衣さんの声も聞こえてくる。


「どうしたの? なんかあった?」

「黒い袋がある! 開けてみる!」


まてまてまて!

それはまずい!


僕が起き上がろうとした時、結菜さんが抱きついて足を絡めてきたせいで、身動きが取れなくなってしまった。


「行っちゃダメです♡」

「でも、黒い袋ってあれですよね!?」

「気にしないでください♡ 今は私に集中してください♡」


結菜さんが僕を抱き寄せたままキスをしてきた。

その時、押入れから2人の聞いちゃいけない音が聞こえてきた


『オロロロロロロ』


二人は勢いよく押入れのドアを叩き始める。


「開かない! ドア開けて!」

「開けてー!」


みなえもん‥‥‥めいえもん‥‥‥ご愁傷様です。

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