ディープキスと匂い

美波さんに話があると言われ、約束通り校門前にやってきくると、美波さんは待ち合わせの五分前に走ってやってきた。


「お待たせ!」

「髪似合ってますね!」

「ありがとう!」


僕達は学校から一番近い公園に行き、話をすることにした。


公園に着き、二人で公園のベンチに座るとら座ってすぐ、美波さんは立ち上がり、僕の前に立った。


「輝久、これ見て」


美波さんは、ボロボロになった牛のストラップを見せてきた。

なんだろ、この汚いストラップ。


「なんですか? これ」

「えっ!? お、覚えてない?」

「ごめんなさい、分からないです」


美波さんは、手に持ったストラップを僕の顔に近づけた。


「中学生の時! くれたでしょ!」


僕は思い出した。

中学生の時、公園で泣いてる同年代ぐらいの女の子にあげたんだった。

ちょうどこの公園の、今座っているこのベンチだった。


「それを持ってるってことは‥‥‥」

「そう! あの時の女の子は私だったの!」


僕は素直に驚いて立ち上がった。


「そ、それじゃ、あの日拓海君達に酷いことされそうになってたのも!?」

「もちろん私!」

「見た目変わりすぎでしょ!!」


あれ?女の子って、大きくなるだけじゃなくて、小さくなることもあるんだ。胸が。


美波さんは、いきなり僕に抱きつき、胸な右耳を当てた。


「輝久に好きになってほしくて、頑張ったんだよ」

「こ、こんなところ結菜さんに見られたらヤバイですよ!」


僕は美波さんから離れようとしたが、美波さんは強く抱きしめて僕を離そうとしない。


「離れないで」

「いきなりどうしたんですか!」

「あのストラップを貰った日から、ずっと輝久が好きだった。ずっとずっと! ご主人様とペットって関係もいいけど、やっぱり恋人がいいよ」

「そんなこと言われても、僕には結菜さんがいるし!」

「もう‥‥‥いいじゃん、忘れよ」


美波さんは、僕をベンチに押し倒してキスをしてきた。

パニクってキスをやめさせようとした時、そのまま僕の口に舌を入れ、濃厚に舌を絡めてきた。


こんな真昼間から公園のベンチで‥‥‥人が来たらどうするんだ‥‥‥。


(勢いで舌入れちゃったけど、輝久、受け入れてるよね。唾液が絡み合って‥‥‥すごい変な気分、やっぱり、輝久は私がいいんだ! 結菜に無理矢理付き合わされてるから、素直になれないんだ。好き‥‥‥好きだよ輝久。それよりこれ‥‥‥気持ちよくて頭がボーっとする)


口の中の温度だけで、チョコレートが溶けるような感覚に、自分の体温が上がっていくのが分かった。

美波さんの息遣いがダイレクトに伝わり、変な気分になる。

密着してるせいか、美波さんの鼓動が速くなっていくのも伝わってくる。

なんか‥‥‥もう、どうにでもなれ。


そう思った瞬間、僕の携帯に電話がかかってきて、その着信音で僕は我に返り、美波さんを押し返した。


「ご、ごめん! 電話出るね」


ベンチから立ち上がり、荒い息遣いのまま電話に出ると、結菜さんからの電話だった。


「もしもし、お久しぶりです」

「ひ、久しぶり」

「大丈夫ですか? 息が乱れてますよ。百メートルを全力で走ったんですか? ベッドの上で」

「それ伝わる人少ないから、それにそんなことしてません」

「そうですか。それより、美波さんが用事があるとかで、どこかへ行ってしまったんですよ。よかった今から私の家に遊びに来ませんか?」

「美波さん? 一緒にいたの?」

「はい、あんなことがあったので、最近は私の家に泊まってるんです」

「そ、そうなんだ、でも、僕も今外にいるから今日はちょっと‥‥‥」

「一人でですか?」

「う、うん、一人」

「それなら私がそちらに行きます。場所はGPSで確認するので、それではまた後ほど」


電話を切られてしまったと同時に、GPSのことを思い出させられて、全身に鳥肌が立ってしまった。


美波さんは顔を赤くして、ベンチに座りながら、ボーっとしている。


こんなことしてる場合じゃない!


「美波さん! 今からここに結菜さんが来ます! 一緒に居たらまずいですよ!」


美波さんは立ち上がり、焦った表情で言ったり


「えっ、結菜が!? わ、私帰るね! ストラップのこととか絶対に言っちゃダメだから!」


美波さんは、ストラップをズボンのポケットに入れて走って帰ろうとした。

その時、ポケットからストラップが落ちるのが視界に入る。


「み、美波さん! 落としましたよ! 行っちゃった‥‥‥」


僕はストラップを拾って、ひとまず自分のポケットに入れた。





しばらくして、結菜さんが公園にやってきた。

結菜さんは僕を見つけて、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「公園に一人ですか?」

「う、うん! 気分転換! それより、目の腫れも引いたみたいで良かったです」

「はい、もう痛くも痒くもないです! とりあえず座りましょうか」


二人でベンチに座ると、結菜さんは優しく手を握ってきた。


「輝久くん、覚えてませんか? このベンチ」

「え?」

「(覚えてないよね。牛のストラップさえ手元にあれば、思い出してくれるかもしれないのに‥‥‥)やっぱり忘れてますよね。ごめんなさい、なんでもないです」


結菜さん、いきなりどうしたんだろ。


ベンチに座りながら、結菜さんが僕との距離を縮めてくる。


「数日会わないだけで、今‥‥‥輝久くんが愛おしすぎておかしくなりそうです」

「僕も会えて嬉しいですよ!」


結菜さんが僕の頬にキスしようとして、顔を近づけてくるのが分かった。

だが、キスするスレスレで結菜さんは止まってしまった。


「美波さんの匂いがします」


匂い?確かに美波さん、フルーツみたいな良い匂いしたな‥‥‥。


「き、気のせいじゃないかな」

「お泊りをして分かったんですが、美波さんは必ず、朝風呂と寝る前のお風呂を欠かしません。嫌でも匂いを覚えます。これは確かに美波さんのシャンプーの匂いです」


結菜さんは僕の顔を優しく、結菜さんと目が合うように動かした。

キスする寸前だったこともあり、嫌でも目が合ってしまう。

その目は、結菜さんが怒った時の目だった。


「本当に公園に一人だったのですか?」

「あ、当たり前じゃないですか‥‥‥」

「嘘‥‥‥美波さんと何をしていたんですか? シャンプーの香りが移ってしまうほど密着していたのですか? 私に嘘をつかなければいけない理由は? 電話の時、息が荒かったのは‥‥‥何か理由があるんじゃないですか?」

「本当に‥‥‥なにも」


結菜さんは僕から顔を離して、普通にベンチに座り直した。


「そうですか、それより、美波さんの髪型似合ってますよね。とても可愛くなりました」

「そ、そうだね! すごい似合ってた!」

「ここ数日、ずっと私といた美波さんの髪をいつ見たんですか? 不思議ですね」


やばい‥‥‥思わずボロを出してしまった。

結菜さんを甘く見ていた。


「あ、あれ〜、いつ見たんだっけな‥‥‥」


結菜さんは僕を、不気味なほど淑やかな表情で見つめてくる。


「忘れたんですか? それじゃ私が教えてあげます。見たのはついさっきです」


ダメだ、もう嘘つけない‥‥‥完全にバレてる。


「はい‥‥‥そうです」

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